自分だけが楽しむために自ら設計したオリジナルの空間

某建設会社に勤めるSさんが自分のために建てたのがこのガレージハウス。趣味を堪能するためのこだわりの工夫が随所にされている。

マニアックな車好きが作った自分だけの世界

外観は、淡い紺色のガリバリウム壁面とガラス面とが組み合わされた品のいい佇まい。大きな蜜柑の木がアクセントとなっている。ガレージ正面は半透明のオーバースライダーになっていて、収められた車たちの姿がほのかに窺える。向かって右側がフィアット124スパイダーで左側がアルファGTV。そこまでは外からでも判別できたのだが、実際に中を拝見すると、じつは予想以上にあらゆる要素がギュッと詰まった空間となっていたのだ。

玄関の三和土には、エンジン本体がまるで美術品のように飾られている。2本のオーバーヘッドカムシャフトをもつヘッドカバー、大きなエアファンネルが装着されたキャブレター。施主のSさんから、これが124スパイダーのスペアエンジンであることを教えてもらったが、この空間だけでもマニアックな空気が充満している。

そしてガレージに足を踏み入れた瞬間、ホンモノの匂いがした。エンジンオイル、ミッションオイル、クーラント、排気ガス…さまざまな匂いが入り混じっている。単なる「展示」や「保管」のためのガレージではなく、愛車を徹底的に「いじり倒す」空間。膨大な量の工具やケミカル用品が所狭しと並んでいるが、どれもホコリ一つ被ってない。つまり、日常的に使っていることの証だ。

「 見せるガレージではなく、作業性を優先しました」とSさん。Sさんは大手建築設計事務所で営業部長を務めており、自邸の新築にあたり自ら設計・施工を手がけた。ガレージハウスを作ろうと思ったきっかけは、「 以前は車庫が外にあって、メンテナンスのたびに工具を出し入れしなければならなくて、とても面倒だったのです」

屋内で愛車を「いじる」ことがSさんの夢であり、それが実現した今は至福のときを過ごしている。もともと機械好きだというSさんは、天井から吊るされたロードレーサー用のハンガーラックなども自身で設計・製作してしまう。124スパイダー・アバルトラリーのパーツを、国産車用パーツを加工して作ることなどお手の物だ。ガレージには、ボディの板金塗装以外はすべて賄える道具が揃っている。素人には近寄りがたいほどエンスージアスティックな空間かと思いきや、ラックに掛かっているニンニクの袋を指差し、「 家の者は、こんなものを保存する場所にしてるんですよ」と苦笑。完成されたガレージの、わずかな隙が見えた瞬間だった。

The Garage HOUSE
建築家:佐々木晴英
所在地:神奈川県 主要用途:専用住宅
構造:木造 規模:2階建 敷地面積:132.575㎡ 延床面積:143.96㎡
設計・監理:佐々木晴英

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hiromichi

自然光を透過するオーバースライダーを採用しているため、ガレージ内は明るく、照明をつけなくても作業ができる。S邸のガレージは、あくまでもクルマイジりを優先させた作りとしている

天井からはもう一つの趣味である自転車が吊り下げられている。クルマと自転車という趣味を堪能するための空間だ

2階のリビングへは玄関脇にあるらせん階段で上がる

階段脇には、まるでオブジェのようにスペアエンジンが置かれている。ガラス窓に面した明るい階段スペースの上がS邸の居住スペースとなっている。