▲後席に乗ったら思わず優雅に手を振りたくなる…… ▲後席に乗ったら思わず優雅に手を振りたくなる……

21年ぶりのフルモデルチェンジ。伝統を継承しつつもV8 HVへと進化

今ここに2つのセンチュリーのカタログがある。1つは2018年にアナウンスされた3代目、もう1冊は1997年に誕生した2代目のカタログだ。どちらもほとんど変わらない。

2代目から20年以上経過しているにも関わらず、重厚感のある変わらないカタログにトヨタのセンチュリーに対する深い思いを感じずにはいられない。

センチュリーは50年以上作り続けている日本の唯一無二の最高級車である。そのデザインには、伝統から発せられたモチーフや造形を用い、日本の文化的な世界観を注入している。

20年前に初めて先代を目の前で見たときに、初代よりも重厚感のあるデザインだと感じた。

また、12気筒を作り出すトヨタのすごさにただ感動したことを覚えている。なんと言っても日本では唯一、乗用車用として量産される12気筒であったのだから。

12気筒を採用する理由は静粛性と滑らかな加速である。これがショーファードリブンの高級車には不可欠なエッセンスなのだ。
 

トヨタ・センチュリー

今、新型センチュリーに乗ろうとしている。幸運にも20年間という長い間モデルチェンジがなされなかったセンチュリーの先代モデルと、今回の3代目の両方を経験できるのはとてもうれしい。

ドライブしたフィーリングでは単純に比較できないが、継承するものをとても感じる。

伝統的な水平基調のデザインは初代から変わっていない。外装同様に内装も水平基調である。最高級車として基本は変えないという信念を持って臨んでいない限り、50年間も継承するのは本当に難しいことである。

ボディサイズはひと回り大きくなった。その分、各部に若干の丸みを導入して重厚感をより強く演出、さらなる高級感を作り出している。

バンパーとサイドステップに設けられたクロムメッキを見るだけで、採算を考えずに作っていることがよくわかる。

通常、下部に装着している部品はここまで重厚なメッキにはしない。しかし、センチュリーではそれをたっぷりと下地の銅メッキと研磨を経てクロムメッキを施しているのだ。これが本当の高級車を乗る人への敬意のひとつである。一部分だけ見ても今までの国産車にはないクオリティをひしひしと感じる。

本当はこのクオリティの高さのものをこしらえる技術はあると確認できる。利益よりも技術の継承を優先しているのだろう。乗らずしてバリューの最も高いモデルだとわかる。

トヨタ・センチュリー

ではドアを開けて乗ってみよう。まずは運転席だ。センチュリーには大きく分けるとレザーとファブリックの仕様がある。今回ドライビングをすることができたモデルはレザー仕様だ。

運転席に座って後方の長さを感じないほど一体感がある。そしてワイドになったボディにも関わらず、前方の見切りがとても良好だ。ステアリングホイールからフロントウインドウまで遠くない。これはとても運転しやすいポジションだ。

高めのポジションは側面や後方斜めの部分を目視するにも見やすい。ショーファードリブンとしての資質を感じる。

V型12気筒からV型8気筒のハイブリッド仕様となるのはエンジン好きからすれば惜しい気持ちもあるが、静粛性と伸びやかな加速が備わっていれば次世代としてはイノべーションを感じる。

ニッケル水素バッテリーを使ったハイブリッドシステムはトヨタの最も実績のあるハイブリッド技術なので故障のリスクを低くすることができる。

通常走行でセンチュリーに大切なのは故障しないことだ。だからこそ全く新しいハイテク技術を導入して目新しさを追求するよりも、実績のある方を優先することがクレバーなやり方だと思う。

トヨタ・センチュリー

Dレンジに入れて走り出すとこれが驚くほど静かでしかも運転しやすい。アクセルのコントロールが実に細かく絶妙でハイブリッドモデルでも、ここまで、チューニングによって違うフィーリングを作り出すことができるのかと感じる。

駐車券を取る際にウインドウを下げて外の音を聞くと、センチュリーの圧倒的な静粛性の高さに関心するばかりである。

縁石からの段差も、とてもおおらかに路面の凹凸を受け止める。ボディ剛性も先代のレクサス LSのプラットフォームを使っているというが、全く異なる骨格に感じる。取り回しも問題ない。

首都高速を走るが安定感は抜群だ。合流の加速でエンジンが始動したが静粛性には文句のつけようがない。V8エンジンのぐっと内面にためたトルクを感じながらジェントルな加速がいつでもできるよう準備が整っているのだ。これはショーファードリブンをモットーに開発しているかもしれないが、ドライバーズカーとしてもかなり良い。

トヨタ・センチュリー

編集者に運転をしてもらい後部席に座り、お台場から上野まで首都高速をドライブしたが至極心地がよい。先代よりもサスペンションの進化が大きい。

編集者は運転がずば抜けてうまいというわけではないが、この大きなボディをとても運転しやすそうにしていた。安心感を与えるその雰囲気が後部席からでもわかるのだ。乗り降りもしやすい。

手に触れる部分にイミテーションは感じさせず、新色のボディカラー神威も趣味が良さそうだ。 すべてが本物のリアルマテリアルであつらえた調度品は華美ではなく落ち着きがあり、昔からあったかのように馴染んでいる、そんな雰囲気だ。

箱根あたりまで後席に座って行っても、あっという間に感じるのは私だけではないはず。トヨタで最も乗り心地に深みのあるモデル、それがセンチュリーなのである。

text/松本英雄
photo/尾形和美

【SPECIFICATIONS】
■乗車定員:5名
■エンジン種類:V型8気筒DOHC+モーター
■総排気量:4968㏄
■最高出力:280(381)6200 [kW(ps)/rpm]
■最大トルク:510(52.0)/4000[N・m(kgf・m)/rpm]
■モーター最高出力:165(224) [kW(ps)]
■モーター最大トルク:300(30.6)[N・m(kgf・m)]
■システム最高出力:317(431) [kW(ps)]
■駆動方式:FR ■トランスミッション:電気式無段変速
■全長x全幅x全高:5335 x 1930 x 1505(mm) ■ホイールベース:3090mm
■車両価格:1960万円