テリー伊藤が「アストンマーティン ラピード」を前に“家族”を思い出す
2018/11/04
邪道だからこそ惹かれるものがある
今回は、「CAR BOX横浜」で出合ったアストンマーティン ラピードSについて、テリー伊藤さんに語りつくしてもらいました。
~語り:テリー伊藤~
『邪道』
今回お邪魔したCAR BOX横浜でラピードSを見たとき、頭に浮かんだのがこの言葉です。
アストンマーティンと聞いたら、ほとんどの日本人が「007」を連想するはずです。とくに年配の方は100パーセントと言ってもいいでしょう。
スタートが決まっているから、そこから外れるモデルは『邪道』扱い。「4ドアなんてアストンマーティンじゃないよ」となってしまう。
同じようなモデルとして、4座のフェラーリが挙げられるでしょう。
本当ならポルシェ カイエンやパナメーラも『邪道』のはずですが、ポルシェに利便性を求める人が多かったので、邪道ではなく王道になりました。これは稀有な例です。
果たしてパナメーラのワゴン版であるスポーツツーリスモは中古市場で『邪道』になるか、『王道』になるか……とても楽しみです。
普通の人は好んで『邪道』を選びませんよね。当然中古車を買う人が少ないので、下取りは極端に安くなる。でも実はここに美学があると感じています。
わざわざ『邪道』を選ぶ人って、ものすごくお金持ちっぽく見えませんか? だってリセールなんか気にしていないのですから。
きっと車雑誌も一切読まず、純粋に「これ、いいね」と感じて選んでいる。粋じゃないですか!
この車を見て、僕は親父のことを思い出しました。
親父は車が好きで、2年に一度新しいものに買い替えていました。とくに覚えているのがクジラクラウンのハードトップを買ってきたときのことです。
うちは貧乏で古い家に住んでいました。1階で卵焼きを作るために火を使うから、熱が隙間を通って夏には2階の畳から蜃気楼が上がります。
クジラクラウンを買ってきた親父に向かってお袋は「うちは古い長屋なのになんで車ばかり買い替えるの! 他の家は一軒家を買っているのになんでうちはハードトップなの!! 少しは考えなさいよ!!!」と怒鳴りつけました。
お袋の言葉はもっともですよ。でも親父はどうしてもハードトップが欲しかったのでしょうね。クーペやスポーツカーには「すべてを投げ打ってでも手に入れてやる」と思わせる魔力がありますから。
テリー伊藤なら、こう乗る!
ラピードSの流麗なフォルムはまさにスポーツカー。しかし4ドアということは、これは家族の車です。
6L V12というけた外れのエンジンを積んでいても、車内には生活があるのです。生活がある車には「すべてを投げ打ってでも」とまではならない。
つまりラピードSに乗るということは、車から降りてもアストンライフがあることを示唆しています。
きっと後ろの席には名門私立中学に通うお子さんが座るのでしょう。その子は贅を尽くしたアストンマーティンを何とも思わない暮らしをしているはず。
僕みたいな人間がうかつに話しかけても「なによ」と言われてしまいそうです。後部座席にはテレビがついていますが、いったいどんな番組を見ているのでしょうね。
もし後部座席に座る機会があったら、誰もが窓の小ささに驚くはず。きっと「セダンなのだからもっと窓を大きくして開放的にすればいいのに」と思うでしょう。でもこれは日本人の発想です。
イギリスでは何よりプライベートを重んじます。住宅も日本では窓を大きくしますが、イギリスの家の窓はとても小さい。僕たちが窮屈さを感じる部分こそ、最高の贅沢なんです。
日本では『邪道』な存在ですが、僕はラピードSのシンプルさが好きですね。
ベタになってしまいますが、ブリティッシュなスーツを着てこの車の運転席に座ったらカッコいいですよ。
この個体は2014年式で、価格は新車時より約1000万円下がっていました。でも僕はまだこの車を何も気にせず買える域には達していません。
残念ながら僕の周りにもこれに乗る人はいないので、どんな人が買うか想像もつきません。きっと個人で会社をやっているような人がかつての「いつかはクラウン」のように、「いつかはアストンマーティン」と思っているのでしょう。
もしラピードSの相場がもっと安く…………870万円くらいまで下がったら、貴族のような暮らしを少しだけ楽しんでみたいですね。
アストンマーティン ラピードS
アストンマーティン久々の4ドアモデルとなるラピードは、2010年2月から日本導入が始まった。今回紹介するラピードSは、2013年1月に発表となったラピードの高性能モデル。搭載されるエンジンはオールアルミニウム製6L V型12気筒。最高出力は558ps/6750rpm、最大トルクは63.2kg-m(620N・m)/5000rpmに達する。0-100km/h加速は4.9秒。また、状況に応じて「Natural」「Sport」「Track」の3種類からサスペンションセッティングを選べるアダプティブダンピングシステムが装備されている。シートはリアも独立式になっていて、走行中もしっかり体をサポートする。キャビンは全体的に狭く、後部座席もゆったり座るという雰囲気ではない。
■テリー伊藤(演出家)
1949年12月27日生まれ。東京都中央区築地出身。これまで数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在『ビビット』(TBS系/毎週木曜のみ8:00~)、『サンデー・ジャポン』(TBS系/毎週日曜9:54~)に出演中。単行本『オレとテレビと片腕少女』(角川書店)が発売中。現在は多忙な仕事の合間に慶應義塾大学院で人間心理を学んでいる。
【関連リンク】
日刊カーセンサーの厳選情報をSNSで受け取る
あわせて読みたい
- 西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 ランボルギーニ ウルスの巻
- 先代BMW 3シリーズ(F30型)を買うなら、総額150万円以下が狙い目だ!
- 【トヨタ タンクの中古車を買うなら?】オススメの選び方や相場、グレードなどを徹底解説
- EVハイパーカーメーカー「リマック」が今熱い!従来のスーパーカーを猛追するクロアチアの新星【INDUSTRY EDGE】
- 現行型ヴォクシーの平均価格が200万円切り目前|迫力重視の「煌」も、燃費重視のハイブリッドも買い時到来
- 【功労車のボヤき】「オペルとは思えないほどイカしてる!」というトホホな褒め言葉に涙した日もあったけど……。オペル一族の逆襲!?
- 【試乗】メルセデス・ベンツ 新型Sクラス│”新時代の車”を堪能できるラグジュアリーセダンの最高峰!
- ドア開閉音からも分かる卓越したビルドクオリティ、空冷時代だからこそ生きたポルシェの技術力
- 【試乗】新型 フォルクスワーゲン T-Cross│「TさいSUV」はハッチバックよりもどこが欲張りか? 実際に乗って考えた
- 今はもう中古車でしか味わえない高純度FR、国産を代表するミドルセダンのレクサス GS【Back to Sedan】