シトロエン C5ツアラー▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

ヤレも含めて車のすべてを受け止めよう

今回は、「エーゼット オート横浜」で出合ったシトロエン C5ツアラーについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

シトロエンは大好きなブランドです。これまで何回か2CVを手に入れましたし、DS3にも乗っていました。宇宙船のようなDSには今でも憧れています。当然C5ツアラーも大好きなモデルなのですが、一方で手を出すことを躊躇してしまう自分もいます。

これはシトロエンに限らずこの時代の欧州車全般に言えることで、経年劣化で樹脂やプラスチック部分にベタつきが出てしまっていることがあるのです

シトロエン C5ツアラー▲シトロエンが『比較的、普通な車』を作っていたときに登場したC5ツアラー

今回出合ったC5ツアラーも、ややベタつきを感じました。もちろんこれは致命的なトラブルではないので、ショップに頼めば納車までにきれいにしてくれるでしょう。

でも、そこだけ直しても車全体には年式なりのヤレがあるのですから、樹脂やプラスチックだけきれいになると逆に浮いてしまいそうです。

だとしたら、まるで荒れた海にも口笛を吹きながら出ていく勇ましい漁師のように、マイナス部分を気にせずさらりと乗ってしまった方がカッコいいのかもしれないですね。

シトロエン C5ツアラー▲Dセグメントのステーションワゴンは居住スペースにも荷室にも余裕があるので、遊び道具をたっぷり積んで遊びに行けます!

僕は案外「ちゃんとライフジャケットを着ないと危ないよ」と考えてしまうタイプ。それは野暮なことなのかもしれません。

好きな人と付き合うことができたとき、いちいち「これまで何人の人と付き合ってきたんだ?」なんて確認しないですよね。好きになったのだから、眉ひとつ動かさずに相手の過去を受け止める。それが恋というものです。

車も同じ。ヤレも含めてその車のすべてを受け止めるのが新しいオーナーの力量だと思いませんか?

シトロエン C5ツアラー▲C5ツアラーはハイドラクティブ3プラスを搭載

もうひとつみなさんにお伝えしたいのは、走行距離に対する考え方です。実は以前、今回のC5とは別のシトロエンを今回お邪魔したエーゼット オート横浜で買おうとしたことがあります。そのときは縁がなくて購入まではいかなかったのですが、その車は走行距離が10万kmを大きく超えていました。

日本では、走行距離が10万kmを超える中古車は敬遠されがちで、途端に相場も安くなります。それが日本車ではなくフランス車だったら、なおさらです。購入者の気持ちとしては「耐震設計されていない家なんて買えないよ」という気持ちなのではないでしょうか。

シトロエン C5ツアラー▲この時代の車に乗るなら、少しくらいのヤレは気にしないこと!

でも僕は逆の見方をします。「その車は前オーナーが10万kmも飽きずに乗っていたのだから、きっと楽しい車に違いない。しかも10万kmも走り続けていたのだから中古車の中でも健康優良児。それなのに値段が安いのだからこんなお得な買い物はないぞ」とね。みなさんもものの見方をちょっと変えるだけで、世界はガラッと変わるはずですよ。

テリー伊藤ならこう乗る!

ここ数年で車を取り巻く環境は激変しました。新車は長期の納車待ちが常態化し、中にはせっかく発売したのに受注停止になっているものまであります。

それにつられて中古車相場も高騰。車を乗り替えるために下取りに出したら、購入時とあまり変わらない値段、あるいは購入時より高い値段で引き取ってもらえたという人もいるのではないでしょうか。

シトロエン C5ツアラー▲ステアリングのセンターパッドは固定式。ステアリングを切っても真ん中が動かないことに最初は違和感を覚えるかも

でも残念ながらそんな時代の流れからは取り残されているモデルもあります。このC5もそのひとつでしょう。おそらくこの車をしばらく所有していても相場が上昇することはまずないと思います。

そういう車を損得抜きでビシッと乗りこなしていたらカッコいいですよ。下心が一切ない、オーナーの潔さを感じます。

シトロエン C5ツアラー▲フランス車らしい、体を優しく包み込んでくれるシート

ホワイトのボディもおしゃれですが、僕がこの車を買ったらペパーミントグリーンにオールペンしてもらいます。ラテンな車だからこそ陽気な気分で運転したいじゃないですか!

そしてドライブするのは大都市。海沿いや別荘地に逃げず、人がたくさんいる場所で小粋に楽しみます。オープンカフェでカフェオレを飲みながら、銀杏並木の下に止めた自分の車とそれを眺める人たちを見ているのは気分がいいと思いますよ。

このC5ツアラーは、ステアリングを回しても中央が動かない独自の機構が搭載されていました。

ハイドラクティブサスペンションもそうですが、いつの時代もシトロエンは独特なことをやっています。車は工業製品。でもシトロエンはそこにアート性を入れてくる。マーケティングだけに流されないという、フランス人ならではの意識の高さが伝わってきます。

シトロエン C5ツアラー▲取材車の走行距離は約7.5万km。まだまだたっぷり楽しめそうです

僕は船も好きなのですが、フランス製の船にも同じような美意識を感じます。まるで車や船という工業製品の中に女神が宿っているような気になってしまう。そんなファンタジーさをぜひ多くの人に体感してもらいたいですね。

最後にひとつ。少し話はそれますが、僕は今回取材で訪れたエーゼット オート横浜のような『昔ながらの中古車販売店』が大好きです。今はチェーン化された中古車販売店や外観にもこだわったおしゃれな販売店が増えています。

中古の輸入車を安心して買うことを考えれば、そのような店は多くのお客さんにとってありがたい存在でしょう。

シトロエン C5ツアラー▲町中華のような雰囲気の中古車店をみんなで大切にしていきましょう!

一方、多くの中古車が敷地内に所狭しと並べられた昔ながらの中古車販売店は今後どんどん少なくなっていくと思います。

このようなスタイルのお店は例えるなら『古い町中華』のような存在です。思い切って入ってみると、変にマーケティングなどをせずにすごく美味しいラーメンやチャーハンを安い価格で出してくれる。しかも何度か通ってみると不思議な安心感を覚えたりします。

新しいスタイルのお店に慣れてしまうと「大丈夫かな……?」と感じる人もいると思いますが、このようなお店にも多くの人が注目してくれたら嬉しいですね。手頃な価格帯の車を数年で乗り替えていく感じなら、きっといろいろな発見ができると思いますよ。

シトロエン C5ツアラー

1990年代にヒットしたエグザンティアの後継モデルで、C5とネーミングされてからは2代目のモデルとなる。ボディタイプはセダンとツアラー(ステーションワゴン)をラインナップ。窒素ガスとオイルを使った伝統のサスペンションの進化版であるハイドラクティブ3プラスを装備。シトロエンならではの路面を滑るように走る船のような乗り心地を味わえる。デビュー時のエンジンは2L直4と3L V6で、2010年5月には2L直4が廃止となり1.6Lダウンサイジングターボエンジンが追加された。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤(演出家)

1949年、東京・築地生まれ。早稲田実業高等部を経て日本大学経済学部を卒業。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」「ねるとん紅鯨団」「浅草橋ヤング洋品店」など数々のテレビ番組の企画・総合演出を手掛ける。現在は演出業のほか、タレント、コメンテーターとしてマルチに活躍している。テリーさんの半生を綴った「出禁の男 テリー伊藤伝」(イーストプレス)が発売中。TOKYO MXでテリーさんと土屋圭市さんが車のあれこれを語る「テリー土屋の車の話」(毎週月曜26:35~)が放送中。YouTube公式チャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』も配信中。