「世界一かわいい車(?)」こと往年のフィアット500。でも、それって現代でも普通に乗れるの?
2019/08/30
現役オーナーに「で、大丈夫なんですか?」と聞いてみた
人は誰しも「往年のフィアット 500」に乗りたいと思っている――というのはかなり大げさな物言いで、大げさであるだけでなく、たぶん間違ってもいる。
だが漫画やTVアニメ、映画などでお馴染みの「ルパン三世」の劇中車でもある2代目フィアット 500(NUOVA 500/1957~1977年)を街角で見かけた際、多くの人は瞬間的にこのぐらいは思うだろう。
「かわいいな」
「ステキだな」
「ちょっと欲しいかも」
だが同時に、こうも思うはずだ。
「でもどうだろう……やっぱりいろいろ大変なのかな?」
つまりかわいくて魅力的な車であることはほぼ間違いないのだが、あまりに小さく、そしてあまりにも古い世代の車であるため、メンテナンスや利便性、あるいは受動安全性などの点で不安が残るわけだ。
いや、それは「残る」なんてものではなく「大いに不安だ」という感じかもしれない。
「実際のところ」はどうなのだろうか?
去る7月21日に静岡県湖西市で開催された「Unil opal5周年イベント」に来場していた2組のフィアット NUOVA 500オーナーに、正味のところを聞いた。
「愛」と「もう1台の車」があれが普通に大丈夫という説
まずお話を伺ったのは、70年式のフィアット 500Fに乗る愛知県小牧市の会社員、ぶるんぶるんさんと、ご子息である晶斗くん。
「NUOVA 500は、なんとなく欲しいと思っている人にオススメできる車か?」という、いきなり核心を突く質問に、ぶるんぶるんさんは即答した。「や~、ぜんぜんオススメはできませんね!」と。
「ちょっと面白い車が欲しい」と常々思っていたぶるんぶるんさんは今から約3年前、この車を買った。価格は「総額で190万円ぐらいでした」とのこと。
今のところ大した故障は出ておらず、様々な「小物」を、自作したりネットオークションで格安入手して取り付けるなどした愛車については、大いに気に入っているという。
だが「とにかく車内は暑いですし、大きな故障はないとはいえ、車検時の整備にはそれなりにお金がかかります。それゆえ『なんとなく欲しい』レベルの気持ちであるならば、やめといた方がいいと思いますよ」というのが、ぶるんぶるんさんが思っている正直なところだ。
そんな「暑くてお金がかかる車」に、ぶるんぶるんさんはなぜ乗り続けているのか? 答えは単純な話で、まずは「好きだから」という根本に加え、「もう1台、これとは別に普通の車も所有してるから」ということに尽きる。
「我が家はチンクの他に三菱 デリカD:5もありまして、通勤は基本的にデリカで行ってます。でもチンクで会社に行くこともないわけではないんですよ。その日は絶対に雨が降らない! と確信できて、なおかつ暑くない日には、このチンクで会社に行くこともあります」
暑さ対策として車内には扇風機を設置。息子の晶斗くんは最初、フィアット 500Fに乗ると「あせも」が出てしまう症状に悩まされた。だが扇風機と、ホームセンターで購入した通気性の良いシートクッションの導入により、あせも問題は解決したという。
「とはいえ小さい車ですから周囲の車から見落とされたり、ナメられたりするという問題もあります。だから、基本的には安易にオススメできる車じゃないんですよ。
でも、これ以外に何か普通の車がもう1台あって、なおかつチンクのことが本当に好きなのであれば、逆に『ぜんぜん大丈夫ですよ!』とも言える車なんですよね」
必要なのは「もう1台の普通の車」と「愛」。それが、ぶるんぶるんさんの結論だ。
「セカンドカーとして」ならば致命的な問題はない説
次にお話を伺ったのは神奈川県在住の馬場達也さん・由美子さんご夫妻。前オーナーが施工したらしき派手なオーバーフェンダーがシブい、65年式のフィアット 500Fに乗っている。
この個体を購入したのは取材日から数えてわずか7ヵ月前だが、フィアット 500については「十代の頃からずっと大好きで、いつかは乗りたいと思っていました」とのこと。
「ルパン三世の影響で(笑)、子供の頃からずっと好きだったんですよ。で、まずはコレじゃなくて現代版のフィアット 500を買ったんですが、やはりどうしても夢を叶えるというか思いを実現したくなり、7ヵ月前にコレを買ったという次第です」
一般的な販売店を通じての購入ではなく、ネットオークションを利用した個人間売買だった。だが売り手は大いに信用できそうな超ナイスガイで、車のコンディションも良さげだったことで決断したという。
NUOVA 500に乗り始めてからまだ7ヵ月とはいえ、現時点での結論はどうなのだろう? NUOVA 500は買っちゃっても大丈夫な車なのか?
「まあ大丈夫だとは思いますよ。情熱と愛と、あとは少々のお金があれば」
そしてもちろんというか何というか、「もう1台の普通の車」もないと厳しいと言う。馬場さんご夫妻の場合は、以前から所有している現代版のフィアット 500を、このNUOVA 500を手に入れてからも持ち続けている。
「中古車としてのコンディションは良好なんですが、それでも年式なりにちょこちょこ故障はします。キャブの調整が必要だったり、僕の場合はある日、燃料ポンプからガソリンが漏れちゃったということもありましたから。
なので、『車のメンテナンスはちんぷんかんぷんです!』みたいな人が買っちゃうと、さすがにちょっと厳しいかもしれません。でも、そういったこともある程度できるというか知ってる人なら、たぶん何とかなるんじゃないですか?
まずは買ってみて考える。そして、もしもダメだったら売却しちゃうというのもアリでしょう。今チンクの相場はけっこう上がってますから、すぐに売ったとしても大損はしないと思いますし」
妻の由美子さんは「本当はハマーみたいにおっきな車が好きだった」という。
「でも現代版のフィアット 500に同乗して、古いフィアット 500のオーナーズミーティングに何度も連れて行かれるうちにすっかり洗脳され(笑)、今ではこのチンクがかわいくてたまらないんです。コレ1台だとさすがにキツいですが、ほかにもう1台あれば、実はぜんぜん大丈夫なんじゃないですか?」
結局のところ馬場さんご夫妻がおっしゃるのも、前章でぶるんぶるんさんがおっしゃっていたこととほぼ同じ。つまり、「安易にオススメはできないが、『もう1台の普通の車』と『愛』があればおおむね大丈夫」ということだ。
ファーストカーではなく「セカンドカー」としてならば、2019年の今も十分検討対象になりえる、60~70年代製のカワイイ車。それが、フィアット NUOVA 500という存在なのだろう。
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
【関連リンク】
あわせて読みたい
- 西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 ランボルギーニ ウルスの巻
- EVハイパーカーメーカー「リマック」が今熱い!従来のスーパーカーを猛追するクロアチアの新星【INDUSTRY EDGE】
- 【功労車のボヤき】「オペルとは思えないほどイカしてる!」というトホホな褒め言葉に涙した日もあったけど……。オペル一族の逆襲!?
- 【試乗】メルセデス・ベンツ 新型Sクラス│”新時代の車”を堪能できるラグジュアリーセダンの最高峰!
- 植田圭輔さんが、真っ赤なポルシェで緑の中を駆け抜ける!
- 世界で3社しか市販していないレアなFCVの1台、トヨタ MIRAIのドライブフィールに注目! 【EDGE’S Attention】
- 【試乗】新型 アウディ A4 アバント│実用性の高いアバントボディがクアトロらしい俊敏な走りとマッチし、絶妙にバランスがとれた逸品
- 手にするものはすべてがアート。自然を愛するアーティストは世界で1台だけのメルセデス・ベンツ Gクラスに乗る
- アルピナ B8 4.6リムジン。それはある意味「永遠の命」をもつ希少名車だった。【NEXT EDGE CAR】
- おでかけは、あえて2台で。家族のようなランドローバー ディフェンダー90とルノー カングー