ガレージに収められたマルニを2階からの明かりが照らす

ザラっとした触感の扉を開け放った先にいるのは、抜群のコンディションを保ったSさんのマルニ。そこは室内にも関わらず、愛車が自然光によって照らされている。

建築家に任せることで誕生した不思議空間

東京の主要幹線道路のひとつである環状7号線。そこから1ブロック入った住宅街に、今回訪れるS邸はあった。周辺は、大正後期から昭和初期にかけて多くの文士や芸術家が住んでいたことから、馬込文士村と呼ばれている。生け垣に囲まれた瓦屋根の和風住宅が点在し、どれも敷地面積は広く、門扉や窓などの造形にアクセントを加え、個性をもたせている。その玄関からは、今にも文豪たちが現れそうな雰囲気だ。

目的のS邸は、そんな環境にありながら、コンクリート壁面をもつ近代的なフォルム。しかし、決して周囲から浮いてしまうことはなく、そのシンプルな造形と色合いにより、うまく溶け込んでいるという印象だ。

施主のSさんがこの地を選んだのは、環状7号線や国道1号線といった主要幹線道路が近いということ。そして、騒音がほとんど届かないという点が気に入ったからだという。

設計は、本誌でもたびたびご登場いただいている建築家の弓場章史さん。自邸を新築するにあたり、Sさんが弓場さんに出した条件は?

「インナーガレージが欲しいということと、PSシステムという冷暖房装置を導入したいということぐらいですかね。あとは、面白いモノを作りましょう! と…」

基本的に弓場さんにオマカセ状態というわけである。

南馬込の住宅
建築家:弓場章史

弓場章史建築設計事務所
tel.03-3989-8522  http://yuba-arch.com
所在地:東京都大田区 主要用途:専用住宅 家族構成:1人
構造:鉄筋コンクリート造 規模:2階建 敷地面積:88.19㎡ 延床面積:83.84㎡
設計・監理:弓場章史建築設計事務所/弓場章史
設計プロデュース:LDKホーム tel.03-5468-9775 http://ldk.co.jp/

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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マルニを収めたスペース上部はハニカム構造のFRPを天井代わりに使用。これによって2階の明かりがぼんやりとガレージを照らし出し、独特の雰囲気を演出している

ガレージ扉はスチール製。通常は橋や鉄塔などに使われる、耐食性に優れたフェロドール塗装を採用することで、ざらついた感じを出してコンクリートとマッチさせている

ガレージの奥に位置する階段の下には、ベスパや自転車を保管。そこに縦長の明かり窓を設けることで、自然光が差し込み、暗くなりがちなガレージを明るくしている