▲見る分には素敵なビンテージカーだが、現実的に乗って使うとなると不安な部分も。クラシカルなそれは残しつつも、現代の路上でフツーに運転できる、もう少しハードルの低い車が欲しい……とは思わないだろうか?▲見る分には素敵なビンテージカーだが、現実的に乗って使うとなると不安な部分も。クラシカルなそれは残しつつも、現代の路上でフツーに運転できる、もう少しハードルの低い車が欲しい……とは思わないだろうか?

大変貴重なボルボの旧車に試乗!

過日、ボルボ・カー・ジャパンの公式ビンテージ系整備/販売部門である「KLASSISK GARAGE(ボルボ・クラシック・ガレージ)」によるプチ試乗会があった。

試乗会に出てきたクラシックボルボは主に2グループで構成されていた。

ひとつは、当欄にて既報の940エステートと240エステート。これは「ちょっと古い系」のグループに該当する。

240の方は93年式で、940は96年式。どちららもクラシックであることには間違いないが、「まあまあ新しい」とも言えなくはない車である。

だがもういっぽうのグループは、「まあまあ新しい」とは口が裂けても言えない2台のボルボだった。

1台は、73年式のP1800 ES。P1800というのは1960年から73年まで製造販売されたスポーティモデルで、「ES」というのはそのステーションワゴン的バージョン。近年で言う「C30」のご先祖様に相当する。

その試乗車は、走行12万kmの2オーナー車であった。

そしてもう1台が、なんと走行35万kmのワンオーナー車である70年式122Sアマゾンだった。

▲こちらが73年式のP1800ES ▲こちらが73年式のP1800ES
▲こちらが70年式122Sアマゾン ▲こちらが70年式122Sアマゾン

アマゾンというのは1956年登場のボルボ製中型乗用車。

こちらの個体は京都在住のとある方が新車で購入し、その後約44年間、その方が90歳で運転免許を返納するまでお乗りになっていた個体だという。

そして44年間のメンテナンス記録も、1枚残らず紙で残っているとのこと。

そんな2台のクラシックボルボに2019年の今乗るというのは、果たしてどんな感じなのか?

次章以降、簡潔にご報告したい。

車としてはもちろん、ストーリーも魅力的

まずは走行35万kmの70年式122Sアマゾン ワンオーナー。……これが本当に素晴らしい1台だった。

(たぶん)お金持ちのおじいちゃんが、(たぶん)近所の正規ディーラーで約44年間にわたりバッチリ点検整備してもらってきた個体だけあって、そもそもの「素性良しオーラ」が濃厚に漂っている。

それに加えて「ボルボ・クラシック・ガレージ」が腕によりをかけてレストアおよび整備したのだから、イマイチな個体であるはずがない。

そもそもの作りがクラシックゆえに、動きもクラシックではある(要は機敏に動くのはちょっと苦手ということ)。

だが逆にその分だけ、「すべてにわたる程良さ」を全身で味わうことができる。

あまりにも大柄になってしまった現代の車とはまるで違う程良いサイズの、程良い機械力を発揮する乗り物を、程良い範囲で「手動にて操る」という、今や得難い感触と感慨。

これには筆者も思わず運転中に笑みをこぼしてしまった、というか大笑いしてしまった。

いや筆者よりも、同じくアマゾンのステアリングを握ったカーセンサー編集長 西村氏の強烈な笑顔の方が、この車の魅力を端的に表しているかもしれない。

▲見よ、この笑顔!(終始「最高ですね!」と連呼していた西村氏) ▲見よ、この笑顔!(終始「最高ですね!」と連呼していた西村氏)

同行した編集部 井上女史はMT免許への限定解除を行ったばかりということで、「公道初MT車がコレというのはあまりにも荷が重い」と運転を辞退したが、つくづくもったいないことをしたものだ。

こんなにも楽しいMT車など、そうそう運転できるものではないというのに……。

そしてもういっぽうの73年式P1800ES。

こちらも46年落ちとは絶対に思えないほどのビジュアルと質感、そして操縦性が回復されていた(さすがは素性良しの個体を、ボルボ・クラシック・ガレージが本気でレストア&整備しただけのことはある)。

Photo:尾形和美

ただしこちらはスポーティモデルゆえか、ノンパワーアシストのステアリング(いわゆる重ステ)が非常に重く、またブレーキのタッチも現代の車とはかなり異なるため、運転には正直けっこう難儀したことを告白しておく。

実際に「乗って」「使う」ことの難しさ

さて。

この2台が「素敵か素敵じゃないか?」と問われれば、言うまでもなく超絶ステキである。

お金の余裕さえあれば2台ともぜひ購入させていただき、自宅ガレージに飾っておきたい。遺憾ながらガレージはもってないのだが。

だがそれは「飾りたい」であって、「乗りたい」というのとはちょっと違う。

前章で「MT免許取り立ての編集部 井上女史が、アマゾンの運転を辞退した」ということを少々非難めいて記したが、実は筆者にも彼女の気持ちはよくわかるのだ。

超絶カッコいいとしか言いようのない2台だが、これを2019年のハイスピード化した公道で安全に走らせるのは決して簡単ではない。

ボルボ・カー・ジャパンの社長氏は71年式のP1800を普通に普段づかいしてらっしゃるとのこと。

それについては超絶リスペクトしたいが、筆者は真似するつもりはない。なぜならばおしゃれ旧車のハンドルはあまりに重く、ブレーキは(現代の車と比べれば)あまりにプアに感じられるからだ。

「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」というのは大昔のハムのCMだが、筆者としては「軟弱と言われてもいい、このクラシカルな雰囲気だけが欲しい」と、恥ずかしながら思うのである。

もしも前述のとおり「このクラシカルな雰囲気だけが欲しい=現代の路上でも割とフツーに運転できる、もう少しハードルの低い車が欲しい」と考えた場合、購入すべき対象は果たしてどれになるだろうか?

考えられるもののひとつは、シトロエン 2CVだろう。

Photo:伊達軍曹

1948年にフランスで発表された、もともとは「農民用の車」である。

……ボルボのアマゾンやP1800より古い、なんと1948年登場の車を出してきてコイツは正気か? とお思いかもしれない。

だが筆者は正気である。

確かにすべての設計が古いシトロエン 2CVではある。とはいえ超軽量&シンプルゆえ、その操作性は意外と良好なのだ。※筆者は実際乗ってました

当然「重ステ」だがステアリングはぜんぜん重くなく、プアなブレーキも意外とよく利く。

エアコンがないため真夏の昼間は地獄だが、それ以外は2019年の公道でもぜんぜんフツーに使える車だ。

それゆえ、世界中で今なお熱烈に愛好されているのだ。

シトロエン 2CVと同様の理由により、フォルクスワーゲン タイプI(通称ビートル)も大いに推奨したい銘柄である。

Photo:フォルクスワーゲン

これまた作りはすべてが古くさいが、2CV同様に軽量&シンプルゆえ、少々の慣れはもちろん必要だが、いまだ公道で気楽に乗ることができる車だ。

マニアな人は希少な1953年から1957年までの「オーバルウインドウ」や、それ以前の「スプリットウインドウ」にこだわったりもする。

だが決して希少ではない後期型のやつでも十分楽しく、2003年まで生産が続けられた「メキシコ物」だってぜんぜんOKだ。

専門店やパーツ類が豊富な点も、維持のしやすさに貢献するだろう。

「若干モダンすぎる」という意見もあるかもしれないが、W123こと1970年代半ばから80年代半ばのメルセデス・ベンツ ミディアムクラスも、なかなかナイスな選択である。

Photo:メルセデス・ベンツ

こちらは設計が新しい(?)だけあってパワステ付きで、専門店も愛好家も多いため、整備に関する情報や部品類も豊富。さほど気負うことなく「甘美なネオクラシックライフ」を始められるはずだ。

この他にも候補はあるかもしれない。

ぜひいろいろと「現代の車では絶対に味わえない雰囲気をもちつつ、でも意外とフツーに運転することもできる1台」を探し当てていただきたいと、クラシックボルボのたおやかなボディラインを眺めつつ、筆者は思うのであった。

文/伊達軍曹、写真/尾形和美、伊達軍曹、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ

伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター/輸入中古車 評論家

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。