EV時代が来る前に聴いておきたい「ベルリン・フィルのフォルティッシモ」ことゴルフ R32の美快音!
2017/11/23
自動運転EVの時代が近いからからこそ「名作エンジン」が欲しい
自動車の世界は今、2020年とその先の社会に向けて「電動化」と「自動運転化」の道をフルスロットルで突っ走っている。その巨大な波にはもはや抗いようがない。
古典的な自動車愛好家である筆者も10年か15年後ぐらいにはタマゴみたいな形の自動運転EVか燃料電池車に乗り、高速道路の自動走行レーンをのんびり進んでいることだろう。
だがそれはそれとして、今のうちにぜひやっておかないと自動車愛好家としての魂が成仏できないよ! という行動がひとつある。
それは「名機と呼ばれたガソリンエンジンを存分に味わう」ということだ。
や、別にガソリンじゃなくディーゼルでもいいのだが、「名機」と呼ばれるのは大半がガソリンエンジンであるゆえのガソリン推しである。
で、多少燃費は悪いのかもしれない。排ガスも、今現在の基準で見れば濃いのだろう。だがそれでも、社会が許してくれている今のうちに、世界的な名作ガソリンエンジンにて己の魂を燃焼および昇華させたいのだ。誰が何と言おうとも。
人間の心を根源から揺さぶってやまない名作エンジン。それは数多く存在するはずだが、その中のひとつが、フォルクスワーゲン ゴルフ R32が積んでいた3.2L自然吸気の狭角V6ユニットである。
ダウンサイジングターボでは味わうことができない何か
詳しい方には今さらな話だろうがフォルクスワーゲン ゴルフ R32とは、ゴルフ4の時代に限定車として登場し、その後のゴルフ5ではカタログモデルに昇格した「スーパーゴルフ」だ。
ゴルフのコンパクトなボディに、当時のフラッグシップだった「フェートン」と同じ狭角バンクの3.2L V6を搭載。
トランスミッションは6MTで(※ゴルフ5のR32はセミATのDSGも用意)、駆動方式はハルデックスカップリングを用いたフルタイム4WDの「4MOTION」。
そして足回りやエクステリア、インテリアにもそれ相応の改変が加えられた、まさにスーパーなゴルフだったのだ。
……と力説しても、半信半疑な方もおられよう。
「その後のゴルフRの方が性能は上じゃない?」とか、「しょせんゴルフ4のR32で最高出力241psだし、ゴルフ5のR32でも250ps。今の時代なら、それ以上の数値出してるCセグ用エンジンなんてたくさんあるんですけど?」などと。
それは確かにそのとおりだ。
だがしかし、そうおっしゃる方も一度R32に乗ってみればすぐにわかるはず。「なるほど、ダウンサイジングコンセプトが流行る前の大排気量・自然吸気エンジンならではの魅力ってやつか!」と。
アルファロメオのV6とはまだ別の快感、そして快音
確かに、後継にあたるゴルフ6(2009~2013年)の「R」は最高出力256psで、現行ゴルフ7のRは310ps。数値の問題だけでなく実際乗ってみても、それらはR32以上の強烈なパフォーマンスを体感できるなかなかのモノである。
しかしそれは、あくまでも「やや小さな2L直列4気筒エンジンにターボチャージャーをカマセて得た結果」だ。小ぶりな車向けとしては巨大と言える3.2Lの高性能自然吸気エンジンがゆったりと、しかし緻密に大炸裂する様とは何もかもが違う。
どちらが良いとか悪いとかの問題ではなく(むしろ工学的な正しさは小排気量ターボの方にあるだろう)、とにかく感触が異なるのだ。
そしてR32は「音」も素晴らしい。
「緻密な美爆音」とでも言えばいいのだろうか。同じ3Lクラスの自然吸気V6エンジンでも、例えばアルファロメオのそれは非常に肉感的なニュアンスだ。
しかしR32の狭角V6が奏でるエンジン音ならびに排気音は、緻密な統制を受けた、だがそれでいてなぜか人間の魂を揺さぶる種類の爆音。アルファのV6がパンクロックなら、こちらR32のV6は「ベルリン・フィルのフォルティッシモ」だ。
良質な個体を探したいなら少々急いだ方がいい
以上のように、ある種の自動車愛好家にとっては非常に好ましい内燃機関を搭載していたフォルクスワーゲン ゴルフ4およびゴルフ5のR32。その名機としての価値はいささか過小評価されている感もあるが、「名機」「名車」と評されていることには違いない。
それゆえさほど急がずとも、例えば2年後とか4年後でも、市場でそれなりのゴルフR32を見つけることはできるだろう。
しかし世の中というのはいつだってTime and tide wait for no man(歳月人を待たず)であるため、いわゆる良質な中古車の数は日を追うごとに確実に減少していく。
現時点(2017年11月中旬)でも、修復歴なしのゴルフ4 R32は全国で25台しか流通しておらず、ゴルフ5のR32でもその数は28台にすぎない。
その中から「なるべく低走行で、なるべく内外装のコンディションが良くて……」という個体を探そうと思うなら、ボヤボヤしている時間はあまり残されていないことは明白だろう。「善は急げ」なのである。
いや……。今の時代に、何かとディープで燃費も良くはない旧式V6エンジンを求めるのは、決して「善」とは言い難いのかもしれない。しかしそれでも我々は、というか私は、それを求めてしまうのだ。残された時間が少ないからこそ。
あなたはどうだろうか?
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