ホンダ Honda e ▲Honda eというEVが長距離ツアラーではなく「都市型コミューター」であることは重々承知。でも、それでもあえてホンダeでロングドライブをしてみると、果たしてどうなるのでしょうか? 実際に試してみました!

素晴らしすぎる車ゆえ、不向きと知りつつ「遠出」がしたくなる!

テスラのような長距離ツアラー的EVではなく、メーカー自身が「これは都市型コミューターです」と言っている小型EVで、主に「航続距離の問題」を中心としたロングドライブの可否や是非を問う。

……それはまるでミニバンをサーキットに持ち込んでタイムアタックをするかのようにナンセンスで、偏差値が低い所業だ。

だが筆者は、どうしてもHonda eというEVでロングドライブをしてみたくなった。

なぜならば、Honda eは冗談やヨイショはいっさい抜きで「本当に素晴らしい乗り味の車」だからだ。

素晴らしい乗り味の車というのはやはり所有したくなるもので、同時に「ずっとコレに乗っていたい!」と思わせるものである。筆者個人にとっては10年ほど前に所有していたポルシェ 911カレラ2という車が、ちょうどそういう感じだった。
 

ホンダ Honda e▲こちらがHonda e(の上級グレードであるアドバンス)。決して大きくはないリチウムイオンバッテリーを搭載することで、航続距離と引き換えに「かなり小気味良い運動性能」を手に入れた都市型のEV

で、「ずっと乗っていたい車」なのだからして、当然ながら遠くまで出かける際にもその車を使いたくなる。

だがホンダの担当者らは言うだろう。

「いやいや、ちょっと待ってください! これはそういう車じゃなくて、自宅のご近所を気持ちよく走っていただくための車ですから! 東京から仙台まで行かれるのであれば、くれぐれもHonda eではなくアコードかレジェンドで行ってください。もしくは東北新幹線で!」

確かにそのとおりだ。しかしあいにくこちとらド庶民である。もしもHonda eを買ったとしたら、それ以外のセカンドカー(というかメインカー?)を持つ余裕などなく、「ウチの車はHonda eのみ!」という状況になることは火を見るより明らか。

ならば東京から仙台まで、行けるものまで行ってみたいではないか。この超絶素晴らしい乗り味を持つハッチバックのステアリングを握りながら! 一充電走行距離はWLTCモードで259kmでしかないらしいのだが!
 

ホンダ Honda e▲しかし何というかこう、素晴らしいデザインだ。大好きすぎる……

ところでHonda eってどんな車?

ということで東京は青山一丁目のホンダ本社から一路仙台を目指したわけだが、いちおうはHonda eという車のご紹介も軽くしておかねばなるまい。

Honda eは、2020年10月に発売となったハッチバック形式の新型EV。新開発されたリアモーター・リアドライブ(いわゆるRR)のEV専用プラットフォームを採用することで、4.3mという軽自動車並みの最小回転半径と、後輪駆動ならではの小気味良い走りが実現されている。ラインナップはベースグレードと上級仕様の「アドバンス」の2種類で、今回の試乗車はアドバンスだ。
 

ホンダ Honda e▲Honda e アドバンスの運転席まわりはこんな感じ。5つのスクリーンを水平配置した世界初の「ワイドビジョンインストルメントパネル」を採用し、多彩な機能によって人と車が“つながる”仕組みになっている

リチウムイオンバッテリーの容量はともに35.5kWだが、モーター最高出力はベースグレードが136psでアドバンスは154ps。一充電走行可能距離はベースグレードがWLTCモードで283km、アドバンスが同モードで259kmとのこと。

テスラ モデルS ロングレンジ・プラスのEPA航続距離が約644kmで、国産EVでも、日産 リーフ 62kWhバッテリー搭載車のWLTCモードでの一充電走行距離が458kmであることから考えると、Honda e アドバンスの259kmというのは心もとない数字ではある。

だがそれは、ホンダとしては承知のうえだ。

大きく重いバッテリーを搭載して航続距離を稼ぐのではなく、そこは割り切って、あくまで「軽快に気持ちよく走れるご近所スペシャルとして使ってもらう」というのが、本来のコンセプトである。

そしてそのコンセプトどおり、Honda eの走りは本当に気持ちがいい。

モーター駆動車で、なおかつ軽量でもあるため「キビキビ感」の塊であり、それでいてどっしりとした安定感のようなものもある。でもやっぱりRRレイアウトで鼻先が軽いため、結論としてはとっても軽やかである――という、個人的にはもう「カーセンサー・カー・オブ・ザ・イヤー2020」のグランプリにぜひ推挙したいぐらい、素晴らしいコンパクトカーなのだ。

だがそれで、なんだかんだで約400km先の「仙台」を目指すとなると、果たしてどうなのか……。
 

高速道路を高速で走ると、バッテリー残量は急ピッチで減少

ホンダ本社の地下駐車場にて、モダンスティール・メタリックのHonda eとまずはご対面。ポップだが、決して媚びてはないという……相変わらず素晴らしいデザインだ。

だが、ほぼ満充電状態となっているそれの運転席に乗り込むと、WLTCモードによれば259kmは走れるはずなのに「航続可能距離181km」と表示されている点だけが、やや気がかりな筆者ではあった。
 

ホンダ Honda e▲「259km」ではないのですね。まぁそうですよね……

ホンダ本社を出てから高速道路に乗るまでの描写は割愛する。それは先ほど申し上げたとおりである。つまり軽快で気持ちよく、パワフルで、なぜか重厚感もあるという、大変に素晴らしい市街地走行フィールだ。

サイドカメラミラーシステム(ドアミラーが装着される部分にカメラユニットを搭載し、車両の後ろ側方の視界を撮影して車内のディスプレイに表示させるシステム)だけは最初のうちは慣れず、やや気持ち悪かった。だがこれにも、(筆者の場合は)5分も走るうちにすっかり慣れてしまった。
 

ホンダ Honda e▲最初は違和感たっぷりで、若干車酔いしそうにもなったサイドカメラミラーシステムだが、筆者の場合は意外とすぐに慣れてしまった。だがバック(後進)する際の違和感解消にはさらに若干の時間がかかったが

で、首都高速を経て東北自動車道を行く。高速道路に入っても相変わらず素晴らしい乗り味だ。そして高速安定性も十分以上に秀でていることがわかってしまったため、よりいっそう「Honda eで遠出がしたい!」との気持ちが盛り上がってくる。

だが燃料計……じゃなくて「電量計」というのでしょうか? バッテリーの残量を示す数値は容赦なく減っていく。それもスピーディに減っていく。

いや、このEVのコンセプトどおり、市街地を普通に走る分にはそんなこともないし、高速道路でも一番左の車線を80km/hぐらいでノロノロ走れば、ここまでスピーディには減らないのかもしれない。

だがあいにくというのかなんというのか、Honda eは高速道路を走ってもきわめて気持ちいい車であるため、どうしても普通に100km/hぐらいで真ん中の走行車線を走ってしまう。で、時には必要に応じて右の追い越し車線に出て、普通に追い越しも行ってしまうのである。

そうやって走っているうちに、都内から約90kmの距離になる栃木県の東北道佐野SA(下り)の手前あたりにおいて、バッテリー残量は「54%」となり、航続可能距離は「108km」と表示された。
 

電池の限界より「メンタルの限界」の方が早い充電タイミング問題

冷静に理屈で考えれば、佐野SAに入って充電する必要はぜんぜんない。時間の無駄である。まだまだ100kmぐらいはそのまま走れるのだから、100kmフルには走らないにせよ、次か、次の次のSAまで数十km走り、バッテリー残量が20~30%ぐらいになった時点で初めて充電すればいい。

……と、頭ではわかるのだが、心と身体が言うことを聞かない。

「何らかの突発的な事態が起きて、次か、次の次まで行く間にいきなり『残量5%』みたいになってしまったらどうしよう?」

「残量20%ぐらいになった段階でたどり着いたSA/PAの急速充電器に、もしも『故障中。ただ今使用できません』みたいな札が貼られてたら?」

そのような不安が脳内をぐるぐると巡り、筆者は結局のところ、佐野SAの手前数百mでHonda eのステアリングを左に切った。「機械としての航続可能距離」と「心理的な航続可能距離」はまったく違うのだなと、痛感しながら。

Honda eくんの方はまだまだ頑張れたが、筆者のメンタルが持たなかったのだ。
 

ホンダ Honda e▲バッテリー残量の表示が50%台になったあたりから、本当はまだまだぜんぜん大丈夫なのだが不安がつのり始め、結局は日和って、都内から約90kmの地点で早くも1回目の急速充電を行ってしまった

休日のSA急速充電器は混雑していて「待ち」が多くなると聞いているが、ド平日のそれはガラガラ。しかるべきスペースにHonda eを止め、保守の悪さによりほとんど読めない状況のガイダンスをかろうじて読みながら、なんとか人生初の「車の充電」を始めた。やってみれば充電作業は非常にカンタンで、何の問題もなかった。

だが、「充電している約30分間のヒマで無駄な時間をどう使うか?」という大きな問題が、東北自動車道 佐野SAにたたずむ筆者の前に横たわっていた……。(後編へ続く)
 

文/伊達軍曹、写真/ホンダ、伊達軍曹
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。