▲「お互いのラインナップで欲しい車は?」と聞かれトヨタの豊田社長は「ロードスター」、マツダの小飼社長は「86」と即答。豊田社長はマツダに対し「走らせてつまらない車は絶対に作らない会社」だと評し、小飼社長は「スカイアクティブ技術や鼓動デザインも、この提携でさらにレベルアップしたい」と意気込んだ ▲「お互いのラインナップで欲しい車は?」と聞かれトヨタの豊田社長は「ロードスター」、マツダの小飼社長は「86」と即答。豊田社長はマツダに対し「走らせてつまらない車は絶対に作らない会社」だと評し、小飼社長は「スカイアクティブ技術や鼓動デザインも、この提携でさらにレベルアップしたい」と意気込んだ

2社が接近し始めたのは、実は25年も前から

記者から「まるで結婚会見のようだ」と投げかけられると、トヨタの豊田社長は「結婚ではなく、婚約だ。今はお互いのいいところしか見えていない、とてもいい時期」と即座に返した。

急きょ開かれた、トヨタとマツダの「業務提携強化へ向けた基本合意」の発表会。例えばトヨタならBMWと燃料電池車やスポーツカーを開発するとした提携を、またマツダは同社のロードスターをベースとしたアルファロメオ スパイダー(正式名称は不明)の開発と製造をするという。グローバルでの競争が激しくなっている昨今、提携はもはや珍しくないが、今回は異例だ。

何しろ具体的に何を作るかという「成果物」については、今のところ何も決まっていない。「もっといい車づくり」をするという、目標しかない。例えるなら、婚約会見で「私たち、いい子を産みます!」と宣言だけしているようなものだ。またトヨタとスバルが行ったような資本提携もない。「(トヨタは)大きな財布役ではない」と豊田社長はお金目当ての婚約ではないことを強調する。

2社が接近し始めたきっかけは、実は今から25年も前の1990年だと豊田社長はいう。トヨタの社員がマツダの工場へ見学に行った際、販売前の新型車の製造ラインを、ライバルであるトヨタに見せてくれたそうだ。また豊田社長が社長就任の挨拶にマツダを訪れた際、通されたのは役員室や会議室ではなく、テストコース。レーシングスーツ姿のマツダの社員に「モリゾウ(豊田社長の愛称)さん、どうぞお好きな車を何台でも、思う存分乗ってください」と言われたという。

最近になってマツダがトヨタからハイブリッドシステムの供給を受けたり、マツダのメキシコ工場でトヨタの小型車製造を行うなど“お付き合い”は次第に深まり、25年間の恋はついに婚約に至った。

お互いの似ているところを聞かれると、件の「もっといい車づくり」への姿勢のほか、地元を大切にするところだという。豊田社長は「グローバル展開する中で“ふるさと”が車の隠し味になる」とし、小飼社長も「この提携を通じて、地域産業の発展に繋げたい」と、いずれも“ふるさと”の大切さを強調する。

「愛車という言葉があるが、工業製品に“愛”という言葉が付くのはそう多くはない」と豊田社長。だからこそもっと魅力のある、「どうしてもこの車が欲しい」と誰からも思ってもらえるような車を作りたいと言う。またこの提携が「次の100年も車は楽しいというメッセージ」になればいいとも。

そのためには、技術提携など現場でのあらゆる協力はもちろん、社員の育成にも一緒に取り組むと豊田社長。小飼社長も「人材が育つことが大きな成果になる」と語る。

次期スープラと噂されるBMWとの共同開発車と86の間を埋めるポジションのスポーツカーといった「成果物」ではなく、「いい子」とは次世代を担う社員のこと。だからこそ、この先100年も車が楽しくなる。車のこれからを築く人材の育成が、案外この提携の大きな意義なのかもしれない。

text/ぴえいる