「総額100万円ちょいで買えるポルシェ」こと初代ボクスターって、実際どうなんだ?
2020/08/15
それは天国への階段か、それとも地獄への片道切符なのか?
車好きなら誰もが……ということもないだろうが、まぁ多くの者が「人生一度は所有してみたい!」と考える、ポルシェというブランド。
しかしポルシェというのは人気のハイブランドなだけあって、その車両価格は新車も中古車も高い。具体的には、新車の911を買うとなれば(オプション装備込みで)ざっくり2000万円は必要で、中古でも、なんだかんだで500万円以上は必要になる場合が多い。
だが同じポルシェでも「初代ボクスター」であれば、総額100万円ちょいぐらいの予算でもなんとか買うことはできる。
とはいえその「総額100万円ちょい(150万円以下ぐらい)の格安初代ボクスター」とは、買ってもOKな代物なのだろうか?
購入したそばから各所がぶっ壊れて大変な目にあったり、壊れないにしても、もはやボロくて古くて何ひとつ面白くなく、「こんな車、総額100万円ちょいとはいえ買うんじゃなかった……」なんて後悔をしたりする可能性も、決してゼロではないはずだ。
実際のところはどうなのか? 以下、様々な方面から冷静に検討してみたい。
2.5から3.2Lの水平対向エンジンをミッドに搭載
まずは初代ポルシェ ボクスターという車自体についてのごく簡単なご説明を。
車好きからは「986(キューハチロク)」という型式名で呼ばれることが多い初代ボクスターは、1996年登場のミッドシップ・オープン2シーター。当初は最高出力204psの2.5L水平対向6気筒エンジンを車体中央付近に積むベースグレード「ボクスター」のみが販売され、1999年10月に最高出力252psの3.2Lエンジンを搭載する高性能版「ボクスターS」を追加。このとき同時に、ベースグレードの2.5Lエンジンは2.7Lに拡大されている。
そういった各種エンジンに組み合わされるトランスミッションは、マニュアルトランスミッションはボクスターが5MTで、ボクスターSが6MT。その他、両者とも5速ATの「ティプトロニックS」を選択することもできた。
2002年9月にはマイナーチェンジが行われ、前後バンパーやリアウイングの形状が若干変更するとともにウインカーレンズをクリア化。そして、それまではビニール製だったリアスクリーンが熱線入りのガラスに変更されている。
ポルシェ車としては比較的手頃な予算感の車であり、それでいて本格的なミッドシップスポーツである986型ボクスターは幅広い層から人気を集め、それなり以上のスマッシュヒットに。
そして2004年12月には2代目の987型にフルモデルチェンジされ、現在は4代目に相当する「718ボクスター」が新車として販売されている――というのが、かなりざっくりとしたものではあるが、986型初代ポルシェ ボクスターという車の概略である。
もはや見栄を張れる車ではないが、その乗り味はいまだ格別
で、まず最初の疑問というか設問として「そもそも今、初代ボクスターという車は買う/乗るに値する車なのか?」という部分について検討したい。
これに関しては「Yes、そりゃそうですよ!」というのが筆者の私見だ。
とはいえ、たまに他の媒体などで見かける「初代ボクスターという車は100万円ちょっとぐらいで買える車なのに、ポルシェはポルシェですから十分に威張りが利きますよ!」みたいな話ではぜんぜんない。
初代ボクスターは今や、いわゆる威張りやハッタリはほどんど利かない車であると思った方がいいだろう。
車に詳しく、なおかつ意地の悪い人間からは「古くて安いポルシェにまだ乗ってやがるwww」などと馬鹿にされ、詳しくない人からは「なんだかよく知らない古めのやつ」としか思われない車。それが、2020年における初代ポルシェ ボクスターの世間的な評価である。
しかし「世間の評価」なんてものはとりあえずクソくらえだと考えるなら、初代ボクスターは「いい車」である。「走らせて楽しい車」と言った方がいいだろうか?
整備済みの良質車であれば――という条件付きだが、今となっては小ぶりなサイズといえるボディは、すべてのポルシェ車に共通する「まるで金庫か戦車のようにがっちりしてる感じ」があり、車体中央にある水平対向エンジンは獰猛にして緻密。
それらを駆使しながら走らせる感触は、「人馬一体」と言ったらマツダ ロードスターの売り文句と同じになってしまうが、しかし実際そのとおりである。
筆者に言わせればマツダ ロードスターに「戦車感」あるいは「金庫感」を加えたものが初代ポルシェ ボクスターであり、それはそれは本当に素晴らしい車なのである(前述のとおりコンディションが良ければ、だが)。
ということで、初代ボクスターを買ったところで誰も「うわあ、ポルシェ買ったんですか? うらやましい!」なんて反応はしてくれないが、そこをハナから期待しないのであれば、初代ポルシェ ボクスターは「いまだ買う価値あり」な、非常に楽しい車であると断言できる。
整備履歴がイマイチな個体はまったくオススメできない
だが、いかに楽しい車であったとしても、それが「壊れてばっかの金食い虫」であったならば、人はまるで楽しくなど感じないものだ。そのあたり、初代ポルシェ ボクスターはどうなのか?
これについては「個体による」としか言いようがない。
中古の機械製品ゆえ「絶対に壊れない」などということはあり得ないが、それでも「特に問題はない」という個体は多く、それと同時に「あちこちがヤバい……」という個体も多い。
これすべて、基本的には歴代オーナーによるメンテナンス姿勢や扱い方の違いによるものである。
986型ボクスターといえば、エンジン内部にあるインターミディエイトシャフト(以下、IMS)のベアリングが破損してしまう可能性があるという話が有名だが、有名な話ゆえ、メンテナンスに敏感な人が乗っていた個体は、とっくの昔に対策品のIMSベアリングに交換されている。
しかし、愛車のメンテナンスに関してはとんと無頓着だった人に乗られていた個体は、対策品に交換されず、さらには「エンジンオイル交換もサボり気味」だったりしたため、エンジン後部からベアリングノイズが発生し(そのうちIMSベアリングが壊れるでしょう……)、シリンダー内部にキズが発生している可能性もある。
その他、リア・メイン・オイルシールという部品やバリオカムのタイミングチェーン・テンショナーのガイド部分の劣化などを放置したため、エンジン内部のコンディションを著しく悪化させてしまった個体もあるだろう。
このようなオーナーに乗られていた「総額100万円ちょい」の初代ポルシェ ボクスターを買ってしまうと、安く買えたのはいいが、結局はすぐに購入価格と同じぐらいの修理代がかかったり、それが払えずに(二束三文で)手放したり――ということにもなる。
しかし逆に言えば、そういったモロモロの消耗部品がこれまでしっかり交換されてきた個体であれば、もしくは販売店によって納車前に交換される物件であれば――古い車ゆえ、それでも乗ってるうちに少々の修理(部品交換)が必要になる局面は必ず出てくるだろうが――総額100万円ちょいのボクスターであってもぜんぜんフツーに乗れるものなのだ。
「整備履歴」を重視しながら焦らず探すべし!
以上の検討により、総額150万円以下の初代ポルシェ ボクスターに関しては以下の事柄を「結論」とすることができるはずだ。
1.今さら威張りが利く車ではない。しかし運転して非常に楽しい、素晴らしい車である。
2.だが、その素晴らしさも「コンディションの良さ」があって初めて感じられる。
3. ろくに整備されてこなかった個体を買うと(たぶん)ドツボにハマる。
4. それゆえ、まずは「整備記録簿」にて、これまでの部品交換歴をしっかり確認する。
5. そして販売店から納車前整備の内容について説明を受け、納得できる内容であるならば購入する。
上記4、5の手順を踏むことができたならば、総額150万円以下の予算でも「なかなか悪くない初代ボクスター」を入手することができるだろう。
もちろんこの他、内外装の美観チェックや異音や異臭の有無など、中古車選びにおけるお約束的な確認はしなければならないが、そこは当然すぎる話であるため割愛する。
ボクスター特有の注意点としては「2002年8月までのモデルはリアスクリーンがガラスではなくビニール製であるため、これが劣化して曇っていると後ろがまるで見えない」というのがある。
しかし、今となってはここも交換されている個体が多く、なかにはビニールスクリーン世代の個体であっても「熱線入りガラス(の社外品)」に交換されている個体もある。
このあたりは販売店の店頭にて都度都度、ソフトトップ全体のコンディションとあわせてご確認されたい。
いずれにせよ「ハズレ」さえ引かなければ、初代ポルシェ ボクスターというのはなかなか素敵で魅力的な中古車である。
ご興味のある方はぜひ前向きに、しかし焦らず、じっくりと良質物件を探していただきたい。
▼検索条件
ポルシェ ボクスター(初代)×総額150万円以下×全国自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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