997型ポルシェ 911の好条件物件が「新車の半値以下」だが、それって本当にお買い得なのか?
2021/03/13
比較的低走行な物件でも車両420万円ぐらいからだが?
ポルシェ 911という車が「世界一のスポーツカー」かどうかは、人によって意見の分かれるところだろう。しかし、少なくとも「世界一レベルのスポーツカーである」とは断言できる車だ。
そんなポルシェ 911は、「世界一レベル」だけあって新車も中古車も基本的にはかなり高額だが、中には新車時価格の半値以下で、比較的高年式かつ比較的低走行な物件が狙えてしまうものもある。
2004年から2011年にかけて販売された「タイプ997」という、現行型から数えて2世代前のポルシェ 911だ。
これの「カレラ ティプトロニックS」という売れ筋グレードは新車時、おおむね1100万円以上は軽くしたのだが(おおむねというのは、時期によって価格が微妙に異なるため)、昨今の中古車はその半値以下、すなわち総額500万円前後で狙えてしまうのである。
「そんな新車時の半値以下で買えるポルシェなんて、どうせボロいに決まってるんじゃないの?」
そのように思う方もいらっしゃろう。
しかし、実際には走行2万km台からせいぜい5万km台の、修復歴のない物件が、総額500万円程度でもイケるのだ。もちろん約500万円というお金は「はした金」ではなく、むしろ大金だ。しかし、ポルシェ 911という世界的名車を買うにあたっては「格安!」ともいえる金額だ。
それゆえ大いに気になってしまうわけだが、世の中、光あるところには必ず影があり、うまい話には裏がある。となるとこの場合も、すなわち「新車の半値以下で買える997型ポルシェ 911」も、やはり手を出さない方が無難なシロモノなのか? それとも、意外と普通にイケるのだろうか?
様々な角度から検討してみることにしよう。
「新車の半値以下」は前期型の自然吸気エンジン搭載車
まずは997型ポルシェ 911という車についての簡単なおさらいから。
もともと、空冷方式の水平対向6気筒エンジンをリアに搭載していたポルシェ 911だったが、それが水冷化されたのが、1998年にデビューした「タイプ996(3世代前の911)だった。今回ご紹介するタイプ997は、その後を受けて2004年8月に発売された「2世代目の水冷911」だ。
996型で不評だった「涙滴型ヘッドランプ」は「911伝統の丸形ヘッドランプ」に戻されたが、カレラに搭載された自然吸気エンジンは996型のものをおおむね踏襲。しかし、2008年6月にマイナーチェンジを行って自然吸気エンジンを刷新し、オートマチック・トランスミッションも、ティプトロニックSという一般的な5速ステップATから、ツインクラッチ式の「7速PDK」に変更された。
この2008年6月以降の通称後期型はさすがにまだ高く、「総額500万円前後でイケる」のは、マイナーチェンジ前の通称前期型。
そして「ターボ」や「GT3」などの特殊なモデルは前期型でもさすがに普通に高いので、この価格帯で狙えるのは「自然吸気エンジンを搭載したカレラ系各グレードの前期型」ということになる。
それぞれのざっくりとしたプロフィールは下記のとおりだ。
●前期型カレラ ティプトロニックS
搭載エンジン:3.6L水平対向6気筒(最高出力325ps)
トランスミッション:5速ティプトロニックS
駆動方式:RR
ボディ幅:標準
●前期型カレラ4 ティプトロニックS
搭載エンジン:同上
トランスミッション:同上
駆動方式:4WD
ボディ幅:ワイド(+44mm)
●前期型カレラS ティプトロニックS
搭載エンジン:3.8L水平対向6気筒(最高出力355ps)
トランスミッション:5速ティプトロニックS
駆動方式:RR
ボディ幅:標準
●前期型カレラ4S ティプトロニックS
搭載エンジン:同上
トランスミッション:同上
駆動方式:4WD
ボディ幅:ワイド(+44mm)
この他、それぞれに「ティプトロニックS」という文字が付かないグレード、すなわち6MTのグレードもあるのだが、そちらは希少価値が高いため相場も高めで、ティプトロニックSより数十万円から数百万円は高くなる場合が多い。
デザインも性能も、超ざっくり言えば「現行型とだいたい同じ」?
あらかたのご説明が済んだところで、本題である「997型ポルシェ 911の中古車は買いか否か?」について考えていこう。まずは「デザイン」について。
いかにお安いとしても、デザインが見るからに古くさいのであれば、そんな車は買わない方がいい。で、997型ポルシェ 911の場合はどうなのかというと……「現行型と見分けがつかない」というのが結論である。
や、カーマニアはこの見解に異論があるだろう。「現行型のタイプ992と997じゃぜんぜん違うやんけ!」と。
そのお気持ちもよくわかるつもりだが、しかしそれは「マニアゆえの意見」でしかない。
996型と現行992型のデザインは、非マニアが見ても違いは一目瞭然だが、997型と992型の違いは、あくまで一般市民の目線でいうなら「無」に等しい。それゆえ、いわゆる古くささはまったく(あるいはさほど)感じられないのだ。
お次は「性能」について。
「最良のポルシェは最新のポルシェ」という有名なフレーズを引き合いに出すまでもなく、2世代前の997型よりもその次の991型の方が、さらにはその次の現行モデルである992型の諸性能が上であることは明白である。ダッシュ力も、超高速域での安定性も、そして日常領域での快適性も、すべて最新型の方が優れている。
しかし、それは「80点が100点になりました」というニュアンスの進化ではなく、言ってみれば「(100点満点の試験で)120点が150点になりました!」みたいな、よくわからないといえばわからない進化だ。
つまり、2世代前のモデルであっても、ポルシェ 911の諸性能は「普通に考えれば十分以上どころの騒ぎではない」というものなのだ。それゆえ、ここも基本的には「997型でも十分」と言うことができる。
もちろん、常に限界ギリギリで最高の走りをしたい人や、何でもかんでも世界一じゃないと気がすまない人は、992型(現行モデル)を買うべきだろう。
しかし、「普通ぐらいに気持ちよく、そして速く走れればOKです」と考えるのであれば、997型であっても何ら性能面での不足は感じないだろう。
希に起きる「エンジンの不具合」がこの車のネック
カタチは現行モデルと(筆者に言わせれば)ほとんど同じで、性能的にも「まぁ公道を普通に走る分にはだいたい同じ!(どっちも素晴らしい!)」ということがわかった、997型ポルシェ 911という車。
ならば、なぜそれはそんなにもお安いのか?
答えは、「エンジンがぶっ壊れる恐れもなくはないから」だ。
2008年途中のマイナーチェンジで、997型の自然吸気エンジンは直噴方式のものに刷新されたわけだが、それ以前の前期型カレラ/カレラSには、前身である996型に搭載された3.6L水平対向エンジンをほぼ踏襲している。
このエンジンの内部にある「インターミディエイトシャフト」というのが実は少々やっかいで、これの不具合が原因でシャフトのベアリングが破損し、そのままエンジンも破損してしまうというケースが――大量発生したわけではないが――一部で発生した。
また、タイプ997の前期型ではそれに加え、エンジンのシリンダー内に傷が発生してしまい、それが原因でエンジンブローを起こすという症例が――これまた大量発生したわけではないのだが、一部で確実に――発生したのだ。
つまり、前期997型カレラ系のエンジンには「インターミディエイトシャフトの不安」と「シリンダー内に傷が発生することによるエンジンブローの不安」という、2つの不安があった。
で、前者のインターミディエイトシャフトについては、ポルシェ ジャパンが大規模なサービスキャンペーンを行ったことで、問題は「ほぼ解消した」といえる状態になった。
だが、後者についてはリコールもサービスキャンペーンも行われていないため、いざシリンダー内に傷が生じてしまうと「エンジンを自費で載せ替える」という事態にもなりかねず、その場合には200万円以上の自費がすっ飛ぶことになるのだ。
もちろん、シリンダー内に異変が生じたからといって、すべてのケースでエンジン載せ替えが必要になるわけではなく、またすべての997型のエンジンが壊れるわけでもない。というかむしろ、壊れない場合の方が多い。
しかし、「最悪、そうなることもある」ということで、前期997型カレラの中古車相場は「低め安定」となっているのだ。
サービスキャンペーンで直すことができるインターミディエイトシャフトの問題はいいとして、「シリンダーの傷問題」をどう考えるべきかというのが、997型ポルシェ 911の中古車購入を考えるうえでは非常に難しいポイントとなる。
断言はしにくいが、ちゃんと選べばおおむね大丈夫なはず
なかなか難しい問題ではあるのだが、筆者の私見は「ちゃんとお金を出してちゃんと選べば、まぁ大丈夫でないでしょうか?」である。
底値系のオンボロ物件では、ろくにオイル交換もされていなかったせいか、エンジンをかけるだけで不吉なうなり音を発生させている個体が多い。
そして、そこまでわかりやすくヒドい状態ではないにしても、どこか不吉な微小異音や微振動を発生させている安めの個体もある(で、そういった物件はたいていの場合、内外装も微妙にボロく、車内はちょっと嫌なにおいが染み付いていたりする)。
購入時は価格の安さに釣られることなくそういった物件は確実にパスし、そういった物件とは真逆の物件――つまり、車に愛情もお金も十分に注いでいたオーナーが手放した物件(整備履歴が優秀で異音もなく、内装および外装にも手荒く雑に扱われた痕跡がいっさいない物件)を選べば、この種の問題はそう簡単に起こるものでもないのだ。
とはいえ、「そうやって選べば絶対に問題は起きない」と断言することもできないのが、997型の問題をややこしくしている。だが、もしも「それらを踏まえたうえで購入してみたい」と考えるのであれば――比較的低走行な前期997型ポルシェ 911カレラ系の現在の中古車相場は、大いに魅力的である。
▼検索条件
ポルシェ 911(997型)×総額500万円台まで自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。
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