▲そのクオリティゆえ新車も中古車もお高いのがポルシェという車のお約束ですが、初代ボクスターだけは100万円台半ばの予算でも結構いい感じの物件が狙えるのです ▲そのクオリティゆえ新車も中古車もお高いのがポルシェという車のお約束ですが、初代ボクスターだけは100万円台半ばの予算でも結構いい感じの物件が狙えるのです

2座+屋根なしだからこそ、たまに「えっ!」と驚くほどの掘り出し物が

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、ごくたまに訳あって舶来品の腕時計を買う必要がある場合は銀座に多数あるしゃれた正規店ではなく、中野駅近くの雑然とした某ショッピングビル内にある某格安店で買うと心に決め、ニッポンの中流ド真ん中を生きている。

しかし、わたしが本当に欲しいのはロレックスやらIWCやらの舶来腕時計ではなく、ポルシェなどの舶来スポーツカーだ。現在メインで使っている自家用車は釣り用に買ったルノーの初代カングーで、それはそれで大満足しているのだが、カングーに加えてポルシェ社の何らかのスポーツカーが(中古で全然十分なので)1台あれば我が人生は完璧である。「憧れのライフスタイル」がほぼ成就する。

▲写真は筆者の初代ルノー カングー。これはこれで非常に素晴らしい荷物グルマですが、できれば人生「最高の荷物グルマ+最高のスポーティカー」の2台体制でいきたいところ ▲写真は筆者の初代ルノー カングー。これはこれで非常に素晴らしい荷物グルマですが、できれば人生「最高の荷物グルマ+最高のスポーティカー」の2台体制でいきいたいところ


しかしポルシェ社のスポーツカーは、端的に言って高い。考えてみれば「憧れの対象」が安いというのもナンセンスゆえ、高くて当然なのだが、それにしても高い。一時期わたしが乗っていた90年代初頭のタイプ964という空冷911も、当時はATなら200万円ちょいも出せば乗れる車だったが、昨今は相場が高騰したため600万円以上が当たり前。状態の良い5MTだと1000万円を超えることも珍しくない。そして新車は当然ながらすべて1000万円オーバー。……とてもじゃないが中流ド真ん中を自負する人間が買える車ではなくなったのだ。

ということで、中流人は今後、舶来スポーツカー界の主たるポルシェ社のスポーツカーには一切触れることなく一生を終えるのかと思うと暗たんたる気持ちになるわけだが、精神的な暗闇の中で一筋の光明が見えたような気もした。

「そうだ、初代ボクスターがあるじゃないか」と。

 

▲ポルシェ社が現在も第3世代を販売しているミッドシップ・2シーターオープン「ボクスター」の初代モデル。写真はリアの窓がビニールスクリーンからガラスに変更された02年9月以降のモデル ▲ポルシェ社が現在も第三世代を販売しているミッドシップ・2シーターオープン「ボクスター」の初代モデル。写真はリアの窓がビニールスクリーンからガラスに変更された02年9月以降のモデル


ご承知のとおりボクスターはポルシェ社が製造・販売する2座式のオープンスポーツカーで、リアにエンジンを搭載する911と違ってボディのほぼ中央に水平対向6気筒エンジンを搭載する。つまりはF1マシンやスーパーカーと同じ「ミッドシップレイアウト」である。で、その初代モデルは日本では96年から04年まで輸入販売され、99年途中までの初期ベースグレードが排気量2.5L、それ以降のベースグレードが2.7Lのエンジンを搭載。その他に「ボクスターS」と名乗る高出力版があり、こちらは年式を問わず3.2Lの水平対向6気筒を搭載していた。

で、この初代ボクスターとボクスターがめっぽう安いのだ。いや「めっぽう安い」といってもそこは天下のポルシェ車であるゆえ、さすがに50万円以内で手に入れることは難しい。しかし車両価格でおおむね150万円を見ておけば、まずまず好条件な中古物件を探すことができる。「150万円」という金額を安いとするか高いと考えるかは人それぞれだが、筆者個人としては「三菱 ミラージュが150万円!」という場合はさておき、「ポルシェが150万円!」というのは十分「安い!」と考える次第だ。
 

▲ライトウェイトスポーツやスーパーカーのような激しいコーナリングではなく、比較的鷹揚な走りを得意とする車だが、いかにもポルシェらしい全体にただよう重厚感はクセになる味わい ▲ライトウェイトスポーツやスーパーカーのような激しいコーナリングではなく、比較的鷹揚な走りを得意とする車だが、いかにもポルシェらしい全体に漂う重厚感はクセになる味わい


「いや新車のボクスターが150万円ならそりゃ『安い!』だろうけど、中古だろ? あんまりにもボロいようだと150万円でも『高い……』ってことになるんじゃないの?」と、そういった疑問も当然ながらあるだろう。

それについてはこのように答えたい。確かに、販売終了から11年もたっている車であるゆえ、結構ボロくなっている個体もある。特に初期の2.5L仕様は(軽快で本当に素晴らしいマシンなのだが)注意深く取捨選択する必要がある。また2.7L仕様や3LのボクスターSにしても、本質的には2.5Lの状況と似たようなものだ。

しかし丹念に探せば、「えっ、この値段でこんなに状態がいいわけ?」とうなってしまうほどの初代ボクスターは結構あるものなのだ。要するに「掘り出し物」である。

一般論として中古車の世界に掘り出し物というのはあまりなく、値段なり(高いやつはGoodで、安いやつはNot so good)である場合が多い。しかしボクスターは「2人しか乗れず、なおかつ固定屋根がない」という、買い手にとってなかなか厳しい条件を備えた車であるため、売り手としてはさほど強気なプライスを付けられないのだ。

「バリバリのニューモデル」や「伝説の名車」であれば2座式オープンでも強気な価格となるのが世の常だが、初代ボクスターは幸か不幸かそのどちらにも該当しない。だが確実に「いい車」であることだけは間違いない。そういったある種の非対称性ゆえに、初代ボクスターの中には「えっ、この値段で(以下略)」という掘り出し物が希に存在するのだ。仮に掘り出し物とまでは評することができずとも、「この値段でコレなら全然いいじゃん!」と思える個体は結構な数が存在する。それが、現時点における初代ポルシェ ボクスターの中古車状況である。

▲ポルシェ 911に通じるデザインの3連メーターが特徴となる初代ボクスターのインパネまわり ▲ポルシェ911に通じるデザインの3連メーターが特徴となる初代ボクスターのインパネまわり


中古車を探す際の具体的なポイントは「とにかく整備履歴重視で」ということだ。内外装コンディションが良好な物件が多いとはいえ、最終型でも11年落ちの車である。ソフトトップの状態やそれを動かすモーターの交換歴、弱点とされるウォーターポンプや冷却水のリザーバタンクの交換歴などは必ず確認した方が良いだろう。

で、そういった整備がビシっとされていて、なおかつ内外装コンディションが良い初代ボクスターの中古車価格は、ぶっちゃけそう格安ではない。しかし総合的に見れば、そういった個体の方が結果としては高コスパなのである。輸入車全般にいえる話だが、どうしたって部品代がそこそこ高額となるポルシェにおいては特に当てはまる話だ。ぜひ、前オーナーが丹念に整備した初代ボスクスターを漁夫の利的に入手し、そして「世界的オープンスポーツとともにある生活」を存分に楽しんでいただきたいと思う。いや、その前にわたし自身がそれを楽しみたいわけだが。
 

text/伊達軍曹
photo/ポルシェジャパン