T邸・浮遊ルーフをもつ黒光りのガレージの家 + 清水貞博、松崎正寿、清水裕子
カテゴリー: カーライフ
タグ: EDGEが効いている / ガレージハウス
2013/03/21
T邸・浮遊ルーフをもつ黒光りのガレージの家
ガレージの屋根は宙に浮いているかのように見える。建物の内と外が、玉石やガラス窓の巧みな組み合わせにより曖昧になっている。これらによる不思議な開放感が魅力だ。
独特の技術とこだわりの素材で、個性的な家を実現
今回ご紹介するT邸は、インナーガレージを備えるガレージハウスではない。2台の車は屋外に置かれ、屋根は備えているものの雨や日射を確実に防ぐものでもない。しかし、ガレージと人間との関係性が計算され、使用する素材や構造にこだわった興味深い物件なのである。場所は東京都世田谷区。古くからの住宅街であり、近くには若者に人気の商店街も存在する。路地が入り組み、私鉄の線路も複数絡み合っているため、車の動線としては決して便利なところではない。しかし、だからこそ都心にありながら車の騒音に悩まされることのない、閑静な住宅街が成立しているといえる。
横引きのシャッターをスルスルと開けると、2台のステーションワゴンが現れた。広い開口部に対応して横引きとするために、この独アルラックス社製シャッターを採用。そして、閉めた状態でも開けた状態でも見栄えがいいようにと選ばれた。ガレージ内は、同系色のステーションワゴンが並んでいることも目を引くが、それよりも黒光りするフロアがこのガレージのポイントだ。磨き上げられた黒御影石のフロアは単なる「駐車場」とは思えない厳かで静謐な空間を生み出している。撮影のために水を打ってもらったのだが、まるで車が水面に浮いているかのように錯覚するほど。
ガレージはあくまでも「屋外」なのだが、広大な玄関もしくは三和土(たたき)という印象だ。この黒御影石、今ではこれほど大判のものは入手が難しいようで、施主のTさんが特別なルートから入手したものらしい。まさに、「本物」が醸し出す空気感のために欠かせない逸品だ。
見上げると、ガレージの天井も壁面と同じコンクリート打ち放し。ぐるりと頭を回してみても屋根を支える柱が見当たらないことに気付いた。天井は2階のフロア部分に当たるはずだが、これはどうしたことか。設計を担当した建築家の清水裕子さんにお話をうかがった。
「柱がないのは、上のコンクリートのボリュームで吊っているようなものなのです。壁のなかに柱があり2階の床に梁があります。あまり一般的ではない特殊構造ですが、ガレージの空間作りのために採用しました」
これだけのボリュームを宙に浮かすのは大変だろうことは、素人のわれわれにも想像できる。シャッターを開け放った瞬間に味わった、実寸以上の開放感には、そんな秘密があったのだ。Tさんが、清水さんの属するアトリエA5に設計を依頼したのも、雑誌で同様の「柱が1本もないガレージ」を見たことがきっかけだという。
T邸は外周そのものが庭になっている。3方は壁面と同じコンクリート打ち放しの塀で囲まれているが、建物との距離が十分に確保されているので閉塞感はない。それよりも外界から隔絶されることで十分なプライバシーを確保することに成功している。まだ小さなお子さんが、この庭を走り回っている姿が目に浮かぶ。実際に、外の駐車場に車を移動させて、ガレージ自体を遊び場に変えているという。
階段の最下段部分には庭と同じ玉石が敷かれ、広いガラス窓が備えられている。また、2階に上がるとガレージの真上はグレーチングテラスになっていて、リビングルームと直結されている。リビングルームとテラスの収納はデザインや色合いに連続性があり、内外に一体感を与えている。このあたりからも実際のサイズ以上の広がりが感じられるわけだ。階段を下りる際には、正面に愛車の後ろ姿を確認することができる。ここからの風景は、いっそう内外の仕切りがファジーになりそのまま屋外に出て行けそうな錯覚に陥る。「今日も元気に出かけるか!」そんな言葉が出てきそうな動線である。
「プライバシーと開放感をバランス」
建築家:清水貞博、松崎正寿、清水裕子
tel.03-3419-3830 http://www.a-a5.com/
主要用途:専用住宅
構造:鉄筋コンクリート造 敷地面積:113.49㎡ 延床面積:128.71㎡
設計・監理:有限会社atelierA5建築設計事務所
文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hiromichi
広大なワンルームである2階のフロアも家具も、階段と同様にカリン材を使用。希少な木材で、美しい光沢と独特の色合いが高級感と落ち着きを放っている。壁には、サーファーであるTさんの、こだわりの絵画が掛けられている
「行きつけのバーをイメージした」というTさんこだわりの階段。広いガラス窓が、内外の境界を曖昧にしている。
2台のステーションワゴンというラインアップ。メルセデスは奥様、アウディがTさん専用だ。お二人ともアクティブに動かれているので、勢いステーションワゴンを選択したとお見受けする。
T邸の周囲は玉石を敷き詰めた庭になっていることが特徴だ。コンクリート製の塀で囲むことでプライバシーを確保し、さらに建物と塀との距離を十分に取ることで明るさと開放感を実現。子どもの格好の遊び場にもなっている。
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