U邸・趣味を最優先したオモチャの家+田中義章|EDGE HOUSE

映画「TAXI」をイメージした住居付きガレージ

人通りの少ない住宅街の一角に、ショップ?と錯覚するような1軒が。VWの専門ショップ? アメリカン雑貨店? そこは、ガレージと趣味のスペースを最優先した民家だった

ひと目惚れしたタイプⅡのために一戸建ての建設を決意

おもちゃ箱をひっくり返したような…という表現はよく耳にするが、今回訪れたガレージハウスは、まさにそれが当てはまる。いや、失礼。ひっくり返したというと語弊がある。おもちゃ箱の中の宝物は、すべて整然と飾られ丁寧に保管されていた。

千葉県野田市にあるU邸は、主要国道から少し入った閑静な住宅街にあった。約50坪の敷地面積をもち、前面は広いパーキングスペースのために奢られている。大きくセットバックした建物は、一見すると1階にガレージを備えた瀟洒な佇まい。

そもそも、Uさんが今から5年前に自邸を建てようと思い立ったのは、「それまで住んでいた賃貸住宅の室内が、自転車などで溢れてしまったから」だという。

「すべてDIYでした。自転車を置く棚などは単管パイプを使って作りましたし、床を傷めないようにフローリングの上にフローリングを敷いたり…(笑)」

そんなUさんに、どうしてもガレージ付きの家が必要になるときがきた。それは、VWタイプⅡとの出会いだ。

「渡米した際に、タイプⅡのパネルバンにひと目惚れしてしまいました。それからというもの、パネルバンしか興味がなくなり、やっと6年前に手に入れました」

めでたく憧れの車との生活が始まったのだが、タイプⅡの維持にはガレージが必須だということに気付き、急遽自邸を建てることを決めたというわけだ。

U邸を設計したのは設計者の田中義章さん。田中さんはスターディ・スタイルという建築デザインの会社に在籍するデザイナーで、ガレージハウスをはじめさまざまな住宅を手掛けている。自邸の新築を検討し始めたUさんは、スターディ・スタイルのホームページを見て田中さんと出会った。

その後、オープンハウスを見るなどしてこの企画が始動した。設計にあたりUさんは、「車と一緒に生活を楽しむ家が欲しい。寝室などはコンパクトでいいので、その分、最大限に趣味のスペースをとりたい」とオーダーした。

事実、その空間のほとんどは車とオートバイ、自転車、ミニカー、キャンプ道具…Uさんの趣味のアイテムが所狭しと並べられていた。

1階のすべてがガレージスペース。正面から見ると、右手の大部分をUさんの愛車、VWタイプⅡが占領している。左手にはアメリカン・ダイナーを思わせるカウンターが備えられ、周辺にはビッシリとミニカーや車関連のアイテムが並んでいる。

その手前にはモンキーやダックスをはじめとした小排気量のオートバイ、そして壁面から頭上の吹き抜けにかけてはダウンヒル専用の本格的なMTBからママチャリまで、数多くの自転車が飾られている。

聞けば、壁面に自転車を飾るための台座や吹き抜けの梁周辺の造作は、Uさん本人の手によるという。

「以前にお住まいだったマンションを拝見しましたが、Uさんには“作り手の目線”があるんです。とてもアイディアマンなので、Uさんが自作できるような“余裕”を残すように、つまりUさんが自分でカスタマイズできるように提案しました」と田中さん。

第一印象は、まるでVWの専門ショップかと見まがうようなU邸。内部を拝見するにつれ、ますます「モノ」へのこだわりと愛着が感じられた。果たしてどんなお仕事をされているのか伺ったところ、某大手企業に勤める会社員とのこと。日々の仕事で疲れた身体を、週末にこのガレージで過ごすことで癒やすのだろう。

住空間は2階。動線は建物正面の玄関とガレージに続くガラス製ドアの2カ所。2階は、リビングルームも寝室もキッチンも、すべてオモチャで溢れていた。しかしそれらは整然と並べられ、Uさんの几帳面さがうかがえる。

「まだ寝室の収納ボックスの中に1000台ぐらい入っていますよ」

さらりと言うUさん。どうやら物心ついた頃から集めていたミニカーを、実家を出て独立した際にすべて捨てられたことがトラウマとなっている、とのこと。なるほど、それでミニカー収集に勢いがついたというわけだ。

Uさんにとっては、もしかしたらタイプⅡも実物大ミニカーなのかもしれないな、とふと思った。オートバイのカスタムも自邸のDIYも、すべてオモチャをいじる感覚なのかもしれない。どこまでがオモチャでどこからがホンモノかわからない空間、それがU邸の魅力。車好きならずとも、ここを訪れたなら時を忘れて郷愁に浸れるはずだ。

間取り図|EDGE HOUSE

「M邸・2階リビングルームにガラスケースを備える家」
建築家:スターディ・スタイル 一級建築士事務所/田中義章

tel.048-987-2011 
構造:木造 敷地面積:165.92㎡
建築面積:60.86㎡ 延床面積:99.15㎡
設計・監理:株式会社 中央住宅、スターディ・スタイル 一級建築士事務所

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道photos / KIMURA Hromichi

タイプⅡ観音扉|EDGE HOUSE

タイプⅡの観音扉を開けると、工具をはじめとするメンテナンス道具が満載。ステッカーはマグネット式で、TPOに応じて使い分ける

ガレージ正面|EDGE HOUSE

手前のコンクリートスペースはゲスト用の駐車場。VWマークがあしらわれているのがおわかりになるだろうか

ガレージ内部|EDGE HOUSE

Snap-onの工具箱には、工具だけでなくたくさんのミニカーが。本格的なメンテナンスのために排気用ダクトや洗面所も備わる

リビング|EDGE HOUSE

リビングルームも遊びのアイテムが満載。カメラ目線でお行儀よく座っているのは愛猫“ライム”17歳