▲9月某日に取材の機会を得たとある自動車イベントがいろんな意味でおもしろかったので、ご紹介したい▲9月某日に取材の機会を得たとある自動車イベントがいろんな意味でおもしろかったので、ご紹介したい

「カニ目」と「アウディ A4」が
普通に同居する若者主催イベント

いきなりだが、まずは下の写真をご覧いただきたい。

Photo:早川佳郎

オースチン ヒーレー スプライトMk1。

言わずと知れた往年の英国製ライトウェイトスポーツであり、旧車系のイベントなどでしばしば、50代か60代ぐらいのシブい紳士が乗っているのを見かける車種だ。

だがこの個体の持ち主は「50代か60代ぐらいのシブい紳士」ではなく、弱冠24歳の青年である。

また下の写真も、続いてご覧いただきたい。

Photo:早川佳郎

マットブラックに塗装された旧型アウディ A4。

この場合はちょっとイケイケな感じのカスタマイズが施されているため、「オーナーは若い男性かな?」という予想はつけやすいかもしれない。

確かに、このA4の持ち主も24歳の青年だ。

しかしこの写真は、この種のカスタマイズを愛好する青年たちが集うミーティングで撮影したものではない。上のオースチン ヒーレー スプライトが参加したのとまったく同じ自動車関係ミーティングの会場で撮影したものである。

「どシブいカニ目(オースチン ヒーレー スプライト)と、ちょっとやんちゃなA4が混在しているミーティング」というだけで、既成概念で凝り固まった中年男、すなわち筆者の頭の中は疑問符だらけになるわけだが、さらに続いてこんな車も、その会場にはごく普通の顔をして並んでいた。

Photo:早川佳郎

1994年式の日産 サニートラック、通称「サニトラ」だ。20歳の学生さんが所有している。

……このようなニュアンスで、車の国籍も年代も完全にバラバラで、しかも嗜好(シブくて古いのが好みだったり、派手めの新しいのが好きだったりという、参加者それぞれの好み)も完膚なきまでにバラバラなのに、なぜか今、主に20代の若者の間で大いに盛り上がっている自動車イベントがある。

そのイベントの名前を「ゆーるピアンミーティング」という。

30台から始まったイベントが、気づいてみたら300台超に

「ゆーるピアン」という語感はヨーロピアン(European)に似ているため、「欧州車中心のイベントかな?」との第一印象をもつかもしれないが、前述のとおりそうではない。

「国や年代等のジャンルはいっさい不問。車好きなら全員ウェルカム!」というのがこのイベントの基本姿勢だ。

ゆーるピアンミーティングの運営主体は、24歳の鈴木喜裕さんを中心とする20歳前後から20代半ばぐらいまでの若者たち。発端は、2015年1月に行われた電車内での会話だった。

車と同時に音楽も愛好している鈴木さんと、当時一緒にバンドを組んでいた友人の上野さん(こちらも車好き)が、練習スタジオから帰る電車のなかで「なんかさ、車の方でもこんなゆるい感じで集まれたら楽しいだろうね」という趣旨の話をした。

「うん、そうだね」ということで、その話はゆるいながらも素早く進行。翌2月にはさっそく都内某所にて「第1回ゆーるピアンミーティング」が開催された。

▲こちらが主催している皆さん。右から3番目が鈴木さん、4番目が上野さんだ ▲こちらが主催している皆さん。右から3番目が鈴木さん、4番目が上野さんだ

TwitterなどのSNSで告知しただけだったが、約30台の新旧・国籍・年代すべて不問の車とそのオーナーが集結した。大半が、彼らと同世代の「若い車好き」だった。

「楽しかったね」
「うん、そうだね」
「またやろっか?」
「うん、やろうやろう」

……という会話内容だったかどうかは知らないが、たぶんおおむねそのような感じで第2回ゆーるピアンミーティングが箱根のターンパイクで開催され、その後は横浜港のシンボルタワーで何度か開催された。

しかし参加者が増え続けてそこもキャパオーバーとなり、お次は100台収容できるカー用品量販店の駐車場を借りて何度か開催。

だがそこにも130台ぐらいが押し寄せてしまう流れとなり、「さすがにもう無理だ」ということで前回から、会場は長野県茅野市の車山高原に移っている。

そして車山高原では2回目となる今回のミーティングには、300台以上の新旧様々な(主には古めの)車が参加。筆者が見た限りでは、参加者の97%ぐらいは「10代から20代ぐらいのお若い人たち」であった。

Photo:早川佳郎

「古い輸入車」が好きなのではなく「車」が好きなんです

「ゆーるピアンミーティング」の何が、若い車好きたちにそんなにもウケているのか? そして主催者たちは何を考え、何を求めているのか? そのあたりの話を、運営メンバーたちに聞いてみた。

「求めているというか……この居心地の良さみたいなものが好きだからやっているだけなんですよね。僕らは場所を提供しているだけで、特に何かを仕切っているわけではないですし」

そう語るのは、代表的立場(決して「代表」ではない。このあたりも良い意味でゆるい)である前出の鈴木喜裕さん。

「さすがに参加車両の誘導とかは責任を持ってやりますけど、あとは何もしません。僕らからのミーティング開始のあいさつとか、シメの言葉とか、そんなのもぜんぜんないですし(笑)」

確かにゆーるピアンミーティングはなんとなく始まり、なんとなく終わる。自動車系ミーティングではお約束の「え~本日は遠くからお集まりいただき云々かんぬん」という主催者あいさつもないし、ありがちな「じゃんけん大会」もない。

Photo:早川佳郎

「それでいいと思うんですよ。年齢も車種も何かもかも不問で、ただただ『自分、車が好きなんですよね』という気持ちと時間さえ共有できたら、それだけでもう十分以上に楽しいじゃないですか」

なるほど確かに、そう言われてみればそうかもしれない。

「ですよね? 車種や年代をいっさい不問にしているのだって、僕ら自身が、今乗っている車だけじゃなくていろいろな車が好きだからなんです」

そう語るのは、運営メンバーのひとりである本田さん。

「もちろん今乗っているシトロエン BXは大好きですけど、国産のちょっと古いやつだって好きだし、逆に最新世代の国産車や輸入車にも興味があります。車が好きな人ってそういう場合が多いと思うので、無理に“○○しばり”とかにする必要もないんじゃないかな? って思うんですよね」

……今日はお若い人たちから教えられてばかりである。

言われてみれば本当にそのとおりだ。筆者も今、興味があるのは70年代のシトロエン GSと最新のDS7クロスバック、そしてスバル XVの最新e-BOXER搭載グレードだし。

最近のお若い方におおむね共通している「良い意味でゆるい。でも意外といろいろなことをちゃんと考えている(筆者世代よりよっぽど優秀)」という特質が、なんとなく垣間見えたゆーるピアンミーティングの運営メンバーたち。

では、そこに集まる参加者=今どきのお若い車好きたちは、どのような車に、どのような考えで乗っているのか?

これについては、長くなったので次回、ご紹介したい。

text/伊達軍曹
photo/早川佳郎