▲物事には「適量」というものがあると気づくきっかけとなったコンビニで買ったレーズンバターロール ▲物事には「適量」というものがあると気づくきっかけとなったコンビニで買ったレーズンバターロール

レーズンの量は、そしてエンジン出力の数字は多ければ多いほど偉いのか?

上の写真のパンは不肖筆者が本日、取材の合間に貧しい昼食として胃袋にかっこんだコンビニで売っている「マーガリン入りレーズンバターロール(4個入り/税込み100円)」。貧しくはあるが、程よい個数の干しぶどうとマーガリンが混入したパンとのバランスが良好で、大変うまかった。最近のコンビニ食品はなかなか侮り難いと痛感させられたものだ。それと同時に思い出したのが、半年ほど前に東京の下町でたまたま購入した「レーズンの量が尋常ではないレーズンパン」のことであった。

わざわざ写真は撮らなかったので若干説明しづらいが、その「レーズンの量が尋常ではないレーズンパン」は食パンタイプで、食パン一斤における全体積のうちおよそ半分以上、下手をすれば3分の2近くをレーズンが占めているというものだった。

東京下町ぶらり散歩中にたまたまそれを見かけた筆者は「うむ、これはかなりうまそうだ」と思い、食パン一斤としてはなかなか値が張るそれを購入し、自宅へ持ち帰ったのち食してみた。

……ひとくち目こそ「うまい!」と思った筆者だったが、結論としては飽きてしまい、最後まで食べきることができなかった。

このことを通じて学んだのは「結局、世の中“適量”という概念が重要なのだ」ということだった。

バターロールや食パンといった形状に関わらず「レーズンパン」というものにおけるレーズン含有量がおおむねどれも同じであるのには、やはり理由があるのだ。あれくらいがおおむね適量なのであり、「多けりゃ多いほどうまい!」というわけではないのだと筆者は考えるのである。

それと同様のことが、昨今の車においても言えるような気がしてならない。

その昔は「日産のFJ20ETエンジンは最高出力190ps! すげえ!」と思ったものだが、その後の技術革新とともに自動車用エンジンの最高出力はスーパーインフレ状態となり、今や190ps程度では小学生だって驚かない。ちょっと気の利いたスポーツモデルであれば250psオーバーは当たり前となり、スーパーカーともなると500ps、600psの世界である。

▲最高出力610psのランボルギーニ ウラカン。V12のアヴェンタドールはさらに圧倒的な700psとなる ▲最高出力610psのランボルギーニ ウラカン。V12のアヴェンタドールはさらに圧倒的な700psとなる

……それはそれで「男の夢や情念の結実」のようなものとして大変素晴らしいものだとは思うが、実際のところ500psや、それどころか250psぐらいであっても「必要なのか?」と問われれば、「実は全然いりません」と答えるほかないのが日本の公道の実情である。

筆者の現在の自家用車はルノーのメガーヌRSという車の前期型で、カタログによればその最高出力は250psだが、普段は大変おとなしい、まるで高齢ドライバーのような運転に徹している。なぜならば、ちょっとアクセルを踏むだけで(日本の道路状況的には)ものすごい速度が出てしまうため、安全の面でも免許証の点数という面でも「危ない」からだ。

いろいろな考え方はあるかと思うが、パワーがありすぎる車というのは「レーズンの量が多すぎるレーズンパン」にも似て、なかなか存分には楽しめないものだ。レーズンの量に関しては長年続いているパン業界のコンセンサスに従うのが良いとして、車の馬力とは果たしてどれくらいが「適量」なのだろうか。どれくらいが、日本の公道を存分に楽しむうえでは適切な数値なのだろうか。

パワーウェイトレシオなど様々な要因と併せて考えなければならない問題であるため、もちろんエンジンのカタログ馬力だけで何かを語ることなど本来はできない。しかしそれを承知であえて言うなら、「だいたい80ps~150psぐらいのコンパクトカー」か「150ps~200psぐらいのBMW 3シリーズサイズ(要はDセグメント)」で、「そしてマニュアルトランスミッションであるもの」が、そのエンジンパワーを比較的フルに引き出しながら、合法かつ安全に楽しく走るうえでは最適なのではないかと考える不肖筆者である。

そういったスペックの車は、それ以上の圧倒的パワーを誇る車とヨーイドンで速度を競えば確実に負けるわけだが、「持ちうるパワーを存分に引き出す楽しみ」という面では大勝利を収めることができるだ。「試合に負けて勝負に勝つ」というか。

そういったスペックに合致する車といえば、まずは先に述べたBMW3シリーズが考えられる。現行F30型も先代E90型もそれぞれ320iは最高出力100馬力台後半で、そしてMTが用意されている。決して速くはないが、「存分系」のファンな名車といえるだろう。

▲写真はF30こと現行BMW 3シリーズ。3シリーズは代々、排気量2L前後のグレードにMTを用意している ▲写真はF30こと現行BMW 3シリーズ。3シリーズは代々、排気量2L前後のグレードにMTを用意している

近年のコンパクトカーでいうと、プジョー 208かフィアット 500、ルノー トゥインゴ、シトロエン DS3それぞれのMTモデルが82ps~156psと、まさにちょうどいい塩梅だ。

▲こちらはルノー トゥインゴのクープ・デ・ザルプ。1.2Lエンジンの最高出力は100psだ ▲こちらはルノー トゥインゴのクープ・デ・ザルプ。1.2Lエンジンの最高出力は100psだ

前述のとおり超ハイパワーなエンジンを持つ車というのは情念の結実として大変美しい存在であり、筆者はそれを否定するものではない。しかし「実際問題」としてはここに挙げたような車の方が毎日を本当の意味で楽しめると思うのだが、どうだろうか。

ということで今回のわたくしからのオススメは「日本の道路状況において“適量”なエンジンパワーを備えたMT車」だ。

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  • Car:BMW 3シリーズ 現行型、旧型(320i)&プジョー RCZ&フィアット 500(S)&プジョー 208(アリュール)&ルノー トゥインゴ&シトロエン DS3(スポーツシック)
  • Conditions:MT
text/伊達軍曹