▲この車のボディはFRP製。ドアがないので乗るときはこうやってまたいで乗り込みます。「文字どおり、ハードルだよ(笑)」 ▲この車のボディはFRP製。ドアがないので乗るときはこうやってまたいで乗り込みます。「文字どおり、ハードルだよ(笑)」

好きものが作った車は、好きもののところにやってくる!?

日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパーのMC、Boseが中古車情報誌『カーセンサー』にてお届けする人気連載「Bosensor」。カーセンサー本誌で収録しきれなかったDEEPでUNDERGROUNDな話をお届けっ!!

今回はケンズファクトリーにお邪魔した記事(関連リンク参照)の後編です。

編集部ゆきだるま(以下、ゆきだるま):Boseさん、前回はお店の秘蔵の車に夢中になっちゃったから、肝心のグシオの試乗ができなかったんですよ。今回は進行を考えてサクサク試乗してくださいね。

Bose:OK、わかったよ。じゃあ試乗前に今回初めてこの車を見た人のために簡単におさらいしておこう。ケンズファクトリーにあるグシオは先代フィアット 500をベースにした改造車で、意味合いとしてはミニのモークやフォルクスワーゲン ビートルのバハバグに近い車だと思う。というのも細谷社長が2年前にオークションで見つけて飛びついたけれど、日本にこれ1台しかないし世界中のWEBサイトを検索しても出てこないから、誰も素性がよくわからないんだよね。

細谷社長:Boseさん、ていねいな解説をありがとうございます(笑)。じゃあせっかくですから軽く走らせてみましょう。

Bose:へえ、チョークとスターターはシフトノブの後ろにあるんだ。おもしろいね。おっ、エンジンは一発でかかりますね。

細谷社長:じゃあ行きましょう!

▲軽く試乗させてもらっただけですが、異次元の感覚に興奮! ちなみにボディカラーはお店でオールペンし「リアスタイルがポルシェ 356に似ているからデカールを自作しました」(細谷社長) ▲軽く試乗させてもらっただけですが、異次元の感覚に興奮! ちなみにボディカラーはお店でオールペンし「リアスタイルがポルシェ 356に似ているからデカールを自作しました」(細谷社長)

現実感はないけれどおもしろい車なので……一度見に来てください!

ゆきだるま:Boseさん、試乗させてもらっていかがでしたか?

Bose:ちょー気持ちいい! 変な言い方だけど、ここまで現実感がない車は初めて乗ったよ。前には小さなシールドだけでフロントガラスがないから風をダイレクトに受ける。軽く走っただけなのにこれまで体験したことがないスピード感なんだ。

細谷社長:走行中の風が強いからゴーグルをしないとスピードを出すのは難しいですね。ベースとなっているフィアット 500自体がスピードが出る車でもないですし。ただエンジンは650ccにボアアップされているので楽しいですよ。

Bose:僕はMRの車に乗せてもらったことはあるけれど、RRは初めて。後ろから音が聞こえてぐいぐい押される感覚はおもしろいね。ちなみにこれって幌とかは?

細谷社長:ありません。トノカバーを付けることはできますが。

Bose:完全なオープンなんだ。ますます現実感がない(笑)。ドアもないから乗るときはボディをまたがないといけないのがすごいよね。しかも手を出せばすぐ地面に届いちゃいそうだし。ここまでむき出しの車って他にはスーパー7くらいなんじゃない?

細谷社長:遊園地のゴーカートみたいでしょう。たまにこれで近所を走るとすれ違う車から歩道の人たちまで、みんな振り返りますよ。

▲いろいろな意味でBoseさんの常識を打ち砕いたグシオ。利便性を求めるのは難しいですが楽しい車でした。ゴーカート感覚で乗りたい人、ぜひ! ▲いろいろな意味でBoseさんの常識を打ち砕いたグシオ。利便性を求めるのは難しいですが楽しい車でした。ゴーカート感覚で乗りたい人、ぜひ!


Bose:それにしてもこの車、いったいどんな人が見に来るんですか? まったく想像がつかない。

細谷社長:………………誰も見に来てくれません(泣)。うちに来てから2年ほど経ちますが、まったく問い合わせがないんです……。

Bose:えっ、そうなの? おもしろがって見に来る人はいそうだけど、それすらないってことはやっぱりとてつもなく高いハードルが目の前にあるんだ。ちなみにお店には売り物じゃない車もたくさんあるけれど、これもその一つってわけじゃ……。

細谷社長:違います。ちゃんとプライスボードを付けています。

Bose:屋根がないからガレージが必要だし、2人乗りで荷物がまったく載せられない。でも走るとおもしろいんだよな。世の中のスポーツカー好きで、でも奥さんから「スポーツカーはダメ!」と言われている人は一度家族でこの車を見に来るといいかも。あまりにもハードルが高いから、普通のスポーツカーがとても便利な車に見えると思う(笑)。

▲「不思議な車だよね」と隅々までマジマジ見るBoseさん。後ろにあるアウディ TTが大きく見えます ▲「不思議な車だよね」と隅々までマジマジ見るBoseさん。後ろにあるアウディ TTが大きく見えます

軽自動車を扱う堅実な姿と、変態度の高い車を扱う姿。本当の顔はどっち?

(ここで前回に引き続き、細谷社長のお父さんが登場です)

お父さん:僕はこの車、ブティックとかのディスプレイ用にいいと思うんだよね。

Bose:古いビートルや昔のハーレーなんかを置いているショップ、ありますよね。おもしろいかも。

お父さん:前にスマート クロスブレードを並べたときはブティックの人が買ってくれたもんな。あとベビーコブラ(スズキ カプチーノをベースに製造されたコブラのレプリカ)は焼鳥屋さんだった。

▲これが話の中に出てきたスマート クロスブレード。屋根はなくボディサイドには板のようなドア(?)があるだけ ▲これが話の中に出てきたスマート クロスブレード。屋根はなくボディサイドには板のようなドア(?)があるだけ


Bose:なんだ、グシオだけじゃなくて前から変わった車を扱っているんじゃないですか(笑)。クロスブレードやベビーコブラのハードルをぐんぐん高くしていくと、そこにグシオがいる。意味は一緒だよ。カーセンサーnetを見ていると軽1BOXや軽トラが多いのに、変わった車の話ばかり。どっちが本当の姿なんだろう。

細谷社長:どっちも本当です(笑)。

Bose:そんな細谷社長は今、何に乗っているの?

細谷社長:僕ですか? 今は1965年式のフォード マスタングコンバーチブルとシボレー カメオです。

Bose:うわっ、ビンテージのアメ車なんだ! また全然店と関係ないところが出てきた(笑)。だったらアメ車も扱えばいいじゃないですか。

細谷社長:いや、僕にとってアメ車は完全に趣味の世界。商売とはちょっと違うんです。

▲グシオのような変わった車もあれば、普通の軽自動車なども扱っています ▲グシオのような変わった車もあれば、普通の軽自動車なども扱っています

車以外にもデッドストックもののお宝がたくさん!

ゆきだるま:ねえ、Boseさん。実はBoseさんがグシオに試乗している間、お父さんがおもしろいものを見せてくれたんですよ。ほら、あれ。

▲40~50代の人にとってこの自転車はすごく懐かしいでしょう。奥にある赤いホンダ ダックスは1969年式だそうです! ▲40~50代の人にとってこの自転車はすごく懐かしいでしょう。奥にある赤いホンダ ダックスは1969年式だそうです!


Bose:うわ~懐かしい! 僕らが子供の頃に乗っていたブリヂストンの自転車じゃないですか!! この変速機、いいよね。これは違うけれどスーパーカーライトが付いている自転車もあったんだよな。最近、この時代のデッドストックものを集めている若い子が増えていてさ。たまに乗っているところを見るけれど、すごくカッコいいんだよ。

お父さん:隣のやつは未使用ですよ。ちなみにブリヂストンのやつは後ろのウインカーがなくなっちゃっているんでオークションで探している最中です。

Bose:よく見たら店の中はホンダ モンキーだらけだし仔猿(世界最小の4サイクルバイク)もあるじゃん。そしてこっちにはホンダ ダックス! 僕、ダックスに乗ってましたよ。これ、全部売りものなんですか?

細谷社長:売り物だったり、売り物じゃなかったり……(笑)。

Bose:これってお父さんの趣味でしょ? 相当変わってるけど、自分の好きなことをとことん楽しんでいる感じが伝わってくるよ。趣味に生きている感、羨ましいね。そして息子がその影響を受けて、やっぱりおもしろいことをやっている。最高だね!

text/高橋 満(BRIDGEMAN)
photo/篠原晃一