ガラス張りの宝箱に収められた大切なカレラ

玄関脇に駐められたアルピナを見れば、車好きが住む家とわかるが、その奥にもうひとつの駐車スペースがある。そこには施主が愛してやまないもう一台の車が駐められている。

ガラスケースに収められたオブジェのような911

玄関脇の駐車スペースは、アルピナB3Sの指定席だ。丁寧にボディカバーが掛けられている様子から車に対する愛情を感じる。

玄関からは、右手のガラス越しにアルピナのサイドビューを確認できる。奥に進むと、まるでショーケースに入れられたようなタイプ964のポルシェ911が現れた。しかも、マニア垂涎のカレラRS3.8である。このモデルを所有していればガレージ作りに力が入ることもうなずける。事実、施主のOさんは黒崎さんに設計を依頼する際、ポルシェとどのように暮らしたいかを熱心に語ったという。

その情熱もあって黒崎さんは、「ビルトインされるポルシェがひとつのオブジェとなり、空間自体がアートギャラリーになるように意識しました」という。実際に招かれた客は、玄関からのアプローチでポルシェの存在に驚くはずだ。磨き上げられたガラス箱のなかには、美しい曲面を描く「オブジェ」が収められている。それが、昼間は自然光、夜間は造形美を強調する控えめなライティングにより見る者を魅了する。たとえ車に興味のない人でも、この空間には息を呑むはずだ。

この点について黒崎さんは、「ポルシェの背後にある部屋からの眺めが最高になるように意識しました。また、ポルシェのもつ迫力に負けないような強靭なコンクリート打ち放しを実現するために、Oさんと一緒に材料の配合まで気を配ったのです。艶のあるコンクリートやガラスと対峙するポルシェが照明により空間に浮かび上がる姿は見ていて飽きることがありません」と、施主以上に情熱を注いだことがわかる。

じつはOさんは建設会社に勤める設計者。したがって基本的な部分は短時間で共有ができるため、「ディテールや仕上がりなど細部に時間を割くことができたことが、完成度を高められた要因です」と黒崎さんは分析する。

2階はOさんのお母様の居室。さらに階段を上がると正面に中庭が現れた。ここから見上げる空は都心にいることを忘れてしまうような隔絶感があり、非日常の雰囲気が味わえる。この左手がお姉さまの居室で、右手が施主のプライベートルームだ。

まるで美術館のような1階から、階段を上がっていくにつれて空間が広がりをみせる。Oさんにとって、ガレージに愛車を収めてから自室に至るまでの動線も、昂揚感を抱き続けられる空間に違いない。

「ドライブしているときの爽快な空間を自宅でも味わいたいと願う人は、心地よい空間というものを知っています。私は、その感覚をもっとも大事にしながら設計しています」

こんな黒崎さんの想いは、カーフリークであり建築の専門家でもある施主に伝わらないはずがない。居心地のよい住まいは、その集大成なのである。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi

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911の脇にはBBSの鍛造アルミホイールが無造作に置かれていた

ガレージの脇にある階段は木の素材感を生かし、1階の硬質な雰囲気とは違う温かみを演出

Oさんのプライベートルームには、ミニカーや雑誌・書籍など愛車に関連するグッズがディスプレイされる

CARRERA
建築家:黒崎敏
APOLLO Architects&Associates 

tel.03-5283-2535
http://WWW.kurosakisatoshi.com/

所在地:東京都文京区 主要用途:専用住宅
家族構成:親子3人 構造:RC壁式造
規模:3階建 敷地面積:158.31㎡
延床面積:166.99㎡
設計・監理:APOLLO Architects&Associates/黒崎敏