▲車にまつわるあるあるって、どんな心理が働いているのか? 心理学者の晴香葉子先生に聞いていきます ▲車にまつわるあるあるって、どんな心理が働いているのか? 心理学者の晴香葉子先生に聞いていきます

なぜ人は車に乗ると強気になる? 性格が変わる3つの要因

悲惨な事件がきっかけとなり、厳罰化の方向にある煽り運転。最近は、煽られたときの証拠を残すために、ドライブレコーダーを装備する人も増えているそうです。

報道されている事例を見ていると、サイコパスのような人格破綻者が理不尽に煽り運転を行っている印象を抱きますが、普段は穏やかな性格にも関わらず、ハンドルを握ったときだけ性格が変わる事例も多いのだとか。
 

▲読者の周りにも、煽り運転まではやらなくても、運転中にイライラしがちな人がいるのではないでしょうか ▲読者の周りにも、煽り運転まではやらなくても、運転中にイライラしがちな人がいるのではないでしょうか

じつは、運転中に性格が変わるのは、ある種、必然的な部分もあります。心理学者の晴香葉子さんによると「車の運転中は脈拍や血圧が上昇して神経が高ぶるので、感情的になりやすい」そう。しかも、車という存在自体が、性格が変わることに大きく影響しているらしいのです。

「車を運転すると性格が変わるという現象。心理学的には、主に3つの理由が考えられます」と晴香さん。そのひとつが、『ユニフォーム効果』です。

「キッザニアで消防士のユニフォームを着た子共は、振る舞いに強さが見られて勇気がでます。これは大人も同じ。制服を身につけることで、役割に沿った行動ができるようになります。車もユニフォームのように働くことがあり、頑丈でスピードが出る車に乗ると、自分も強くなったと感じて勇敢な気持ちや攻撃的な心理状態なる人がいます。その傾向は、軽自動車よりも高級車の方が顕著に表れます」

2つ目のポイントは、車は『プライベートな空間』であるから。

「車内はプライベートな空間。自宅の部屋で誰にも配慮しないように、車内でも自己中心的な考えになりがちです。外では悪態をつかないのに家では強気、そんな内弁慶な人もいますが、車内で車を自由に動かしているという状態は、自分本位になりがちです」

最後は『匿名性』

「車に乗っているときは、周囲のドライバーがどこの誰かわかりません。顔を凝視することも難しいでしょう。匿名性が高く、視線も気にならないので、つい配慮にかける行動が増えてしまいます」
 

高級車やデカい車が煽られにくいのは『ハロー効果』が働くから

この3つのポイントが重なって、車に乗ると性格が変わり、場合によっては、反社会的な煽り運転につながるのだといいます。では、煽ってしまうきっかけとはなんなのでしょうか。

晴香さんは「相手の運転方法に対する不満やいらだち。そして、車の状態に対する不満やいらだち」と分析します。

「運転方法に対する不満は、追い越しや割り込み、未熟な車線変更や度を超したのろのろ運転、急にスピードを緩めたりする迷いのある運転などです。自分の常識と照らし合わせて、“マナーがわかっていない”と感じると、煽り運転を行うきっかけになりがちです。また、眩しいフォグランプや荷物の載せ方、目立つ装飾など、相手の車の状態に不快感があると、煽るといった運転につながります」

晴香さんの分析からすると、煽り運転に遭わないためには「無理な追い越しや割り込みをせず、常識的な運転をすれば良い」ということになりそう。

しかし、世の中には全く別の常識をもっている人間がいます。自分では常識のつもりでも、相手からするとマナー違反と捉えられることも……。そんな世知辛い世の中で、煽り運転から身を守る方法はないものでしょうか。

「ひとつは、リアに装着するドライブレコーダーです。自分の運転とナンバーが録画されているとわかれば、普通の人間なら煽り運転をためらうでしょう。予防策のひとつになるはずです」

また、晴香さんは「乗っている車によっても、煽られないケースは多い」と指摘します。

「世の中には、カッとなって後先を考えずに行動する人もいますが、多くの人は、無意識に煽る相手を選んでいます。煽り運転とは、道路という空間で怒りや不満を感じて、闘いを挑んでいるようなもの。闘いを挑むからには、勝てそうか負けそうかの判断も本能的にしています。ですから“勝てそうもない”と思わせる車に乗っておけば、ある程度の煽り運転は回避できます。例えば、心理学には『ハロー効果』という言葉があります。これは、なにか評価するときに、ある目立つ部分の評価に引きづられて、別の項目も評価してしまう現象のことです」

黒くて大きくて、スモークが貼ってある車は、“強くて怖そう”だからドライバーも“強くて怖い人”なのでは? といった『ハロー効果』が働きがちなのだそう。

「現代は腕力や体格だけでなく、リッチさもパワーバランスを決める大きな要因になってきていますので、高そうな車も煽られにくいと思います。この車を煽ってなにかあったら高く付きそうだ、リスクの方が大きいかもしれない……。という判断が働くと、ムカッとしてもわざわざリスクを取らない傾向にあります」と晴香さん。

道路上のイライラが伝播してお互いの感情がヒートアップ

煽り運転にあわないためには、無理な追い越しや割り込みをせず、常識的な運転を心掛け、可能なら高級だったりイカつかったりという、ちょっと威圧感のある車に乗る。そして、なにより大切なのは、もし煽られても、対抗しないことだといいます。

「心理学には“感情伝播”という考えがあります。周囲からポジティブな感情表現を受ければポジティブな、ネガティブな感情表現を受ければネガティブな感情を抱きがちです。道路は公共のスペースなので、譲り合いが前提。しかし、先ほど話した3つのポイントなどから、つい他車に対して強気に出がちです。その強気の感情やイライラが伝播して、お互いヒートアップします」と晴香さん。

もし煽られたら、車線を譲るなどして相手にしないのが最善の策のようです。万が一、前方に割り込まれて停車されられ、相手が降りてくるといった事態になったら、鍵をロックして警察に連絡するなどして、然るべき処置を取るようにしてください。
 

【プロフィール】晴香葉子:作家・心理学者。早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師。企業での就労経験を経て心理学の道へ。研究を続けながら、様々な角度から情報を提供。執筆、講演、テレビ、雑誌などメディアでの心理解説、監修実績などの活動を続けている。著書は、『人生には、こうして奇跡が起きる』(青春出版社)、『2回目からは、スーツのボタンは外しなさい』(潮出版社)、『言葉って不思議だと思いませんか?』(彩雲出版)など30冊以上 【プロフィール】晴香葉子:作家・心理学者。早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師。企業での就労経験を経て心理学の道へ。研究を続けながら、様々な角度から情報を提供。執筆、講演、テレビ、雑誌などメディアでの心理解説、監修実績などの活動を続けている。主な著書に、『人生には、こうして奇跡が起きる』(青春出版社)、『2回目からは、スーツのボタンは外しなさい』(潮出版社)、『言葉って不思議だと思いませんか?』(彩雲出版)など30冊以上
text/コージー林田
photo/アフロ