スズキ ジムニーの電動化に挑み続けて20年! 四駆界の冒険家が思い描く夢とは
2020/11/06
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
ジムニーへの思い入れは人一倍!
四輪駆動車愛好家には、一風変わった車との付き合い方をしている人が多い。自走での世界一周旅行に挑戦したり、廃棄されたサラダ油で走る仕様に改造したり……とにかくいろんな人たちがいる。
京都に住む鈴木一史さんは、そうした四駆界隈においても、ひときわ異色な人物だ。40年近くも前のジムニーを、仲間とともに電気自動車へとコンバート。しかも、手作りのEVジムニーで、南極点へのゼロ・エミッション到達を目指そうというのである。彼がそんな発想にいたった経緯は……。
車輪が付いているものなら何でも来い?
鈴木さんが冒険に目覚めたのは、まだ免許を取っていない中学生の頃。鉄道で全国を旅して回るのが好きだった。
「冒険っていうより、当時はただの放浪癖ですよね。中学で鉄道愛好会を作って、周遊券(現在の青春18きっぷに相当)で日本中を巡っていました」
二輪の免許が取れる年になったら、バイク遊びに目覚めた。車で悪路を走る楽しさと出合ったのも、その頃だ。仲間がバイクを載せて運ぶトランスポーターとして使っていたハイラックスでオフロードを走ったところ、これが思いのほか難しく、四輪で悪路を走る奥深さを知る。
「コースの中を走るのも楽しかったですけど、僕はやっぱりスタートとゴールのある旅、クロスカントリーするのが好きで。旅程が1万kmあるとして、その途中にもしも崖があったら、そこを越えていかなきゃゴールにたどり着けんでしょ。四駆でオフロードを走る技術にどんどん、のめり込んでいきました」
世界のオフロードで通用するからジムニーを選んだ
ジムニーとの最初の出会いは、23歳のときに中古で購入した2代目ジムニーSJ30型だ。ジムニーを選んだのは、コンパクトさ&軽さに由来する機動力の高さ、世界中のどの本格四駆にも負けない悪路走破性の高さ、そして1分の1ラジコン感覚でイジれる構造のシンプルさに引かれてのことだった。
「オフロードに走りにいくと、どうしても車が壊れる。それを直すうちにメカニズムにも強くなる。やっていることはその頃も今も、ずっと変わらないですね」
“冒険”をテーマにしたオフロード競技会「アイアン・バール・カップ」も立ち上げた。運転技術はもちろん、知識、アイデア、体力など、冒険に必要なあらゆる要素を盛り込んだユニークな内容だ。そのとき出会ったオフロード仲間たちとは現在も親しくしている。
このままのスタイルで本当にエエの? と疑問を抱く
しかし、あるとき転機が訪れる。東南アジアのジャングルで行われた国際競技会に参加したときのことだ。
「日本人で海外のジャングルを走れる機会はそうそうないので、楽しいのは楽しかったんですけど、渡河する場面でマフラーから出た排気ガスのすすやらオイルやらが川を汚しているのを見たとき、『こんな遊びは将来的に長く続けられないな』と思ったんです」
これからのモーターライフは環境問題と切り離して考えることはできない! そう感じた鈴木さんは、電気自動車でオフロードを走ろうと思いつく。本格四駆EVは市販されていなかったので、自ら手作りでジムニーを電動自動車化するプロジェクトを始動。
仲間とともにゼロ・エミッションでの冒険を目指すチーム「ZEVEX」を立ち上げた……というのが、自作EVジムニーを作り上げるに至ったザックリした経緯だ。
最初に作り上げたのが、ここで登場している「SJ2001号」。もともと載っていたエンジンをモーターに換装した。約20年の活動を経てメカニズムは熟成を重ねており、つい最近、日産リーフなどに採用されているのと同じ、急速充電にも対応。満充電で100km程度の走行が可能となっており、オフロードはもちろん日常ユースでも十分使用可能な実用性を備えている。
「これは我々もマシンができてから体感したことなのですけど、オフロード、特に極悪路を走破するのには、エンジンよりもモーターの方が断然扱いやすいんですよ。超低速域から超大トルクが出せますからね。クラッチペダルが付いていますが、半クラは必要ないですし」
ちなみにこのマシン、所有者名義は鈴木さんでなく、ZEVEXのチームメンバーである斉藤隊員。写真に写っているガレージも斉藤隊員のご自宅! 献身的なチームメンバーが集っているのは、ZEVEXの活動テーマと鈴木さんの人柄に引かれてのことだろう。
チームの目標は、「ゼロ・エミッション・ビークルでの南極点到達」。もし実現できたら、世界初の快挙となる。2005年にはその予行演習として、冬期の間だけ凍結する間宮海峡横断にチャレンジ。EVジムニーと風力発電機などの設備を現地に運び、再生可能エネルギーで充電しながら氷原の横断を目指そう、というテストだった。
ところが、大氷原の真ん中で現地の荷運び屋に突如裏切られ、「追加料金を払わなければ、俺らここで帰っちゃうよ」と脅される……という海外冒険の厳しさを味わうハメに。だがマシンの実力は十分にあることが確かめられ、南極への手応えをつかんだ。
なお、現在チームが所有、維持管理しているEVジムニーはなんと5台。中には、ペダルをこぐことで“人力発電”できるようにした。風変わりな仕様まである。近い将来、南極点にアタックする大本命のマシンだ。
ありのままの地球に最も近い場所を探し求めたら……
それにしても、何が彼を、彼らを冒険へとかき立てるのだろうか? そこまで環境性能にこだわるなら、むしろ四駆に乗らない方がいいんじゃない? 「今、環境問題といえばCO2排出量削減に話題が終始していますが、その問題もいつの日か解決されるときが来る。それが50年先なのか、100年先なのか僕には分かりませんけれども。
そのとき、次に問題になるのが、道路から生じる環境負荷だろう、と予想しています。四駆なら、道が舗装されていなくても走れるやないですか? その視点に気がついて、いち早く活動していた変な団体がいた……ということに後の世代の人たちが気づいて、将来の課題解決に少しでも貢献できたらいいな、と期待しているんです」
なるほど、ありのままの地球表面を走れる場所を探したら、南極に行き着くというわけかっ! あまりにも壮大なストーリー。だが、彼らは大真面目に南極を目指しており、視線の先にはCO2問題が解決した先の未来がある。
鈴木さんにとってはジムニーも、オフロードを走るための技術も、冒険に不可欠なツールなのだ。いわゆる車好きとはちょっと違うかもしれないけれど、そんなモーターライフも格好いい!
鈴木一史さん&ZEVEXのマイカーレビュー
スズキ ジムニー(SJ30型)
●年式/1981年式
●グレード/SJ30F(EVコンバート済み)
●マイカーの好きなところ/ドアも屋根も無いので、ダイレクトに花鳥風月を愛でながらのドライブができること。
●マイカーの愛すべきダメなところ/快適装備は何も無いので、暑さにも寒さにも負けない根性が要ること。
自動車ライター
田端邦彦
自動車専門誌で編集長を経験後、住宅、コミュニティ、ライフスタイル、サイエンスなど様々なジャンルでライターとして活動。車が大好きだけどメカオタクにあらず。車と生活の楽しいカンケーを日々探求している。プライベートでは公園で、オフィスで、自宅でキャンプしちゃうプロジェクトの運営にも参加。
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