M邸・2 階リビングルームにガラスケースを備える家+村上 進|EDGE HOUSE

リビングルームまでリフトで一気に上昇!

一見すると、広いガレージを備える邸宅。特筆すべき造形やアイテムが備えられている様子もない。ところが、施主に促されて2階へ上がった瞬間、素敵なサプライズが待ち構えていた

イメージしたのは戦隊モノの秘密基地

秘密基地。この言葉には、大人の男性の魂を一気に少年時代に戻してしまうような独特の響きがある。外部の人間にはわからない秘密の場所。大切な宝物を隠すカラクリ仕掛け。そんな場所が自宅にあったら。その思いを実現したのが、今回紹介する村上邸だ。

場所は神奈川県藤沢市。藤沢駅から徒歩圏内にある、古くからの住宅が軒を連ねる一角に村上邸はあった。外観は低層マンションのような趣。この広い敷地に建てられた豪邸は、1階がご両親の住居で2階が村上さんファミリーの住まいとなっている。

ガレージは建物1階。しかし、3台の車が収まる様子を正面から観察しても、いたって一般的な屋内ガレージにしか見えない。背後の壁に設けられた2つのドアは、1階と2階それぞれの住居に通じる「玄関」。

赤い彩りがアクセントとなって、無機質になりがちなガレージ内部に華を添えている。右手奥に目を移すと、白い縁取りの蛇腹式窓の奥は、ガレージを望む村上さんの書斎だ。

この書斎のガレージ側の窓は全開が可能で、車好きの友人たちが集まってガレージを観ながら車談義に耽る…たしかに、そんな位置関係にはある。しかし、ガレージ自体や収まっている車には特筆すべき趣味性は見当たらない。

いぶかしく思いながら、案内されるままに右側の赤い扉から内部を拝見する。村上さんの居住スペースである2階へ続く階段は、クールなセラミックタイル。ゆるやかなループを上っていくと、ガラスケースに収まった真紅のフェラーリ360モデナが突然目に飛び込んできた。

なぜここに…。瞬間、狐につままれたような気分になったが、冷静に考えれば1階ガレージと2階リビングルームがリフトで繋がっているという単純な仕掛けだった。

しかし、1階にいたときにそれと気付かなかったのは、リフトを2柱式として1階ガレージの壁面側に柱があったから。4柱式ならばいやでも柱が目につき、ガレージ自体の広がりも損なっていたはずだ。

このあたりも村上さんのこだわりのひとつなのであろう。それにしても、ガレージからリビングルームへと、一気にリフトで愛車を上げてしまうなんて、じつに思い切った設計をしたものだ。

このサプライズを仕掛けたのは、じつは村上さんご本人。

村上さんは建築会社を経営する専門家で、設計はお手の物なのである。「設計の段階から、リフトを導入する計画でしたからそのための構造や間取りを考えています。とくに2階のリビングルームは、車がよく見えるように大開口にしてあります」と、村上さん。

そうおっしゃるとおり、2階のリビングルームに身を置くと、巨大なガラスケースに車が収まっているように見える。

もちろん車好きの村上さんご本人はご満悦に違いないが、これだけのガレージ(ショーケース?)を現実のものとするにあたって、ご家族からの反対などはなかったのだろうか。

「ほとんどありません。私のワガママを通したというか(笑)。ただ家内は、ガレージ部分がフロアだったら、リビングルームがもっと広かったのに…とは言っていますが」

多忙を極める村上さん。今回の取材時にも分刻みでスケジュールをこなしている様子が窺えた。そんな状況にあって、専門家とはいえ、ご自身で自邸を設計しようと思い立ったきっかけはあるのだろうか。

「車好きの人がガレージにこだわった自宅を建てる際、建築家に依頼することが多いと思います。でも、その建築家が車好きとは限りませんから…」

と、村上さん。たしかにそのとおり。たとえ車好きだとしても、施主と感性が一致するとも限らない。ならば、自分で設計しようというわけだ。方向性や造形のコンセンサスをとるために膨大な時間とエネルギーを費やしているケースを、リポーターもいく度となく目にしている。

そんな村上さんは、これまでにミニクーパー、アルファロメオ、フェラーリ、ジムニーなどを所有。最長はミニクーパーが14年目になるが、すべて「現有車」。

つまり村上さんは、一度所有した車は愛着をもって長く乗るタイプで、あくまでも買い替えではなく買い足すスタイルを貫いてきているとのこと。多忙の身ゆえ、さぞかしフェラーリのエンジンをかける機会は少ないかと思いきや、「週に一度は出動したいですね」と、希望も含めておっしゃった。

土地柄、走り屋のメッカである箱根までも1時間以内。村上さんが「男のロマン」というフェラーリの走り味は、仕事の疲れを癒やしてくれる秘薬となっているのだろう。

間取り図|EDGE HOUSE

「M邸・2 階リビングルームにガラスケースを備える家」
建築家:大旭建業株式会社一級建築士事務所/村上 進

tel.0466-23-2805
主要用途:専用住宅 構造:鉄筋コンクリート造
敷地面積:502.76㎡ 延床面積:469.08㎡
設計・監理:大旭建業株式会社一級建築士事務所/村上 進

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道photos / KIMURA Hromichi

階段|EDGE HOUSE

2階と3階の動線はフェラーリレッドに彩られた透明の階段。フェラーリで出動することへの期待感が、いやが上にも高まる

パレット|EDGE HOUSE

パレットは大型で地面との段差は最小に整えられる。開口部にジャストフィットするようにオーダーされていて、建物との隙間も最小限

リフト|EDGE HOUSE

2階から見下ろすと、まさに秘密基地といった趣。リフトがせり上がる様子を見ていると、戦隊モノのテーマソングが聞こえてきそう

リビング|EDGE HOUSE

ガレージとリビングは直結しているが、防音性がとても高くリビングルームにエンジン音などの騒音は入ってこない