これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「車は50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。
ロードカーのスタイルながら中身は本物のレーシングポルシェその実力は疑うべくもない
——松本さん、この連載で紹介する車種でご相談なんですが、今回はポルシェをやりたいんですよ。
松本 いいけど、ポルシェは結構紹介しているよね? でも、まだまだ紹介したいモデルがあるのも事実だね。今までにナローやタイプ930、356も取り上げたよね。
——最近ではカイエン GTSなんかもやりました。
松本 でも、ここで本当に紹介したいのは、ツーリングカーではなくスポーツカー。それも最高峰モデルを紹介したいんだ。僕がステアリングを握らせてもらったポルシェの中でもこれは最高、というモデルはエントリーモデルにも多いんだけど、やっぱり最高峰なんだよ。
——松本さんが乗っていた1967年の911Sは最高だと言ってましたよね。紹介したいのはそういうモデルですね?
松本 そうそう! 君もわかってきたね。1967年のSは高回転型のレーシングカムとピストンが入っていたから、とにかくカミソリのようなエンジンフィールが魅力だったんだ。ポルシェが名を馳せた要因のひとつがレーシングポルシェなんだけど、356の時代から市販車でもレースで上位に加われるポテンシャルをもつスペシャル仕様があったのは知っているよね?
——356は知りませんけど、ナローで言えば73カレラRSですか?
松本 おー。往年の名車をピックアップしたね。それも紹介できる個体があれば取り上げたいよね。他にも僕も好きな1台で、1967年の911Sの時代に911Rっていうのがあってね。これが源流かもしれないけど、356の時代まで遡ると、最初期のアルミボディで架装したグミュント製からそう言ったエッセンスはあったんだね。ちなみにあれはRRではなくミッドシップね。
——ふむふむ。
松本 その流れのひとつが550A RSだったりね。しかしそれらは市販モデルと言っても純レーシングカーに近いモデルなんだ。君が言った73カレラRSだってライトウェイトモデルとクーラーなどを装備したツーリングモデルがあったんだよ。
——そういう流れをくんだモデルがあれば紹介したいですね!
松本 そうだなぁ。例えば911Rなんかは20台くらいしか作ってないから、取り上げるのは難しいだろうね。そう言った意味では、73カレラRSからの流れを継承したモデルがいいね。
——だんだん絞られてきましたね。
松本 これらの流れをくむモデルとしては1974年に登場したカレラRS3.0というのもあるけど、これも生産台数は100台程度。その後軽量化されたクラブスポーツというモデルもあったけど、直系というべきものは1992年に登場したタイプ964のRSかな? これはポルシェとしては久しぶりとなるレンシュポルト(RS)モデルだね。そして空冷最後のスペシャルモデルがタイプ993のGT2とRS。これもマニアにはたまらないモデルだけど、ちょっとストリートという印象は薄いかな。
——もう中古車市場に出てこない車ばかりですが、奇跡的に素晴らしい車を見つけたんですよ。今回はそれにしたいなって。タイプ996の911 GT3 RSです。
松本 いいじゃない。ポルシェレーシングエンジンの守護神とも言える伝説のエンジニア、ハンス・メッツガーの手が入った最後のモデルはタイプ964だったんだけど、実は水冷化になったタイプ996のGT3も、空冷だったタイプ964時代のモノを使用していたんだよ。
——なるほど……。あ、今回の個体はこちらです!
松本 ほう、素晴らしい車両だね。前に近所のショールームで別の車を見かけたことがあるんだけど、やっぱりタイプ996のGT3 RSはいいよね。ドア下部の73カレラRSのようなデカールで書かれた“GT3 RS”が際立っていて。そのデカールと同色のホイールというのは73カレラRS直系の証しというもんだしね。
——そういえば、さっき話していた、タイプ964時代のエンジンがタイプ996にも使われていたって話ですが、そもそも空冷と水冷のエンジンってドッキングできるんですか?
松本 ポルシェは得意だったんじゃないかな。1978年の935のレーシングユニットは4バルブで水冷のシリンダーヘッドだったから、技術的には成熟していたんだと思うよ。これもメッツガーが携わったエンジンなんだ。そしてタイプ996のGT3は1999年に登場したんだけど、このユニットのクランクケースは、ル・マン24時間耐久レースの覇者となったGT1と同様のケースといわれているね。
——なるほど……。やはりGT3ってすごいんですね。
松本 そりゃそうだよ。ストリートだけど中身は実践研究をしたレーシングユニットが搭載されているんだからね。こういうのを知ったときこそ、ポルシェって本物だと思う瞬間だよね。
——GT3もGT3 RSも外見だけの違いなんですかね? エンジンは同じって聞いたことあるんですけど。
松本 あー、確かにね。ユニットは後期型のGT3と出力が一緒だよね。チタン製のコンロッドを延ばしてピストンの振れを抑えたりして、高回転時の信頼性と出力の向上を目指したんだよ。381馬力っていうのがカタログ値だけど実際には400馬力に迫るといわれているんだ。
——この時代としてはかなりの数値ですよね。
松本 そうだね。GT3 RSはレースを目的としたホモロゲモデルだからね。出力はともかくシリンダーヘッドとか、吸排気系の形状を変えてポテンシャルを向上させているんだよ。
——しかも特別なのはエンジンだけじゃないんですよね?
松本 そのとおり。エンジンもさることながら、サスペンションも細かな調整が可能となっているし剛性も高いんだ。実際にはGT3よりも車高が3㎜ほど低いしね。とにかく中身は別もんなんだよ。
——そのスペックで、しかも軽い……。
松本 外装でいえば、ポリカーボネイトのリアウインドウとカーボンファイバーのフードとリアスポイラーを使っていて徹底的な軽量化が行われているんだ。ボディパネルも軽量化しているけど、それは外観からだと判別は難しいね。
いずれにしても、形は911だけど中身はレーシングポルシェ。実力に疑う余地はない、正真正銘の本物がGT3 RSなんだ。しかもタイプ996はその初期型だからね。余すことなく様々な技術が採用されたモデルなんだよ。まさにポルシェの神髄っていう車だよね。
ポルシェ 911 GT3 RS
自然吸気エンジンを搭載したスペシャルモデルであるGT3をベースに、タイプ996から導入された「公道走行が可能なレーシングカー」。カーボンなどを用いて軽量化が図られている。特徴的な固定リアスポイラーを装着、カレラホワイトのボディにはレッドかブルーのフィルムロゴが配された。
※カーセンサーEDGE 2023年1月号(2022年11月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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