ピットのような書斎を持つガレージ

アルファスパイダーの後ろ姿に惹かれるというMさん。愛車を収めるガレージには、そんなMさんのための書斎が設けられているが、そこには独創的な仕掛けが施されていた。

クルマよりも低い位置にある書斎で趣味を堪能する

たとえクルマ好きでなくとも、M邸のガレージを覗けば、子供の頃に抱いていた『秘密基地感覚』が蘇るはずだ。中央にはアルファレッドに彩られたアルファスパイダー。もちろん、フルオープンのまま格納されている。向かって左手には洗車道具、使い込まれた工具箱、オートバイ用のヘルメット、デザインコンシャスな自転車用バッグ。それらが並ぶラックには、以前の愛車フェラーリ348に装着していたマフラーもさりげなく鎮座。その下には、レストア中のベスパ。向かい側の壁には、ポルシェのマウンテンバイクが2台、無造作に掛けられている。

圧巻は、ガレージの突き当たり。入口に背を向けるようにして書斎デスクが設けられているのだが、それは、ガレージのフロアと同じレベルのコンクリート製。つまり、書斎スペースの床がピットのごとく掘り下げられているのだ。チェアに腰掛けると、目線はちょうどスパイダーの下回りが覗けるような位置となる。あたかも塹壕に身を潜める感覚は、隠れ家的な1Fにいっそうパーソナルな空間を生み出している。

設計担当は、建築家の佐藤宏尚さん。設計にあたりM氏からのオーダーは?

「最初はインナーガレージにしてほしいという程度でしたが、打ち合わせをしていくうちに、ガレージのほかに、書斎、そしてロフトを欲していることがわかりました」

と、基本的にM氏は佐藤さんにオマカセしたようだ。そんななか、佐藤さんがもっともこだわったものは、「各階にある斜めの柱です。これはデザイン性だけではなく、耐震性を高めるためにも必要なものです」

1Fから3Fまで、すべてのフロアには我々が知る一般的な柱らしきものがなく、佐藤さんのいう斜め柱が設けられている。とくに2Fと3Fは全面ガラス張りの壁面と組み合わされていて、重要なアクセントになるとともにガラス壁面の美しさを引き立てている。それは、初めて訪れたゲストにとっては、2Fから3Fへと階段を登る際に不思議な造形として目に入るはずだ。

2FはM氏が『多目的室』と呼ぶ広いスペースとクローゼット、バスルームで構成される。3Fは、高い天井と四方に設けられたさまざまな形の窓により、抜群の明るさと開放感をもつ。また、周辺の建物とはフロアの高さが異なるので、ある種の浮遊感があることも特徴だ。ロフトは、奥様のプライベートスペースとして使用しているとのこと。キッチンにも十分以上の広さがあり、たっぷりと注ぐ自然光により家事が楽しくなりそう。

「1Fを好きにさせてもらったので、3Fは妻の思うように作りました」

とはM氏。

夫婦がお互いの存在を尊重し、自宅内にそれぞれが安らげる居場所があるM邸は、まさに理想的な『自宅』の姿である。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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ガレージの床と同レベルに位置するデスクには製作中のミニカーが置かれる

階段にトップライトを設け、壁面をガラス張りにすることで閉塞感がない

奇抜なカタチの斜め柱だが各フロアの床を支える大切な役目を果たしている

ロフトを設けていることもあり、3階の天井高は4mを確保する

斜め柱の家
建築家:佐藤 宏尚

佐藤宏尚建築デザイン事務所
tel.03-5443-0595
http://www.synapse-net.jp/

所在地:東京都目黒区 主要用途:住宅
家族構成:夫婦 構造:木造 規模:3階建
敷地面積:65.27㎡ 延床面積:109.13㎡
設計・監理:佐藤宏尚建築デザイン事務所/佐藤 宏尚