ロータス エラン▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

ライトウェイト2シーター史上最大の存在感をもつモデル

~語り:テリー伊藤~

おそらく、今の若い人たちにロータス エランと言っても「何それ?」という感じでしょうね。エッジ読者だってエランを知ってこそすれ、この車が輝いていた時代をリアルに体験した人はほとんどいないでしょう。

ロータス エラン▲エランは1960年代の日本のレースシーンでも活躍。その記憶がテリーさんの脳裏に強烈に焼き付いているそうです

日本のモータースポーツ創成期に、サーキットを疾走するエランを見た僕ら世代にとってはまさに憧れであり、特別な車でした

イギリス車好きというと、なんとなくジャガーへの憧れがきっかけのように感じる人も多いでしょう。でも、僕らはロータスやモーガンに憧れてイギリス車を好きになっていったのです。

ロータス エラン▲シンプルで飽きのこないリアスタイル。エランのデザインはライトウェイト2シーターオープンに多大な影響を与えました

でも、「いつか乗りたい」と考える人はほとんどいなかったと思います。なぜなら、まだ「いつかは軽自動車」という時代でしたから。

エランはあまりにも高価で、大げさに言えばジェット機や超高級クルーザーを手に入れるのと同じくらいの感覚です

当時の車雑誌には、巻末の方に中古車の怪しい広告が掲載されていて、僕はそれを見るのが楽しみでした。エランは、トヨタ 2000GTより高い値段がついていたのを覚えています。

ロータス エラン▲取材車両にはチャンピオンカーの証しであるバッジが付いていました

そんな車だったからこそ、実車が目の前にあるということだけで興奮します。

初代マツダ ロードスターが、エランを参考にしながら開発されたのはあまりにも有名な話。

いつしか2シーターのライトウェイトオープンが姿を消してしまったとき、僕はなんとも言えない寂しさを感じていました。

そこに突然登場したロードスターを見て、「エランの再来だ!」と感じ、お金もないのにすぐ飛びつきました。

「エランのフロントガラスからもこんな感じの景色が見えたのかな」と、ロードスターを運転しながら想像するのはとても楽しかったですね。

ロータス エラン▲シンプルなホイールもエランに似合っています

でも、ライトウェイト2シーターオープンでエランを超えたモデルはいまだに存在しないのではないかと思います。

もちろん、性能面ではエランをはるかに凌ぐものはたくさんあるでしょう。ただ、存在感という面では今でもエランが一番ではないでしょうか。それくらい、世の中に与えた衝撃は大きなものでした。

ロータス エラン▲リトラクタブルライトを上げると表情が一変。リトラクタブルライトには夢があるよね

テリー伊藤ならこう乗る!

実は、僕は過去に一度エランを買おうとしたことがあるんですよ。

『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』をやっていた頃だから、1990年代初頭だったと思います。10万円の手付金(申込証拠金)も払ったのですが、最終的にはキャンセルしました。

その時ショップにあった中古車は、エランのシリーズ3とシリーズ4でしたが、僕はどうしてもシリーズ1が欲しかった。違いはいろいろありますが、僕はドアに窓枠がないシリーズ1こそがエランだという思いが最後まで拭えなかったのです。

ロータス エラン▲「ビッグバルブ」と書かれたエランスプリントのエンジン

もちろん、あれから30年経った今ではそこまでこだわることはありません。むしろ、エランが今でも残っていることを嬉しく思います。

この車は、ブルーと白のボディが特徴的なエランスプリント。これだけきれいな状態で残っているのは感動的です。

この状態に手を加えるのはもったいない! もし僕がこの車を手に入れたら、どこもいじらずこのまま乗り続けます。ホイールもキレイだから変える必要はないですね

ロータス エラン▲取材車両のインパネは鮮やかな色合い。運転が楽しくなりそう
ロータス エラン▲クラシカルなシート。数年前にレストアされたようでとてもきれいな状態でした

ライトウェイト2シーターオープンというと、ワインディングや海沿いを気持ちよく走るイメージがありますが、街を走らせるだけでも十分に気持ちいいもの。僕もエランと一緒に街の雰囲気を楽しみたいです。

でも、今エランで街を走っても、誰も振り返らないでしょう。横目でちらっと見て「ロードスターだな」と思うかもしれません。小さなボディを見て、他の車とひとくくりに「かわいい」と言われておしまいかもしれない。

でもそれでいいのです。なぜならエランは孤高の車だから

ランボルギーニやフェラーリが遠くから走ってきたら、多くの人は振り返ります。スーパーカーはグラビアアイドルみたいなもの。オーナーも「見られてナンボ」という思いがあるでしょう。

エランはスーパーカーとは明らかに立ち位置が違います。

決して主役ではないし目立たないけれど、その人がいないと作品がしまらない名バイプレーヤーのような存在ではないでしょうか。例えるなら、田中邦衛さんのような存在。ぜひ、1人でエランと過ごす時間を存分に楽しみ、自己陶酔に浸りましょう。

ロータス エラン▲控えめだけれど抜群の存在感がある。エランは田中邦衛さんです!

ロータス エラン

ロータス エリートの後継モデルとして1962年から1975年まで製造された2シーターライトウェイトスポーツ。バックボーンシャシーの上にFRP製ボディを載せており、ロータス初のリトラクタブルヘッドライトが採用されている。エンジンはフォードのユニットをベースに、ロータスが開発したロータスツインカムユニットを搭載した。デビュー時はオープンモデルのみだったが、シリーズ2でクーペを追加。シリーズ3では2+2のエラン+2が追加されている。今回取材したのはシリーズ4に設定されたロータス エラン スプリントで、バルブを大型化したビッグバルブエンジンを搭載している。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤

1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『爆報!THE フライデー』(TBS系/毎週金曜19:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。新著『老後論~この期に及んでまだ幸せになりたいか?』(竹書房)が発売中。You Tubeチャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』を開設!