▲「乗るだけで、しかも100万円以下の予算で、いきなりシブくて色気のある男になれる車なんてあるの?」と思うでしょうが、実際あるんです! ▲「乗るだけで、しかも100万円以下の予算で、いきなりシブくて色気のある男になれる車なんてあるの?」と思うでしょうが、実際あるんです!

オープン2シーターは、実は若者ではなく中高年にこそ似合う

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、所用で新幹線に乗る際は駅前の金券ショップを必ず活用するなど、各種のセコい節約を心がけながらニッポンの中流ド真ん中を生きている。

しかし筆者ももはやアラフォーというより「アラフィフ」といった方が正確な年齢だ。いつまでもセコい節約マンのイメージのまま生きるのではなく、そろそろ中年のシブみというか色気のようなものを身につける必要もあると感じている。例えて言えば同じアラフィフでも俳優・温水洋一さん(51)のあの感じではなく、真田広之さん(55)とか仲村トオルさん(50)のようなシブいおっさんを目指さねばならないのだ。

とはいえ内面的なシブみというのは自らの人生経験で何とか醸し出すほかなく、外見のシブみは高須クリニックでアンチエンジングしてもらう、個人向けスタイリストにギャラを払って衣服のコーディネイトを依頼するなどの必要がある。どちらもハードルは高く、そう簡単にできるものではない。

だがよくよく考えてみると、比較的イージーに、明日からでもいきなり「シブい中年」になれる方法がひとつあることを思い出した。

オープン2シーターに乗るのである。

▲固定屋根がなく、2人しか乗れないオープン2シーター。人はそれに乗るとなぜシブく見えるのか? ▲固定屋根がなく、2人しか乗れないオープン2シーター。人はそれに乗るとなぜシブく見えるのか?

これは筆者の勝手な持論だが、2シーターのオープンカーというのは若い男性よりもおっさんまたはおじいさんの方が似合い、そしてシブく見えるものだ。「若者+オープンカー」は双方ともがギラギラしているせいだろうか、どうにも美しくないのである(※個人の感想です)。枯れたおっさんまたはおじいさん+ギラッとしたオープン2シーターこそが組み合わせの妙であり、最高のマリアージュなのだ。それゆえオープン2シーターに乗りさえすれば、こんなわたしでも(多少は)真田広之に近づけることは間違いない。

問題は「じゃあどんなオープン2シーターに乗るか?」ということだが、基本的には「変な改造が施されているモノでさえなければ何でもいい」というのが正解だ。GTウイング付きのホンダ S2000とかにアラフォーやアラフィフが乗るのは個人的にどうかと思うが、端正なノーマル車でさえあれば国産のマツダ ロードスター各世代もかなりシブいし、金さえあればジャガー Fタイプコンバーチブルなども最高だ。まぁ基本的には輸入車の方が端的に言ってよりシブくは見えるだろう。

▲こちらはジャガー Fタイプコンバーチブル。こんな車に乗れれば言うことなしですが、価格は中古車でも約750万円以上。……なかなか手が出せる金額じゃないのが正直なところ ▲こちらはジャガー Fタイプコンバーチブル。こんな車に乗れれば言うことなしですが、価格は中古車でも約750万円以上。……なかなか手が出せる金額じゃないのが正直なところ

しかしこちとら自慢じゃないがカネはないので、ある程度の低予算、具体的には100万円とか100万円ちょいぐらいの範囲で選びたいところである。果たしてそのような予算で、シブい中年になれるシブい輸入2シーターオープンはあるのだろうか?

それが実はある。初代BMW Z4だ。

▲03年1月から09年3月まで販売された初代BMW Z4。ロングノーズ+ショートデッキの典型的なスポーツカースタイルを採用したオープン2シータースポーツ。ルーフは布製のソフトトップだ ▲03年1月から09年3月まで販売された初代BMW Z4。ロングノーズ+ショートデッキの典型的なスポーツカースタイルを採用したオープン2シータースポーツ。ルーフは布製のソフトトップだ

優れたハンドリング性能と強烈な色気は100万円以下になっても不滅

ご承知のとおり初代Z4は、それまでのZ3に代わって03年1月に登場したBMW製オープン2シータースポーツ。ロングノーズ+短いリアエンドという古典的スポーツカーの基本フォルムは踏襲しつつ、目に見える各部は現代美術的にモダンでエッジの立った方向に変更されたモデルだ。用意されたエンジンは年代により様々だが、基本的には2.2Lと2.5L、3Lの直列6気筒DOHC。

その特長は、外観的には前述のとおり「古典とモダンの絶妙なる融合」であり、その得も言われぬ面構成と細部のエッジ感は登場から13年もの年月が経過した今もまったく色あせていない。初代アウディ TTほどではないのかもしれないが、初代Z4もまた、近年の自動車デザインにおける金字塔のひとつであると個人的には思う。

そして走りも素晴らしい。鋭く、しかしスムーズに吹け上がるエンジンの気持ち良さは他のBMW各モデルに準ずるものだが、初代Z4の何が素晴らしいって、その抜群の回頭性だ。基本的にはピュアスポーツではなく「ラグジュアリースポーツ」とでも呼ぶべき存在の初代Z4だが、回頭性の良さ(クイッ、クイッ! といとも簡単に鼻先が入っていく感触)はピュアスポーツカーに勝るとも劣らない。いや本当に素晴らしいハンドリング性能なのだ。

▲この長い鼻先がコーナーにスイスイと入っていく様はかなりの快感! ▲この長い鼻先がコーナーにスイスイと入っていく様はかなりの快感!

そんな初代Z4は新車時約400万~600万円というなかなかお高い車であったのだが、その後格安化が進み、一部のグレードが150万円前後という手頃な車両価格で狙えるようになっていた。

で、それを仮に「Z4の値下がりフェイズ1」と呼ぶとしたら、長らくフェイズ1状態が続いていたのだが、ここへきてついに「フェイズ2」に突入したのだ。

つまり「初代Z4=100万円以下時代」の到来である。

相場の中心というか最大のボリュームゾーンは依然として150万円前後ではあるのだが、ここのところそれに対抗する「第二極」とでも呼ぶべき一群が誕生しており、それが80万~99万円付近なのだ。で、そういった第二極には当然ながら過走行車や修復歴ありの物件も多いわけだが、ちゃんと探せば走行5万km台までの、まあまあ好条件な物件も結構な数が流通している。

わたしのような中古車マニアがそれを見れば「ははーん、さては100万円ちょいぐらいで買いましたな?」と2秒で見抜いてしまうが、あいにく世の中そのようなマニアは多くない。たいていの人は、現代美術的造形の初代Z4を見れば「……これ、結構お高かったでしょう?」と思うはずだ。変な改造は施さす、内外装の美観を極力保てば、という条件付きではあるが。

そしてそういった周囲の評判ウンヌンだけでなく実際乗ってみても、好条件な初代Z4というのは依然として非常に素晴らしい車だ。そのキリリとした走りと情熱的エンジンの存在感は、知らず知らずのうちに乗る者の精神に影響を及ぼし、気がつけばドライバー自身の内面も「シブくて色気のあるおっさん」になっている可能性がある。

▲ブラックとアルミ調のシルバーを基調とした初代Z4のコックピット。余計な装飾はほとんどないシブい空間だ。こんな空間で時を過ごせば、ドライバーの内面もシブくなる可能性大? ▲ブラックとアルミ調のシルバーを基調とした初代Z4のコックピット。余計な装飾はほとんどないシブい空間だ。こんな空間で時を過ごせば、ドライバーの内面もシブくなる可能性大?

まあ最後の一文は希望的観測にすぎるかもしれないが、一面の真実であることは間違いないと確信している。それゆえ、ご興味のある方はぜひ……!

text/伊達軍曹
photo/BMW