徹底的な話し合いの末に完成した低予算ガレージハウス【edge HOUSE】
カテゴリー: カーライフ
タグ: EDGEが効いている / ガレージハウス
2017/04/03
10年越しに叶ったDIYガレージハウス|建築家・松永基(エムズワークス一級建築士事務所)
ガレージハウスを建てたいけれど、限られた予算のなかでガレージにコストはかけにくい……。そんな思いで二の足を踏んでしまっている方は少なくないはず。今回ご紹介するT邸は、10年来抱き続けてきたガレージハウスへの思いを、ひとりの建築家との出会いによって実現できたという好例だ。
場所は横浜市港南区。横浜市のなかでも丘陵地帯が多い地区で、古くからの住宅街が存在する。その一角に位置するT邸は、広い間口をもったガレージを1階に備える。グレーのサイディング張りの壁面をもつ建物は、前面道路からはちょうど車の車幅分ほどセットバックしている。
正面のシャッターが音もなく開くと、中からはW211型メルセデス・ベンツ Eクラスが現れた。ガレージ内部の幅は小さい車なら2台分ほどだが、贅沢にもその中央にメルセデスが鎮座している。ガレージ内で気を使わずにドアが開閉できることは、じつに嬉しい。左右の壁面には、施主のTさんが子供のころからコレクションをしていたというフィギュアやぬいぐるみなどが飾られ、加えて車やオートバイのメンテナンス用品、デザイン関連書籍などが並ぶ。じつはTさんは、化粧品のパッケージなどのデザインを手掛けるグラフィックデザイナー。整然と並ぶ小物たちにも恐らく意味があり、こだわりや計算のうえにレイアウトされているのだろうと、しばし観察。ガレージ後方にはソファセットと、学生時代の愛車だったというYAMAHA SRが並んで置かれている。現在不動状態だが、「いつかレストアをして走らせたい」とTさん。見上げると、天井からは2枚のサーフボードが吊り下げられている。これに加えてSUP(スタンドアップパドルボード)を鎌倉・材木座海岸に置いてあり、7歳になるお嬢様とともに楽しんでいるという。このガレージは、単なる車置き場ではなく、多趣味なTさんの「非日常へスイッチ変換をする空間」という印象だ。
設計は松永基さんが手掛けた。松永さんは小誌でもお馴染みの建築家で、ランチア・モンテカルロとシトロエンBXをこよなく愛するカーガイだ。Tさんは、松永さんが出演するTV番組を偶然目にし、ぜひ設計をお願いしたいと事務所に連絡をとったという。
「年上の方に失礼なんですけど、最初からとてもウマが合いました。私にも友達感覚で接してくれる人間性や、趣味に対する感性も似ていました」とTさん。
松永さんに出会うまでに、10年ほどガレージハウスに対する思いを温めていたTさんだが「もともと予算が少なかったので、住宅メーカーに相談した際には、ほとんど門前払いでした。建売住宅を勧められたり、ガレージハウスについて話をしてもピンとくる回答が得られることはありませんでした」と、不毛な時間を過ごしていた。
しかし、松永さんに出会ってからは、「たくさん質問をして、たくさん教えてもらいました」と、当時を思い出して目を輝かせる。10年近く抱いていたモヤモヤを、松永さんに対して一気にぶつけた……というところだろうか。
10万円削減できる箇所を10カ所探せば100万円のコストダウン
「松永さんのオフィスで1年間、週に1回ビッチリ話し合いを行いました。もともと予算が少なかったのですが、汎用性のあるもので見栄えのよい材質を選んでもらったり、最後までしっかり付き合ってもらいました」と、Tさん。低予算でガレージハウスを建てたいと考えている読者に対してアドバイスするなら?
「建築家の方にしつこいぐらい食らいついて、とことんディスカッションをすることです。そして自分でも勉強をして、こんな情報を見つけたけどどうでしょう?……と質問することも大切です」
松永さんとの話し合いで、印象に残っていることは?
「理想を形にしようとすると予算オーバーになってしまうので、1カ所10万円コストダウンできるところを10カ所探せば100万円の削減になる。そのポイントがなくなったら、今度は1万円下がるところを探していけばいい……と教えてくれたことが、とても印象に残っています」
その一例として、ガレージ内部の壁面と天井に張られたウッドパネル張りは別途工事としてTさんが発注。さらにブルーで彩られた壁柱は、Tさん自ら手掛けた部分だという。少しレトロな雰囲気をもつ淡いブルーは、ガレージの雰囲気にも合っているようだが「通勤にも車を使用するので実用性を重視してEクラスに乗っていますが、もともと旧車が好きで数台乗り継いできました」
レトロなワゴンにサーフボードを積んで湘南へ……とても絵になるライフスタイルを送っていたTさんだが、この色合いは、「 以前イギリスのオックスフォードへ行ったときに、とあるSOHOハウスがこの色をブランドカラーにしていたんです」
それをヒントに自宅ガレージにエッセンスとして採用するあたりは、さすがグラフィックデザイナー。松永さんはTさんに対して「ガレージ奥の遊びスペースは、Tさんとの話し合いのなかで生まれた空間です。サーフィンやSUPなど共通の話題から、こんなスペースがあったらいいよね……といったように。しかし、竣工当時は予算の都合もあって、ガレージはスケルトン状態でした。その後、訪れるたびにいろいろな遊び道具が整理され、棚ができ、面白グッズが並べられていきました。その都度進化していくガレージが楽しかったですね。今では、共通の楽しみは海遊びからボルダリングにまで広がり、一緒に楽しんでいますよ」
すでに、建築家と施主という関係を超えてプライベートタイムを共有するお二人。持ち出しゼロで可能な新たな家造りの計画が、すでに始まっているとかいないとか……。
【施主の希望:2台格納は断念。そのぶんゆとりあるガレージに】
■もともとは車が2台格納できるガレージを希望していたようだが、そのためにはより広いスパンで空間を作る必要があり特殊工法となってしまう。それは予算の兼ね合いで断念し、ガレージ内に1台、外に1台となった。また、施主はサーフィン、オートバイ、自転車など多趣味であり、子供のころから集めていたというフィギュアなどのコレクションも量が多いため、それらを1カ所にまとめられる空間という点もガレージハウスの目的となっている。
【建築家のこだわり:省コストでもリッチな雰囲気に仕立てる工夫を】
■「全体的には、省スペースの3階建てでも充実したガレージライフが過ごせるように工夫をしています。例えばガレージ部分では、構造体である壁を利用して趣味のグッズやアイテムを収納できるスペースとしました。その他には、予算管理を行い省コストでもリッチなテイストが感じられるようにしました。タイルを張るにしても陰影をつけたり、壁紙にも陰影をつけたりしています。予算的に厳しくても、これだけのインナーガレージは可能です」
■主要用途:専用住宅
■構造:木造3階
■敷地面積:79.78平米
■建築面積:47.84平米
■延床面積:140.56平米
■設計・監理:エムズワークス一級建築士事務所/松永基
■TEL:045-680-5339
■http://www.msworks-arch.jp
【関連URL】
※カーセンサーEDGE 2016年9月号(2016年7月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
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