▲85年から93年まで販売されたメルセデス・ベンツ 190E。当時のSクラスに乗るユーザーのための「小さな、しかしSクラス同等の品質を備えたセカンドカー」という立ち位置の小型サルーンだった ▲85年から93年まで販売されたメルセデス・ベンツ 190E。当時のSクラスに乗るユーザーのための「小さな、しかしSクラス同等の品質を備えたセカンドカー」という立ち位置の小型サルーンだった

かつての「小ベンツ」は今、「清楚で可憐なクラシックカー」になった

ここ最近、メルセデス・ベンツ 190Eがにわかに活況を帯びている。どこから湧いて出てきたのか知らないが、走行距離少なめの「お宝」とでも呼びたい感じの物件が結構な数、カーセンサーEDGE.netに掲載されるようになってきたのだ。

きっかけは、昨年10月にメルセデス・ベンツ日本が93年式190Eをレストアした「リマン(リマニュファクチュアド)メルセデス・ベンツ」だろうか。

ご存じの方も多いかと思うが、これは走行約5万kmの190Eの各種部品300点を50時間かけて交換したうえで全塗装も行い、新車時に近い乗り味とビジュアルに戻したというもの。まあこのリマン190Eが直接のきっかけとなったのかどうかは不詳だが、いずれにせよ今、なかなかいい塩梅の中古190Eが日本各地の輸入車販売店に並んでいるのだ。

それら物件を眺めていて思うのは、「今、コンディションの良いメルセデス・ベンツ 190Eに乗るということは“プチ・クラシックカー趣味”を楽しむようなものなんだろうなぁ」ということだ。

▲大柄な車ばかりになった現在だからこそ、この小ぶりなサイズ感が際立つ ▲大柄な車ばかりになった現在だからこそ、この小ぶりなサイズ感が際立つ

主には1925年から1942年にかけて製造された車のことをクラシックカーと呼ぶ場合が多いわけだが、もちろんせいぜい1982年から(※日本仕様は1985年から)1993年にかけて販売されたメルセデス・ベンツ 190Eは、そういった「モノホンのクラシックカー」とは何もかもが違う。例えばだが1930年代の英国で製造されたアルヴィス スピード25というクラシックカーと比べるならば、メルセデス・ベンツ 190Eなど平成27年式トヨタ アクアと同じぐらい便利で現代的な乗り物だ。

しかし190Eをアルヴィスではなく「最近のメルセデス」と比べれば、そのサイズ感や重厚感、随所にただようアナログ感などは最新のそれとは明らかに別世界であり、それゆえ、クラシックカー趣味とまでは言わないまでも「プチ・クラシックカー趣味」の範疇には十分入るのではないか……と思うのである。

そしてもちろん、プチ・クラシックカーであっても(ちゃんと整備さえすれば)現代の交通事情にも十二分以上に対応でき、そして整備に関わる消耗部品の料金も、プレミアムブランドとしてはさほど高額ではないというのがメルセデスの美点。さらに言えば、いわゆるOEM部品(純正部品を製造しているサプライヤーが、メルセデスのロゴを付けずに製造販売している比較的安価な交換部品)もメルセデス車には数多く存在するため、純正部品にこだわらないのであれば、思いのほか手頃な予算で点検および整備を行うことも可能なのだ。まぁ新しい車と比べて自動車税が割増となってしまうのはいかんともしがたい部分だが。

▲外装部品は高額だが、消耗部品はそこそこ手頃な価格なのが往年のメルセデスのナイスなところ ▲外装部品は高額だが、消耗部品はそこそこ手頃な価格なのが往年のメルセデスのナイスなところ

それはさておき、その全盛期から約25年が経過した今現在の目で見るメルセデス・ベンツ 190Eは本当に素晴らしいと考える、不肖筆者である。

25年ほど前は「小ベンツ」というありがたくない俗称が与えられ、「EクラスやSクラスが買えない人が無理して乗ってる車」というイメージもなくはなかった。また、言ってはなんだが悪趣味な改造が施されてしまった個体も90年代半ば頃は多かったように思う。

しかし時代がひと回りした今、フルノーマルの190Eは「単純にステキなプチ・クラシックカー」になった。

現代のサルーンではほぼありえない全長4450mm×全幅1690mmというサイズ感とシンプルな造形は、まさに「可憐」であり「清楚」。それでいてメルセデスが“Das Beste oder nichts”(最善か無か)を地で行っていた時代の作品ゆえ、可憐な身体の奥からは「本物」「重厚」といった空気が隠しようもなく漂ってくる。そして乗れば「なるほどこれがDas Beste(最善)ってやつか!」と、両の手とお尻が完全に納得する。とにかく素晴らしいのだ、状態の良いメルセデス・ベンツ 190Eというのは。

▲リサーキュレーティングボール式ステアリングは、ただ回しているだけで陶酔してしまう甘美なフィール ▲リサーキュレーティングボール式ステアリングは、ただ回しているだけで陶酔してしまう甘美なフィール

とはいえもちろん最終年式でも22年前の車であるゆえ、いくら状態の良い中古車を買ったところでトヨタ アクアのように「ほぼメンテナンスフリー」とはいかないだろう。数ヵ月ごとのエンジンオイル交換だけでなく、必要に応じたブッシュ類の交換、あるいはハーネス(配線)の全交換など、それなりの手間がかかってしまう可能性もある。

それを「実用車のメンテナンス」と考えると、ちょっと面倒くさい気持ちになったりもする。しかし「大人の道楽」と考えた場合はどうだろうか? 十分ペイするというか、大の大人が実践する趣味としては「安上がりな部類」に入ると思うのだが、いかがだろうか。

ということで今回の筆者からの、ある程度余裕がある大人たちに対するオススメは、ずばり「メルセデス・ベンツ 190E」だ。

text/伊達軍曹