茶畑の家 + 廣部剛司(前編)

世界初の工法を用いたアルファ乗りの棲み家

建築家もオーナーも、根っからのアルファ乗り。クルマ好きがクルマ好きのために設計した家。そこは、まるで秘密の隠れ家のような「人が暮らせるガレージ」だった。

正面の道路から十分にセットバックされた位置に建つ住宅は、ほぼ立方体に近い造形。正面左右にはウッディなガレージ用扉があり、玄関は左側面に設置されている。ガレージの扉を開け放つと、2台のアルファロメオとモトグッチ。周囲を見渡せばガレージジャッキやウマをはじめ、寝板やチェーンブロックまで設置されている。それぞれの道具は使い込まれ、この家のオーナーがただのイタ車好きではないことがわかる。

事実、イエローの155はサーキットでの歴戦を伺わせるダメージがそこかしこに見られ、それを修復する様子もないあたりから、クルマ本来の性能を十分に発揮させトコトン楽しんでいることが伺える。どうやらここは、「ガレージ付き住宅」ではなく、「人が暮らせるガレージ」のようだ。

設計を担当したのは、建築家の廣部剛司さん。「もともと施主のGさんと私は、アルファつながりなんです」というとおり、廣部さんもスパイダーのオーナーである。お互いの仕事も知らないまま仲間たちとツーリングなどをしているうちに「ところで仕事は何してるの?」という、じつに大らかな、ある意味アルファ乗りらしいコミュニケーションが建築依頼の発端だ。
「設計にあたりGさんからの希望は、クルマが2台屋内に入れられて、茶畑が見渡せる家……というものでした。その他は、私に任せてくれました」

と、ここでもGさんの大らかさが発揮されたが、廣部さんの責任は重大。Gさんのライフスタイルを吟味したことはもちろんだが、「自分が施主なら、こんなガレージにしたい。施主は、愛車をこんな風に眺めたいはず……」と、お互いアルファ乗りという共通の感性をもって設計に臨んだようだ。

さて、改めて玄関から屋内に入ると、グリーンのスパイダーがお出迎えだ。正面の三和土越しには、奥の駐車スペースが垣間見え、もう1台の赤いスパイダーがテールエンドを覗かせる。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hiromichi
取材協力・廣部剛司建築設計室(http://www.hirobe.net/

“カツラ剥き”の要領で薄く削った木材を、厚さ100mmに圧縮。これを壁パネルと床パネルに組み合わせて鉛直荷重と水平荷重を負担させるものが「壁式木質厚板構造(WTP)」と呼ばれる世界初の構造形式だ。屋内のいたるところにこの断面は現れ、さまざまな表情をみせる。

床や壁を支えるサスペンションロッドのプレートは、アルファロメオのフロントグリル「盾」をイメージして逆三角形造形に。これは、Gさん同様アルファ乗りである廣部さんの遊び心。1階トイレ脇には、「大蛇と十字架」をモチーフとしたGさん自作のライトカバーがさり気なく設置されている。