シトロエン C6

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにも、これから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

デザインした人のことを詳しく知れば知るほど魅力が分かる車だよね

――今月ですがたまたま訪れたお店で素敵な車と出会えたので、それに決めました。

松本 あくまで今後価値が上がる車だから、探すのはやっぱり苦労するよね。個人的にはルノー クリオV6とか初代トゥインゴとかやりたいんだけど。

――それはまあ今後探すとして、今月は松本さんが前から欲しいと言っていたC6です。あ、こちらの車両がそうですね。

松本 いいねぇ。色もすごく素敵だし。やっぱりジャン・ピエール・プルエ(*1)のデザインは素晴らしいよね。

――その人、どんな人なんでしたっけ?

松本 今はプジョー・シトロエンの中枢のようなデザイナーだね。300人以上の部下を従えて新たな同グループのフラッグシップブランド、DS(*2)も彼が中心となって牽引したんだ。

――するとシトロエンの変わったデザインを生み出している人ってことですね。

松本 そうだね。彼は1999年にシトロエンのデザインセンターの責任者になったんだけど、そこからの10年間でシトロエンの販売台数は2倍にもなったんだ。

――それは凄い話ですね……。

松本 その彼の最も有名な作品が1999年のジュネーブショーで発表したショーカーのシトロエン C6リナージュ(*3)なんだよ。

――知ってますよ! そのショーカーがC6の市販モデルになったんですよね。

松本 そうなんだ。あれはとてもセンセーショナルだったよね。どことなくC6の祖先であるCX(*4)のリアガラスをデザインモチーフに使ってね。しかも未来的。これが量産されたら1955年に登場したDSの再来なんじゃないかと思っていたファンもいたんじゃないかな。僕もその1人だけど。

――完全に未来の車でしたもんね。

松本 とにかく往年のDSのように空力をよく考えて作られた、美しいフォルムだったよね。その後、ご存じのとおり2005年にC6は量産車として登場するんだけど、ショーカーのイメージをとても上手に量産化した、珍しいモデルだね。

――コンセプトカーって現実には登場しないって思ってましたけど、この時代から徐々に変わっていきましたよね?

松本 そうだね。レンジローバーイヴォークもそうだったしね。そうそう、さっきトゥインゴの名前を出したけど、ジャン・ピエール・プルエ氏の処女作ともいえるモデルは、ルノーに在籍していた時のトゥインゴなんだよ。

――え? そうなんですか?

松本 そうだよ。あとクリオもそうだね。

――聞けば聞くほど凄い人ですね。

松本 やっぱり今見てもスタイリングは優雅だよ。エクステリアのモールディングやテールレンズも、それまでのシトロエンとは次元が違って見えるよね。でも、それ以上に凝っているのはインテリアかな。センタークラスターを低く水平基調にしたりしてね。
 

シトロエン C6
シトロエン C6

――ドアのサイドポケットとかもすごく凝ってるデザインですもんね。

松本 そうそう。お盆のような木目のサイドポケットは操作感もすごくこだわってるよ。CDがプレーヤーに吸い込まれていくような感じって言えば分かりやすいのかな?

――なんか特別な車に乗ってる感じがしますよね、そういう細かいところからも。

松本 最近の車のデザインと決定的に違う部分がC6にはあるんだけど、分かる?

――……分かりません。

松本 フロントの角がラウンドしてないんだよ。これはオーバーハングが長く見えてしまうので他のメーカーはわざとラウンドさせてオーバーハングを短く見せる手法を取っているんだ。実際の長さは変わらないんだけどね。

――言われてみれば「オーバーハングが長い」って意見、よく聞きますよね。

松本 プルエ氏はそれを個性としてデザインに反映してるんだよ。ちなみにDS3も彼が指揮した作品ね。小型車だけど質の高いモノを投入したモデルで、デザイン的にいち早くフローティングルーフを採用していたね。

彼はフォルクスワーゲンやフォードなどでデザインだけではなく製造方法なども勉強していて、短期間でモデルを作る手法をシトロエンやプジョーに導入した人物でもあるんだ。

ひとりのデザイナーなんだけど後世に影響のあるモデルを様々なメーカーで生み出した。本当に実力がある人だと分かるよね。そういう背景を知っているとC6の価値はもっと広く伝わっていくんじゃないかな。
 

シトロエン C6
シトロエン C6
シトロエン C6

■注釈
*1 ジャン・ピエール・プルエ
ルノーやフォードといった様々なメーカーに在籍した名デザイナー。シトロエンC4など、個性的なモデルを世に送り出した。

*2 DS
正式名称はDSオートモビルズ。2009年に高級ブランドとして発足して、2015年から独立したブランドとなっている。

*3 シトロエン C6リナージュ
XM 生産終了の5年後から温められていたデザインを採用したC6の原型。その美しいデザインは大きな話題になった。

*4 CX
DS の後継モデルとして1974年にデビューしたフラッグシップモデル。1989年にその座をXMに譲っている。
 

シトロエン C6(初代)

2005年から2012年まで製造されたシトロエンのフラッグシップサルーン。日本で発売されたのは3L V6エンジンとATの組み合わせのみで、本国にはMTやディーゼル仕様も用意されていた。新車販売台数が少ないため中古市場でも非常に希少で人気が高い。
 

※カーセンサーEDGE 2020年1月号(2019年11月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏