アルファロメオ 164

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにも、これから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

エンジン音で興奮させる4ドアセダンは貴重な存在だよ

――今回ですけど前に松本さんが挙げてくれた候補車、なかなかないんですよ。でもかろうじてアルファロメオの164がありました。クアドリフォリオ(*1)でいいんですかね?

松本 クアドリフォリオならあるの? だとすればそれは最高だよ! 当時アルファロメオの日本の輸入元である“大沢商会”に知り合いがいてね。164は本当によく乗せてもらったんだけど、これが上品でイイ車なんだよ。今となっては現存が少ないのがとても残念だけどね。

3L V型6気筒は静粛性が高くてね。ZF製のトランスミッションと組み合わされていたんだけど気持ちよく回るんだ。しかもエグゾーストノートの音がイタリアって感じなんだよ。

――あ、この車がそうですね。エンジンかけてみましょうか?

松本 ほら、いい音するでしょ?

――確かに、カッコイイですね。

 

アルファロメオ 164

松本 MTでドライブしたい車だよね。164って当時のエンスージャストには周知の事実だったけど、ランチア テーマとフィアット クロマ(*2)、それとスウェーデンのサーブ 9000(*3)。それにアルファロメオ 164と、4つのブランドがパーツを共用して作ったフラッグシップなんだよ。

ランチア テーマからの流用が多かったといわれていたけどね。でも、164は他の共通モデルに比べて全高が低いからとてもエレガントでスポーティに見えたなぁ。

――とても斬新なデザインですけど、164のデザインはどこで作られたんですか?

松本 あの形を見れば想像できるんじゃない? プジョーとかとどことなく似ているでしょ? 手がけたのはイタリアを代表するカロッツェリアのピニンファリーナだよ。空力もCd 値0.3とセダンとしてはかなりイイんだ。
 

アルファロメオ 164

――4ドアセダンの感じがしませんね。

松本 そう、当時見たときにもフロントがとても低くて、やっぱりアルファロメオはスポーツカーメーカーだなぁなんて思ったよ。しかもエンジンは横置き3L V6だよ。驚いたね。フロントグリルが小さいので冷却とか大丈夫かなぁなんて思ったけど、このグリルと低いノーズが空気抵抗を少なくしていたんだ。

――他に特殊な面、あるんですか?

松本 例えば、フロントサスペンションはマクファーソンストラットなんだけど、とても特殊でね。ストラットのケースが車軸よりも前方に取り付けてあるんだ。僕はこういったタイプ、164ぐらいしか見たことがなくてね。この取り付け方式にしたことによって、フロントノーズを低くすることができたそうなんだ。そのさらに前方にV6が搭載されているだけど、不思議とノーズが重いと思ったことはなかったなぁ。

――164 のクアドリフォリオに乗ったことはあるんですか?

松本 あるよ。スポーツセダンでこういう味付けのモデルって、もうこの後出てこないんじゃないかと思ったね。専用のエアロパーツは華美じゃなくて、ホイールも本物の性能を追って日本に輸入された素の164よりも細いタイヤを取り付けていたんだ。これには当時「本物だなぁ」って感じたよ。

エンジンは200馬力だから今考えるとそれほどでもないけど、ノーマルのSOHCのV型6気筒ユニットをチューニングした200馬力で、トランスミッションとのギア比のマッチングが素晴らしくてね。走らせると楽しくて仕方がなかった。エンジン音がまた素晴らしいんだよ。

ATでも良かったけど164クアドリフォリオはメカチューンでの馬力アップでね。2、3、4速はもうスポーツカーそのもので、4ドアのフラッグシップに乗ってることを完全に忘れてしまいそうだった。

第三京浜の世田谷から川崎に向かうS字高速コーナーのスタビリティは鳥肌が立つほど良かったなぁ。ここはアウトストラーダ(*4)なんじゃないかと思うくらい。

内装も良くってね。メーターナセルは当時のフェラーリと同じで、縫製のピッチが細かくて明らかに手でソーイングしてるね。

アルファロメオ 164
アルファロメオ 164

――大絶賛じゃないですか。

松本 そりゃそうだよ。そうそう、それと後にDOHC 4バルブのV6も発売されたんだ。出力は235馬力は出ていたからパワフルだったと思うけど、とても特殊なSOHCとOHVが混ざったような乗り味でそれも好きだったなぁ。

――名車の匂いがプンプンしますね。

松本 そうだね。アルファロメオが実用性をキープしたまま、本気でメカチューンしたフラッグシップモデルだからね。エンジン音の鼓動が胸を打つスポーツセダン。もう、これが最後なんじゃないかな。歴史に残る車だよ。

■注釈
*1 クアドリフォリオ
アルファロメオが高性能モデルに付けていた伝統的なグレード名で「四つ葉のクローバー」を意味する。164でも特に人気が高い。

*2 ランチア テーマとフィアット クロマ
フィアット社とサーブ社による「ティーポ4プロジェクト」から生まれた2台の4ドアセダン。ともに基本デザインはジウジアーロが担当。

*3 スウェーデンのサーブ 9000
1986年、5ドアハッチバックとして発売され、後に4ドアセダンを追加。サーブ 9-5が発売される1997年まで製造が続けられた。

*4 アウトストラーダ
イタリアの高速道路の呼び名。1922年にミラノからガッララーテ間で建設され、世界初の一般用高速道路としても知られている。
 

アルファロメオ 164(初代)

1987年から1998年まで発売されたアルファロメオのフラッグシップモデル。4ドアセダンというカテゴリーながら美しいデザインと官能的なエンジンを積み、アルファロメオらしい姿勢が貫かれていた。クアドリフォリオは1990年に台数限定で生産され、ノーマル+15馬力の200馬力のV6エンジンを搭載していた。1992年にマイナーチェンジが行われ、後期型からはDOHCエンジンも採用されていた。

※カーセンサーEDGE 2019年4月号(2019年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏