stelvio▲背の高いSUVが嫌いな人でも、乗ってみたらお気に入りのSUVが見つかるかもしれない……。東京から京都への道のりで、SUV嫌いに効くクスリは見つかるだろうか?

キレッキレのハンドリングSUV

ジュリアとステルヴィオの基本となるのはジョルジオプラットフォームといって、FCAエンジニア渾身の作だ。

BMW3シリーズあたりを追い越すべき目標として明確に捉えたFRのDセグプラットフォームで、ハンドリングコンシャスでスポーティな走りこそがラグジュアリーの基本だと言わんばかりのパフォーマンスを、セダンはもちろんのことSUVにまで与えることによって際立った存在感を示して見せたのだった。

が、しかし、スポーティの度がちょっとすぎたのかもしれない。セダンのジュリアならまだしも、世界的に売れて欲しかったSUVのステルヴィオには、もう少し“落ち着いた”、つまるところ SUVらしいドライブフィールを多くの人は望んでいたようである。

実際、ステルヴィオの走りはといえば、このクラスのSUVの中でもダントツに“スポーツカー”風味が強い。ここまでキレッキレのハンドリングSUVなどこのセグメントには他にない。

ちょっと試乗しただけでもその危なかっしいまでのハンドリング性が分かってしまうので、ファッショナブルなデザインには惹かれていたのに、購入は断念してしまったというアルファロメオファン以外の方も結構いらっしゃったことだろう。

そして、それにもまして純正ナビゲーションがなかったことも、購入を断る最後通牒となってしまっていた。「ナビがない」。客からそう言われてしまうと、よほど手だれのディーラー営業マン以外は素直に引き下がってしまったに違いない。フィアット 500ばっかり売ってきた人にはなかなか難しい話だろう。

スマホとの連動が常識となって久しい。けれども、純正ナビはもちろん、後付けの高性能ナビだって要らない、と思うのはどうやら一部の“先進派”だけらしく、多くの人は“分かっちゃいるけど車載ナビだけはやめられない”ようだ。

中には車載ナビがあってもスマホのナビアプリを使う、なんて人もいるというのに。専用ナビが付いていること。これがデフォルトでなければいけない、というそれは日本独特の風習かもしれない。

そんなわけだったので、ジュリアにもステルヴィオにもとにかく“純正ナビを付けてくれ~”、が販売現場の切実な叫びだった。

ジュリアの日本上陸からはや3年、やっと待望の純正ナビシステムが付くことになった。これでやっと普通に売れてくれる、はず。たとえこれがまた“付いただけ”という使えないナビであったとしても……。さてさて、一体どうなることやら。

stelvio▲2020年の一部改良に合わせて追加設定された2.2ターボディーゼル Q4 スプリント。車両本体価格589万円のエントリーグレードとなる
stelvio▲バイキセノンヘッドライトと18インチアルミホイールを標準装備する
stelvio▲ステルヴィオは2016年のLAショーでお披露目された、ブランド初のSUVモデル。車名はアルプス山中の有名なステルヴィオ峠にちなんでいる

自動追従も優秀。走りにはアルファロメオらしさが

ま、そんなことはもうどうでもよくて(よくないけれど)、今回、追加されたステルヴィオの新グレード、ターボディーゼルQ4スプリントで京都まで走ってみて大いに感心したことがあった。運転支援システムの自動追従がめちゃくちゃ上手なのだ。

好みの車間距離を設定し速度を決めてクルーズコントロールを起動するわけだけれど、徐々に前走車へと追いつき、スムースに減速、前がいなくなったら自然なタイミングで加速に移る。その一連の動作がものすごく滑らかで、加減速にギクシャク感などまるでない。

中でも減速のタイミングと初期制動のタッチがナチュラルで素晴らしい。これならずっとACCオンでいいと思ったし、実際、往復の高速道路ではほとんどの時間、ACCをオンにしていた。素晴らしいグラントゥーリズモである。

もっとも、その制御が素晴らしいと思えるのはあくまでもその効きかたが自分のドライビングスタイルに合っているだけ、かもしれないけれど。

ワインディングでは相変わらず楽しいスポーツカーだ。しっかりとした手応えを常にドライバーに与えつつ、思いどおりのラインをトレースし、操っているという気分に浸ることができる。これこそステルヴィオの魅力、否、アルファロメオらしさというものだろう。

そして、街中ではデビュー当初より少しは落ち着きのある走りになったような気がする。ノーズが先回りするようなシャープさではなく、切ったら切っただけ即座に動くというレベルにまで落ち着いた。

路面の段差や継ぎ目を越えるときのアシのいなしは今もってクラス最高レベルで、アシの作り込みの念入りさがうかがえる。シャシーには本当に金がかかっているのだ。

インテリアの見栄え質感も初期に比べてかなり上がっている。とはいえ、言ってみればクラシックな装い、ひと昔前のスポーツカーのようなデザインが、例えば奥様チョイスに漏れてしまう要因かもしれないとは思いつつ。

stelvio▲一部改良により質感を高めたインテリア。ワイヤレスチャージングパッドも用意されている
stelvio▲センターにタッチ式ディスプレイを設置。純正ナビだけでなく、車両設定やスマートフォンとの連携ができるコネクトシステムが備わっている
stelvio▲リアゲートにはバンパー下部へ足でジェスチャーを行うことにより開閉可能なハンズフリーテールゲートを採用している

最初に手を付けるモデルとしては適切かも

ある意味、SUV嫌いが最初に手を付けるモデルとしては適切かも知れぬ。SUVの嫌なところがかなり薄まったモデルだからだ。それゆえ、SUV全盛の世の中にあって思ったほど売れていないという可能性もあるのだけれど。

問題は、ちょっと中途半端な大きさと、やっぱり良い意味でも悪い意味でも内外装デザインにモダンさが欠けているところ。趣味の車ではないが、アルファロメオを選んだというだけで趣味性は達成していると思う。

そのあたり、車の作り込みも含めてどこまで割り切れるか。ポルシェあたりをもっと参考にしてもいいと思うのだが。

ステルヴィオよりひと回り小さいモデル、トナーレはプラグインハイブリッドで2022年に日本上陸予定らしい。それを積極的に待ってみる、という手もあるかなと思ってしまう。やっぱりSUV嫌いは今すぐには直らない。

stelvio▲2021年からの生産が発表されたコンパクトなクロスオーバーSUVのトナーレ。アルファロメオ初のプラグインハイブリッドとなる
文/西川淳 写真/西川淳、FCAジャパン

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。