西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 ランドローバー 新型ディフェンダーの巻
2020/11/10
無骨な先代のイメージを活用しつつ、最新デザインへと昇華
わが輩はSUV嫌いである。否、背の高い車全般がイヤだ。理由はシンプルで、背の低い車を運転することが大好きだから。スポーツカーに乗っていると、ちまたで流行りの“なんちゃらクロス”だって壁に見えてしまう。とにかくもう邪魔で仕方ない。踏みつぶされそうで怖い。
自分にとって嘆かわしいことに、世の中SUVだらけだ。もはやブームではない。SUVが“普通の車のカタチ”となって久しい。どころかクーペやオープンまで登場する始末で、完全にセダン時代と同じ流れになってきた。同じくそのまま廃れてしまえばいいのに、などとノンキに末路を待っているわけにもいかない。仕事のこともある。だから、とりあえずはどんなSUVにも乗ってみようじゃないか。ひょっとしてお気に入りが見つかるかも、と、まぁ個人的にはどっちでもいいことを妙に期待しつつ。
というわけで、ちまたで人気の新型ディフェンダーである。どうやら最近のSUV趣味はいっそうの無骨路線のようだ。要するに以前のクロカン四駆ブームの要素を色濃く引き継いでいる。メルセデス・ベンツ Gクラス然り、フォード ブロンコ然り、スズキ ジムニー然り。
このディフェンダーもまたウルトラ無骨なロングセラーモデルである先代のイメージを上手に活用し、最新デザインへと昇華させた後継機として、デビュー前から多くの注目を集めていた。そして、日本上陸。
早速借り出して京都まで走ってみようと思ったら、2Lガソリンモデルしかまだ用意がないという。うーん、燃費が心配だけどしゃあないか。
高速道路が快適な背の高い“GT”
それにしても、間近で見るとなんともデカいこと。面という面がシンプルにフラットだからよけいデカく見える。そして実際に乗ってもデカい。だいたいどんなにデカいと思っていても走り出してみれば数字ほどでもないというのが最新モデルの首尾というものだが、久しぶりに動かしてもデカいと思った。
おそらくこれには2Lガソリンエンジンの、十分とはいえモノ足りないトルク性能も関係していると思う。ちょっと緩い服を着たときのように、車との一体感がないからそう感じるわけだ。
走り出しは正に無骨なクロカン四駆らしかった。それも懐かしい。タッパのあるタイヤのトレッドパターンもかすかに感じつつ、揺れるように動き出す。ところが、しばらくするとその感覚が薄まった。速度を上げる(といっても街中レベルだが)につれ、徐々に上質なライドフィールを得る。
高速道路ではいっそう快適だ。こうなると昨今の背の高い車だらけの車線にあって、視線の高さがもはやマイクロバス並みのディフェンダーは強い。何しろSUVだろうがミニバンだろうが大抵は自分より小さく見えるのだ。気分のいいことこの上ない。ははーん、そういうことなのか、背の低い車でヤセ我慢なぞしているからこの感覚が分からずにいたのだ。いっそ、うんと背の高い車に乗ればいいだけのことか。だから皆どんどん大きな車を欲しくなって……。
皆さんにはディーゼル待ちでオススメ
京都に着いた。いいGTだった。燃費も思ったほど悪くない、というか、その前に同じパワートレーン(300psの4発ターボ+8AT)を積んだジャガーFタイプに乗ったけれど、高速燃費だけを比べると一割も違わなかった。これまた違う意味で凄い話だけれど。
けれどもさすがに京都の街中では乗るたびにちゅうちょがあった。ついつい、「あの路地の角、曲がれたっけ? 」とか、「あの出口の電信柱、大丈夫かなぁ」などと、デカい車で行って困りそうな場所をシミュレートしてしまうのだ。たいてい問題はないし、京都の街中では市バスも走り回っているわけだから、めったやたらと立ち往生するわけなんてないのは分かっちゃいるけれど。
悩んでしまう。気苦労だ。早く高速に乗りたーい!って、なんだ、それじゃSUVでなくてもいいんじゃないの?
実に良い車です。乗り味はいい。皆さんにはディーゼル待ちでオススメしておきますが、ボクのSUV嫌いには効かなかったってことで。
次のクスリ、お願いします。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。
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