ダイムラー・ベンツはなぜ「直6」エンジンを復活させたのか?
2016/12/26
ダイムラーが直6エンジンを発表
メルセデスブランドで知られるダイムラーが、新しいエンジンシリーズを発表した。これは同社が2016年春に投入した2L直4ガソリンと、それを2基組み合わせて排気量を4Lに拡大したV8ターボ、そしてM256と呼ばれる3L 直6だ。
メルセデス・ベンツにとって、直6ユニットは久々の復活で、しかも今回はターボチャージャーと電動スーパーチャージャーが組み合わされたエンジンである。性能は現行V8と同等で、最高出力408ps/最大トルク51.0kgmを超える見通しだ。現行の3LV6比で+75psの出力アップとなるが、これでも出力を抑えてあるという。
一方で、環境性能も現行V6エンジンと比べて、15%ほど向上する。2017年にも、Sクラスの改良モデルに搭載される予定だ。
安全・環境対策=V6の時代は終わった?
そもそもなぜ、いま直6なのか。その理由は、欧州の排ガスおよびCO2排出量規制にある。いまや排ガスをきれいに浄化する後処理システムは必須で、現行ガソリン車が採用する三元触媒では物足りなくなるといわれている。
しかし、V6エンジンでは、バンクごとに後処理装置が必要となり、エンジンルーム内のスペース確保が難しくなる。その点、直6ユニットなら、排気系をひとつにまとめられる。
もうひとつの理由は、新しい性能向上デバイスと、排ガス後処理装置の組み合わせだ。今回ダイムラーは、アウディに続いて電動スーパーチャージャーの採用を明らかにした。これはターボのコンプレッサーホイールに電動モーターを合体させたもので、排気エネルギーではなく、モーターでコンプレッサーを回す仕組みだ。
このシステムなら、エンジン回転数が低いときでも過給圧を生み出せる。つまり、発進直後から過給の効果が得られることになる。電動の呼び名からもわかるように、このスーパーチャージャーはバッテリーで駆動する。ただし、回しっぱなしだと、むだに電気を食ってしまう。
そのため、数秒だけ稼働する。エンジン回転数が高いときは、通常どおりターボを使う、2段構えの過給システムだ。V型エンジンで、このシステムを用いるには、両バンクに必要となる。仮に1個で済ませるとしても、排気管の取り回しが複雑になってしまうようだ。よって直6エンジンが選ばれた。
直6エンジン復活の理由は他にもある。直6が消えるきっかけとなったのは、衝突安全基準の強化だった。全長が長いエンジンを、フロントノーズの中に押し込むには、ボディ設計の工夫が必要だ。しかし、全長が短いV6ユニットなら、直4搭載車と同等の構造で済む。だからV6が流行った。
とはいえ、近年ボディ設計技術は向上しており、直6エンジンを搭載しながらも、衝突安全性が確保できるようになった。さらに、今回ダイムラーが発表した新しいエンジンにも言えることだが、エンジン全長は以前よりも短くなっている。
これは、エアコンのコンプレッサーをはじめ、ウォーターポンプ、オイルポンプなどが電動化されて、駆動ベルトが不要になったためだ。もはやクランクシャフトの回転を分けてもらうためにベルトを介してエンジン本体と繋がれるユニットはオルターネーターだけとなった。これもやがて、発電機でエンジンを始動させる、ISGの実用化によってベルトレス化が進むだろう。
モジュール化も加味された新世代エンジン
ダイムラーの新しい直6エンジンは、1シリンダーあたり500ccの排気量を有する3Lだが、同じ排気量のディーゼルも2017年に市販化される予定だ。最高出力は従来型の258psから313psに向上。最大トルクは、66.3kgmを超える見込みだ。
紹介してきた各エンジンはいずれもシリンダー間のピッチが90mmに縮小されている。興味深いのは、その数値が共通であること。つまりモジュール化されており、生産などあらゆる分野で、メリットがもたらされるだろう。製造工程における効率化も、今日の自動車メーカーにとっては大きなトピックなのだ。