ルノー ルーテシア ルノースポール V6

■これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

エンスーの心に刺さるデザインや性能、名車とは完成度の高さのみにあらず

——松本さん、ずっと探していた車がようやく見つかりました!

松本 それは良かったけど、車はなに?

——クリオ V6(日本名 ルーテシア ルノー スポールV6)です!

松本 いいじゃない! 採算度外視で作ったモデルといえばこの車だよね。

——松本さん、そういう車好きですよね。

松本 そうだね。例えば、アウディ TTの初期型に2シーターモデルがあって、日本に少しだけ輸入されたんだ。そういう変わったスポーツモデルはやっぱりいいよね。

——ルノーってそういうモデルが得意なイメージがありますね。

松本 ルノーはすごいメーカーだよ! モータースポーツやスポーツモデルの開発には、宣伝費や広告費までも投入しているといわれているからね。そんなメーカーはルノーくらいなんじゃないかなぁ。

 

ルノー ルーテシア ルノースポール V6
ルノー ルーテシア ルノースポール V6

——R.S.とか、尖った車もありますもんね。

松本 印象深いのは1980年代の縦置きユニット、FFレイアウトのルノー 5(サンク)かな。そのデザインを継承しながら、ラリーで勝てるスーパースポーツカーを作るように当時の副社長が指示してね。そして出来上がったのが、小さなモンスター、ルノー 5 ターボなんだよ。

——伝説のマシン、まさにモンスターって感じですよね。

松本 ターボは縦置きのミッドシップターボでね、世界ラリー選手権に勝つために作られたホモロゲモデルなんだ。言うまでもないけど、デザインはベルトーネのチーフだったマルチェロ・ガンディーニ。これは有名な話だよね

——この企画には欠かせない巨匠ですね。

松本 リアが幅広くてかっこいいんだよこれが。ターボ2となって、結局1985年までに3000台ほど生産されたんだ。

——ルノーの歴史に欠かせない名車ですよね。

松本 個人的にはその5ターボの考え方の流れを継承しているルノーのスーパーモデルが、このクリオ V6だと思うんだよ。

 

ルノー ルーテシア ルノースポール V6

——こちらの車両がそうですね。小さいけどやっぱり存在感がすごいですね。そもそもどういう車なんですか

松本 まず、1999年から2003年までルノースポールが作ったクリオ V6 Trophyという車があったんだよ。これはシーケンシャルトランスミッションでね。たしか当時、日本にも何台か輸入されていると思うよ。その1台をサーキットで走らせるというので、ツインリンクもてぎに行ってその走りを見たけど、オーバーステアが強くてドライバーは大変そうだったね。

——何台くらい作られたんですか?

松本 クリオ V6 Trophyは159台が生産されたんだけど、市販化ということで、ジャガーの耐久レースで一気に名を上げたTWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)がスウェーデンに生産ラインを作って量産化したんだ。TWRは日産 R360のル・マンカーも作ったところでね。レーシングカーや一品モノを作るノウハウはすごかったらしいんだけど量産は? って感じだったらしいんだよ。そこが作ったのがクリオ V6なんだ。

——なるほど、すごいところが作ってるんですね……。

松本 クリオ V6 の生産台数は1500台以上、実際には2000台前後ともいわれているんだ。設計だけど、今はアルピーヌの工場で有名なフランスのディエップだね。当時、このクリオ V6を写真で見て、まず1995年に作られたエスパスF1を思い出したんだよね。これは、元祖MPVというルノーエスパスの2代目の風貌に、ルノーのF1のエンジンをミッドシップにレイアウトして、4座のバケットシートを取り付けたモデルなんだ。このデザインを行ったのがクリオV6フェーズ1のデザインをしたアクセル・ブルーン氏なんだよ。

——なんか低くて長いミニバンみたいな車でしたよね?

松本 そうそう。彼はデザイナーだけど、エンジニアリングにも精通した人物なんだ。本人はアルピーヌA110に乗っていてね、コンパクトなミッドシップレイアウトが、スポーツカーの基本と思っていたんだ。当時、ルノー トゥインゴのホイールベースを見て、これはフェラーリ 308と5mmと違わないと、スポーツモデルのクリオ V6の設計を進めたんだ。これがクリオのルノースポール V6フェーズ1の原画となったんだよ。

——名車には偉人が関わっていることが多いですもんね。

松本 そうだね。彼は1980年代の伝説的なラリーカーであるルノー 5MAXIターボをオマージュして、1997年にスケッチを完成させたんだ。彼の構想と実際のクリオ V6が違ったのはドアだね。本当はランボルギーニ カウンタックやムルシエラゴのように跳ね上げ式にしたかったようだね。

——さすがにそれはできなかったのか……。ちょっと残念ですね。

松本 まあ、あくまで乗用車だからね。で、TWRが作ったクリオ V6はその後、フェーズ2へと進化したんだ。

——個人的には、フェーズ1がやっぱり好きだなぁ。

松本 そうだね。しかし、こんな採算の取れないスポーツモデルを量産したことに価値があると思んだ。デザイナーのコンセプトが忠実に再現されているクリオ V6 フェーズ1は性能ではフェーズ2に劣るけど、ジャジャ馬ぶりはエンスージアストにたまらない勲章だと思う。完成度が高いからといって名車になるとは限らないからね。

——もうこういう車は登場しないんでしょうね。

松本 そうだね……。コンセプトといい、エンスージアストの心にグッとくるデザインや性能を有する、クリオ V6 フェーズ1を所有してこそ、語ることができる話はいっぱいあるんだろうなぁ。ホント、こんなモデルはルノーしか作れないと思うよ。

 

ルノー ルーテシア ルノースポール V6

ルーテシアをベースに2シーター化、後席に3L V6エンジンを横置き搭載。ミッドシップレイアウトの後輪駆動としたハイパフォーマンスモデル。撮影車両は、2003年までTWRの工場で生産された前期型(フェーズ1)となる。

 

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※カーセンサーEDGE 2021年7月号(2021年6月24日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏