▲「最初はとりあえず安めの国産中古車で」と勧める人は多い。その意見に一理あることを認めたうえで、こうも思う。「いきなり輸入車を買ってもいいじゃん」と。多少難しい点もあるが、意外となんとかなるものだ ▲「最初はとりあえず安めの国産中古車で」と勧める人は多い。その意見に一理あることを認めたうえで、こうも思う。「いきなり輸入車を買ってもいいじゃん」と。多少難しい点もあるが、意外となんとかなるものだ

路上のデイトレードで大損をぶっこいた青年

見たところ22歳ぐらいの青年が、中古車販売店前の歩道で外国為替の売買をしていた。スマホを使ったいわゆるデイトレードだ。

「なぜここで……?」と思いながらもちらりと画面を覗いてみると、彼の売買はあまりにも下手くそで、あまりにもリスキーだった。

このままでは巨額の損失を食らうことは目に見えていたため、大きなお世話とは知りつつも声をかけた。「その買い、やめといた方がいいのではないですか?」と。

案の定「大きなお世話じゃ! 失せろやオッサン!」と怒鳴られたわけだが、次の瞬間、彼のスマホから「ピコ~ン!」というアラート音が聞こえた。先ほど買いを入れたトルコリラが急落し、大きな含み損が生じたことを警告する音だった。

「ああ……」と喘いで歩道に崩れ落ちた青年に、わたしは言った。

「ここで会ったのも何かの縁です。わたしでよければ話を聞きましょう」

▲なぜか中古車販売店の前でFX(外国為替証拠金取引)のスマホトレードを行い、いきなり多額の含み損を抱えた青年(のイメージ)▲なぜか中古車販売店の前でFX(外国為替証拠金取引)のスマホトレードを行い、いきなり多額の含み損を抱えた青年(のイメージ)

その後、崩れ落ちた彼が語ったところによれば、見立てのとおり彼は22歳の新社会人。学生時代に貯めたお金と、今後見込める月給を元手に中古の国産コンパクトカーを買うべく、ここへやってきたのだという。

「で、なぜそこでいきなりFX(外国為替証拠金取引)を?」

「……FXで儲けて、現金一括払いで国産中古車を買おうと考えたのです」

より詳しく聞いたところによれば、事情はおおむね以下のとおりだった。
 

今どきはドイツ車より国産車の方が高性能?

彼が当初買おうと思っていたのは、国産車ではなくフォルクスワーゲン ゴルフというドイツ車だった。といっても数世代前の中古で、総額50万円ぐらいで買える程度のドイツ車である。

だが、会社関係の飲み会の席でそのことを上司や先輩に話すと、猛反対されると同時に、モーレツに馬鹿にされた。

「今どきわざわざ輸入車こだわるなんて」

「おとなしく国産買っとけよ。車は日本製が結局はイチバンなんだから」

「そうだよ。最近はむしろ国産車の方が性能いいらしいし」

「ドイツ車なんて、しかも10年以上前の中古ドイツ車なんて、故障の連続でどうにもならないってよく聞くぞ?」

「そうそう。カッコいいと思ってるのは本人だけで、まわりからはダサいと思われてるだろうしww」

などと、さんざんな言われようだったらしい。

▲総額50万円ほどで買えるフォルクスワーゲン ゴルフには様々な世代があるが、代表的なのがコレ、2004年から2009年まで販売された2世代前のモデルで、通称は「ゴルフ5(ファイブ)」▲総額50万円ほどで買えるフォルクスワーゲン ゴルフには様々な世代があるが、代表的なのがコレ、2004年から2009年まで販売された2世代前のモデルで、通称は「ゴルフ5(ファイブ)」

その場では悔し涙にくれた彼だったが、翌朝冷静になってみると「……確かに先輩方がおっしゃるとおりかもしれない」と思い直し、当初の計画は破棄。そして計画を練り直し、中古の国産コンパクトカーをローンで買うべく本日ここへやってきたらしい。

「でも、突然ちょっとイヤな気分になりまして……」

彼いわく、ゴルフに対して月々1万円ぐらいのローンを払うのはぜんぜん苦にならない。だが意中の車ではなかった国産コンパクトの中古に月々1万円とか8000円とかを支払うことに、急激に嫌気がさしたとのだという。

「……それでいきなりFXで稼いでみようと思ったわけですが、もう大丈夫です、吹っ切れました。黙って国産コンパクトの中古をローンで買いますよ。だって性能的にはドイツ車も国産車も変わらないっていうか、むしろ国産車の方がいいって、会社の先輩も言ってましたし」

「ユー、それは間違っているぞ」

「は?」

「正確にはユーではなく、間違っているのは会社の先輩たちだ」

「どういうことでしょう?」

「今説明する。ちょっと待て」

▲「今やドイツ車も国産車も性能は大して変わらない」と言う彼の会社の先輩。その見解は本当に正しいのか?▲「今やドイツ車も国産車も性能は大して変わらない」と言う彼の会社の先輩。その見解は本当に正しいのか?

最新世代は確かに拮抗している。だが中古車の場合は?

説明しよう。確かに先輩らが言う「最近はむしろ国産車の方が性能がいい」というのは、あながち間違いではない。

例えばマツダの現行型デミオあたりは、同世代・同クラスのドイツ車と比べて「より優れている」かどうかは知らないが、少なくとも「ほとんど遜色ない」とは断言できる。

そしてデミオ以外でも、そういった例はけっこうある。最近の一部の国産車は確かに素晴らしいのだ。それゆえ「国産買っとけよ!」という先輩氏の意見は、決して間違ってはいない。

だがそれは「最新世代のモデル同士」で比べた場合の話である。

ユーが買おうとしている総額50万円ぐらいの中古車、つまり10~20年落ちぐらいとなる小型セグメントの中古車同士で比較するならば、いまだドイツ車の方が「走りの本質」の部分で大きく勝っている可能性は高いのである。

▲ちなみに写真のモデルはゴルフ5の「GT TSI」というグレード。1.4Lの直噴エンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーを組み合わせ、最高出力170psを発生する▲ちなみに写真のモデルはゴルフ5の「GT TSI」というグレード。1.4Lの直噴エンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーを組み合わせ、最高出力170psを発生する

「ちょっと待ってください! その『走りの本質』とかいうぼんやりしたフレーズは何ですか? ぜんぜん意味わかりません!」

これは失敬。より具体的に言おう。それはつまり「ドライバーのイメージに忠実に動いてくれるかどうか?」ということである。

「まっすぐシュッと加速しながら走りたいな」とイメージしたときに、そのとおりキレイにまっすぐシュッと、気持ちよく加速および直進をしてくれるか?

「スッと曲がりたいな」とイメージした際に、そのイメージどおりにスッとスムーズに、そして不安なくコーナリングが完了するか?

そして「あそこらへんでほわっと止まりたいな」とイメージしたとおりの動きでなめらかに減速したのち、ほわっと停止してくれるか?

細かいことを言えば他にも多々あるが、超大ざっぱに言えばこの3点こそが「走りの本質」である。そしてこの3点がちゃんとしている車は、それすなわち「いい車」である。

「そういうもんですか?」

そういうもんなんですよ。

50万円級であっても「技術点と芸術点」はまあまあ高いゴルフという車

「でも、そんなの当たり前の話じゃないんですか? どんな車でも、壊れてない限りはまっすぐ走るし、曲がるし、止まるじゃないですか?」

それが意外とそうでもないんですよ。や、確かに貴君がおっしゃるとおり、どんな車だって(壊れてなければ)普通に走って曲がって止まりはしますよ。

でもね、そのなかでの「技術点と芸術点」みたいなモノを厳密に審査すると、いや厳密にじゃなく「なんとなく」でも審査してみると、ぜんぜん違うんですわ。

「そういうもんですか?」

そういうもんなんです。

で、総額50万円ぐらいで買えるフォルクスワーゲン ゴルフと、同じぐらいの価格で買える国産コンパクトの中古車を比べると、やっぱゴルフまたはポロの方が走りの本質における「技術点と芸術点」は高いんですわ。もちろん「ちゃんと整備されていること」という条件付きですけどね。

「つまり国産車よりゴルフ/ポロの方が優れている、と?」

や、そうは言ってない。先ほども言ったとおり、最新世代同士で比べれば「ほぼ互角」であるケースも多い(※100km/h以下で走行する場合)。

そして、言ってはなんだが50万円で買えるド中古のゴルフと新車のマツダ デミオを比べるなら、これはもう圧倒的にデミオの方が上だ。

それゆえ、もしも貴君が比較的高給取りであるならば、デミオを新車で買いたまえ。あるいはスズキの現行型スイフトスポーツとか。

だが「総額50万円以下ぐらい」という条件で「なるべく気持ちよく走れる車」が欲しいのであれば、ゴルフを選んだ方が満足できる可能性が高い――ということをわたしは言っている。ドゥ・ユー・アンダスタン?

「イエス、プロバブリー。……ご意見を踏まえ、もう少々考えてみます。では失敬」

そう言って彼は去っていった。

▲何かとオススメしたいゴルフ5だが、DSGというデュアルクラッチ式トランスミッションは正直トラブル報告も多い。その意味では6MTの「GTI」を選びたいところ。ただし6MTのGTIは流通量がやや少なく、相場も総額70万円~といったイメージになるのだが▲何かとオススメしたいゴルフ5だが、DSGというデュアルクラッチ式トランスミッションは正直トラブル報告も多い。その意味では6MTの「GTI」を選びたいところ。ただし6MTのGTIは流通量がやや少なく、相場も総額70万円~といったイメージになるのだが

その後、彼が何を買ったのかは知らない。

だが若き日々の経験は、いや、より具体的には「初体験」での刷り込みというのは、何事もけっこう重要だ。

それゆえ願わくば彼が「いい動きをする車」を人生初の車として選んでくれることを、他人事とはいえ、まあまあ熱心に願っている筆者ではあるのだ。

▲こちらは2009年から2013年まで販売された通称ゴルフ6。こちらも、比較的新しいにも関わらず総額35万円ほどから狙えてしまう。ただし、お安いのは「DSGに不安が残る」という理由があるから。価格だけに目を奪われて、ろくに整備履歴の確認もしないまま買うことだけは避けたい▲こちらは2009年から2013年まで販売された通称ゴルフ6。こちらも、比較的新しいにも関わらず総額35万円ほどから狙えてしまう。ただし、お安いのは「DSGに不安が残る」という理由があるから。価格だけに目を奪われて、ろくに整備履歴の確認もしないまま買うことだけは避けたい
文/伊達軍曹、写真/フォルクスワーゲン、photo AC

▼検索条件

フォルクスワーゲン ゴルフ(2004年6月~2009年3月生産モデル)×総額40万~60万円×全国

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フォルクスワーゲン ゴルフ(2004年6月~2009年3月生産モデル)×全国
伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。