アバルト 124スパイダー▲軽自動車からスーパーカーまでジャンルを問わず大好物だと公言する演出家のテリー伊藤さんが、輸入中古車ショップをめぐり気になる車について語りつくすカーセンサーエッジの人気企画「実車見聞録」。誌面では語りつくせなかった濃い話をお届けします!

アバルトならではの“意地”がにじみ出たモデル

今回は、「COLLEZIONE Co.,Ltd」で出合ったアバルト 124スパイダーについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。

~語り:テリー伊藤~

エッジ読者ならご存じのように、アバルト 124スパイダーはマツダの現行型ロードスター(ND型)をベースに開発され、生産もマツダが担当しているモデルです。

僕は124スパイダーを“とてもありがたい車”と思っています。なぜならこれはマツダじゃとても作れなかったでしょうから。

アバルト 124スパイダー▲ロードスターベースの124スパイダーですが、スタイルはかなり異なります

マツダ ロードスターは素晴らしい車です。一般の人からジャーナリストまで、ロードスターを批判する声はまず聞かない。

ロードスターと124スパイダーを並べたときに、9割以上の人は「ロードスターで十分」と言うでしょう。

だからこそフィアットはアバルトならではの味を出すために、意地を張っているのが車から伝わってくる。

「これはマツダじゃないぞ。アバルトだぞ」という意地がね。

アバルト 124スパイダー▲124スパイダーのマフラーは4本出しに

それはある意味“やりすぎ”なところがあり、僕らとしては「そこまでしなくてもいいのに」と思うけれど、アバルトは一歩も引かない。

なぜなら124スパイダーは“アガりの1台”ではないからでしょう。

この車のオーナーになる人はまだまだ高みを見ていて、自分の理想に向かって突き進んでいく人たち。

それなのにメーカーが「これで十分でしょう?」と適当に寄せるわけにはいかないのです。

その思いが124スパイダーのがさつな乗り味から伝わってきますよ。

アバルト 124スパイダー
アバルト 124スパイダー▲ボディの随所に付けられたサソリのエンブレム

“がさつ”をよく言えば“ワイルド”という表現になると思いますが、僕はどこか強引にチューンナップしている印象を受けました。

きっとマツダの人は124スパイダーに乗ったとしても「過剰だし、必要ない」と感じるはずです。彼らには「俺たちの方がオリジナルだ」という自負もあるでしょうしね。

アバルト 124スパイダー▲がさつな乗り味が124スパイダーの真髄。上品にまとまっていないのは“さすが!”という感じです

テリー伊藤ならこう乗る!

ロードスターの上級モデルであるRSと比較しても、124スパイダーの新車価格は70万円以上高くなります。

さきほど「マツダの人は(124スパイダーを)必要ないと感じるはず」と言いましたが、逆に124スパイダーを選ぶ人は「これしか興味ない」と思うはず。

それはどこか変態的な、オーナーならではの“牙城” があるから。

アバルト 124スパイダー▲ロードスターと共通デザインの部分も多いインテリア

ロードスターではなく124スパイダーをあえて選ぶオーナーは、侍です。男気を感じますよね。

僕が街でこの車を見かけたら思わず「えらい!」と喝采するでしょう。

アバルト 124スパイダー▲シートはレーシング仕様のものが奢られています

「テリーさんなら124スパイダーをどう乗りますか?」と質問されましたが、「僕は乗りません」と答えました。

なぜなら僕は侍にはなれないから。

ある雑誌の企画でロードスターと124スパイダーを乗り比べたことがありますが、長距離を走ったときの疲労度は124スパイダーの方が大きいだろうと感じました。これを楽しめるのは、峠を攻めるような侍です。

これに乗る限り、車に詳しい人からは「なんでわざわざ124スパイダーを選んだの?」と思われる。ある意味、常に後ろ指を指されるわけです。一般的な日本人の感覚では、それに耐え続けることはできませんよ。

アバルト 124スパイダー▲エンジンはマツダ製ではなくフィアット製1.4Lエンジンが搭載されています

かつてトヨタ製エンジンを積んだロータス エリーゼというモデルがありましたが、100パーセント自社製でないというのはメーカーにとってもオーナーにとって屈辱に感じるところはあるはず。どこか負い目があるわけです。

それを振り払って堂々と乗るということは、よほどの思い入れがあるでしょう。

でもこういう車は中古車市場に出てくると、輝きを増すことがあります。その最たるものが、光岡自動車が世に送り出したオロチではないでしょうか。

いかにも大蛇という強烈なデザインのオロチは世間の度肝を抜きましたが、車好きからは「見た目だけだろう」「中身はトヨタで、乗り味も普通。スーパーカーでも何でもない」と揶揄されました。

そんなオロチの新車時価格は1000万円前後でしたが、今でも中古車市場では新車とほとんど変わらない相場で取引されています。他のスポーツモデルの相場が下がる中で、オロチは完全に勝者ですよ。

アバルト 124スパイダー▲この車を今選べば、将来勝者になれるかもしれませんよ!

124スパイダーも今はNDロードスターが新車で販売されているからつい比較してしまいますが、やがてロードスターが次世代へとモデルチェンジしたときに、評価がグンと高まる予感がします。

実際、ロードスターが1年間で30万円ほど中古車の平均価格が下落しているのに対し、124スパイダーは平均価格が30万円ほど上昇していました。

おそらく124スパイダーが絶版になった後、その評価はうなぎ上りになるはずです。そこで重要になるのが「オーナーはいつ124スパイダーを手に入れたのか」です。

「俺は新車が販売されていた頃から乗っている。ポッと出ではない」

そんなアバルト愛、イタリア愛を貫くためにも、好きな人には今から手に入れてほしいですね。

アバルト 124スパイダー

2012年5月、マツダとフィアットは協業プログラムを発表。そこには「次期マツダ ロードスター(ND型)のFRアーキテクチャをベースに、マツダおよびフィアット傘下のアルファロメオ向けのオープン2シータースポーツカーの開発・生産に向けた協議を開始する」と書かれていた。その後、アルファロメオブランドではなく、2016年にアバルトブランドから124スパイダーが登場した。搭載されるエンジンはロードスターが1.5L NAなのに対し、124スパイダーはフィアット製1.4Lターボに。最高出力は125kW(170ps)、最大トルクは250N・m(25.5kg-m)を発生。新車価格は6MTが406万円、6ATが416万9000円となる。
 

文/高橋満(BRIDGE MAN) 写真/柳田由人

テリー伊藤

演出家

テリー伊藤

1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『爆報!THE フライデー』(TBS系/毎週金曜19:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。そんなテリーさんがYou Tubeチャンネル『テリー伊藤のお笑いバックドロップ』を開設したので、要チェック!