土屋圭市


車で我々に夢を提供してくれている様々なスペシャリストたち。連載「スペシャリストのTea Time」は、そんなスペシャリストたちの休憩中に、一緒にお茶をしながらお話を伺うゆるふわ企画。

今回は、レーシングドライバーの土屋圭市さんとの“Tea Time”。

土屋圭市

語り

土屋圭市

1956年生まれ。長野県出身。1977年にプロデビュー後、ル・マン24時間レースをはじめとする数々のトップカテゴリーでタイトルを獲得。その走りのスタイルからドリフト・キング“ドリキン”の称号を得る。現在はドリフト競技「ドリフトキングダム」を主宰する。

車以外の趣味はない日々の癒やしは愛犬2匹

俺は車以外、趣味がないんだよ。興味もない。昔は(鈴木)亜久里から「スポンサーとの付き合いもあるからゴルフぐらいやりなよ」って言われたけど、「ゴルフやっても運転上手くなんないだろ」って断ったぐらい。レーシングドライバーだったら「クラブ振るよりハンドル握れ」っていうのが俺のポリシーでね。

車以外で唯一の趣味というか癒やしは犬かな。今はミニチュアダックスを2匹飼ってるよ。「会長(かいちょう)」と「お嬢(おじょう)」っていう名前なんだけど、家ではいつも俺の膝の上にいるし、寝るときも一緒。

実はもう1匹、お嬢の母親の「女将(おかみ)」ってのもいたんだけど、3年前に死んじゃったんだ。そのときは辛くて悲しくて、ペットロスって言うのかな、1週間仕事できなかったよ。親父が死んだときは翌日、仕事してたのにね。

大事にしている俺の仕事は「人に喜んでもらう」こと

レースもそうだし、車の開発もそう、こういう雑誌やメディアに出るのもそうなんだけど、すべて「お客さんを喜ばせたい」と思ってやってる。それが俺の仕事だからね。

喜ばせたいのは自動車メーカーやパーツメーカーじゃないのよ。「こんな車じゃ、乗れないよ」なんてことも言っちゃうんだけど、そしたらメーカーからは切られるよね、当然。だから俺、メーカーと年間契約とかないのよ(笑)。

そうやってずっとやってきたから敵も多いけど、ファンも離れないでいてくれるんじゃないかな。

でもねぇ、バカな俺だってさすがに考えるよ。「ここでコレ言ったら、来年から収入なくなるなぁ」って。とはいっても俺の言葉を信じて、タイヤ、部品、車を買ってくれるファンは裏切れない。

マジメっていうんじゃなくて、単純に曲がったことがキライなんだよね。いや、車を曲げるのは得意なんだけど(笑)。
 

家では仕事の話はしない奥様は車に一切興味なし

嫁さん? 仲はいいと思うよ。一緒にいるとラクなんだ。昔はよくドライブにも行ったな。夕飯食ってから急に、「草津に風呂入りに行こうか」とかね。往復5、6時間かけて、温泉に30分だけ入って帰ってくる。

彼女も免許は持ってるけど運転はしないな。俺が運転した方が速いから(笑)。

家では仕事のことは一切話さない。車に興味ないから、なんにも聞かないしね。旅行に行く話か、食いものの話だけだな。「今夜なに食べる?」「明日は?」って感じでね。

もう結婚して14年目だし、そんなもんだよ。俺は結婚2度目なんだけど、今の嫁さんは28コ下だから、それが逆にいいのかもね。ケンカにならないからな。
 

腕のいい職人はカッコいい。今リスペクトしてる人は……

海外では日本車が人気だね。アフターパーツが豊富で、少しずついじれる楽しさがあるからかな。

これは日本人のもってる“技”だよね。オートサロンなんて、彼らから見たら笑っちゃうぐらい面白いんじゃない?

海外には俺が乗っているハチロク(AE86)と同じモノが欲しい、っていうヤツもいっぱいいるから、年に何台か仕上げて売れればいいな、なんて思ったりもすることあるんだけど手がけるヒマがない。

俺は“職人”っていうのが好きなんだよね。車を仕上げる職人もそうだけど、寿司職人とかさ。もちろん腕のあるヤツしか認めないけどね(笑)。

俺が今一番カッコいいと思っている職人は、羽田空港の掃除のおばちゃん。

テレビ番組で見たんだけどさ、プロフェッショナルでめちゃめちゃカッコいいんだよ。掃除を極めるって、凄くない?

会ったら握手したいと思って、羽田空港行くたびに探してるんだけど見つからない。今度カーセンサーで俺と一緒にそのおばちゃんを探す企画やらない(笑)?
 

土屋圭市 ▲「犬が待ってるから(笑)」と徒歩で帰って行くドリフト職人。何度も振り返り手を振ってくれる優しい人だ
文/河西啓介、写真/阿部昌也
※情報誌カーセンサー 2019年12月号(2019年10月19日発売)の記事「スペシャリストのTea Time」をWEB用に再構成して掲載しています