▲2015年第1四半期(4-6月)連結決算では、売上高は前年同期比+9.3%増の6兆9876億円、営業利益は同+9.1%増の7560億円、純利益は同+10.0%増の6463億円と好調だ。写真は取締役社長の豊田章男氏 ▲2015年第1四半期(4-6月)連結決算では、売上高は前年同期比+9.3%増の6兆9876億円、営業利益は同+9.1%増の7560億円、純利益は同+10.0%増の6463億円と好調だ。写真は取締役社長の豊田章男氏

トヨタ躍進の根底にあるムダを排除する考え方

2015年3月期の決算において、2兆1733億円の純利益を叩き出し、日本の企業として初めて2兆という大台を突破したトヨタ。連結売上高は27兆2345億円とギリシャのGDPを上回るほど。あまりに数字が大きすぎてピンとこない……。

しかし、売り上げ高だけに目を奪われていては、トヨタの本質を取り違えてしまう。注目したいのは収益性の高さだ。ポルシェやスバルなどトヨタよりも利益率が高い自動車メーカーは存在するが、販売台数が全く異なる。

そこで、トヨタと同規模で1000万台前後を販売するVWと比較してみよう。VWの売上高営業利益率は6.4%、一方のトヨタは10.4%。ちなみに、全産業の売上高営業利益率は3%前後と言われている。

この収益性の高さを支えているのが「トヨタ式生産方式」だ。自動車業界に詳しくなくても、ビジネスマンならば一度は耳にしたことがあるキーワードかもしれない。しかし、内容まで理解している人は意外と少ないのではないだろうか。

トヨタ式生産方式は、トヨタ自身がホームページで「ムダの徹底的排除の思想と、造り方の合理性を追い求め、生産全般をその思想で貫き、システム化した生産方式」と位置づけている。

トヨタが考えるムダとは次の7つだ。

・つくりすぎのムダ
・手待ちのムダ
・運搬のムダ
・加工そのもののムダ
・在庫のムダ
・動作のムダ
・不良をつくるムダ

トヨタ式生産方式はこのムダを排除するためのものである。そのための方法論が「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」だ。

自働化とは「異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らない」という考え方。トヨタでは自「動」化でなく、ニンベンの付く自「働」化と表現している。現在ではその考え方をさらに進め、100%良品しか作りださないモノづくりを目指している。

一方、ジャスト・イン・タイムは「必要なものを、必要なときに必要な量だけ、流れるように停滞なく生産する」という考え方だ。リードタイム(発注から納品までに必要とする時間)の短縮に加え、サプライチェーン(原料の調達から販売までの製品の全体的な流れ)のリスク対応にも有効に作用する。

「なぜ」を5回繰り返すトヨタ式の思考方法

トヨタ生産方式には、もうひとつ有名なキーワードがある。「カイゼン(改善)」だ。製造業の生産現場が中心となって行う作業の見直し活動のことで、世界中の製造業がこの思想を取り入れ、カイゼンは英語圏でも通用する言葉となっている。

トヨタでは生産現場はもちろんのこと、全社員が「常に現状に対する問題点を意識して、見つけたらすぐにカイゼンする」という考えを叩きこまれるという。

その際に使われるのが「なぜなぜ分析」。これは、ある問題に対して「なぜ」を5回繰り返すことで、現象をしっかりと捉え、真の原因にたどりつき、本当の問題をカイゼンするというものだ。これは、ビジネスのみならず、人生においても有効な思考法と言えるだろう。

▲余談だが、以前、航空機メーカーの「ボーイング社」の日本支社長に話を聞く機会があったのだが、やはり「カイゼン」の薫陶を受けたという話で盛りあがったことがある ▲余談だが、以前、航空機メーカーの「ボーイング社」の日本支社長に話を聞く機会があったのだが、やはり「カイゼン」の薫陶を受けたという話で盛りあがったことがある

現在、トヨタといえば「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」が話題になっている。新車開発の新たな設計手法で、プラットフォームや部品の共通化だけでなく、グローバル標準への取り組みや調達戦略の改革なども含まれる。この「TNGA」と、進化する「トヨタ生産方式」。今後、トヨタから発表される新車が楽しみである。

▲新型プリウスはTNGAのプラットフォームが採用される最初の車となる ▲新型プリウスはTNGAのプラットフォームが採用される最初の車となる
text/笹林司