▲釣り車というと自動的にバンやワゴンを連想するが、実はセダンでも結構イケちゃうもの? ▲釣り車というと自動的にバンやワゴンを連想するが、実はセダンでも結構イケちゃうもの?

キャビン内が魚くさくならないという圧倒的「性能」

釣り車や道具車にはステーションワゴンやバンなどの「キャビンと荷室が一体になっている車」を推奨している筆者である。なぜならば、当たり前だがその方が何かと便利だからだ。しかし過日「や、釣り車には実はセダンこそ最強ですよ!」と主張する論客が現れた。筆者のFacebookページにコメントを頂戴したXさんという方だ。

Xさんの主張を要約すると以下のとおりとなる。

1. セダンはキャビンと荷室が完全にセパレートされているから、釣りグッズをトランクに載せても客室内に磯のにおいが入ってこない。快適である。
2. ステーションワゴンは「後席中央部だけ」をスルーさせることができず、後席の約半分を倒さねばならないから、乗車人数が3名に減ってしまう。
3. トランク中央部がスルーする方が、セレクトレバー周辺までを直線的に使って長尺物を積める。

これらの結果として、Xさんは「釣り車にはR34スカイラインのセダンとかが良いのではないでしょうか?」と提案する。……なるほど、一理あるかもしれない。

▲1998年5月から2001年5月まで販売された日産 スカイラインR34型。写真は25GT-Xターボ ▲1998年5月から2001年5月まで販売された日産 スカイラインR34型。写真は25GT-Xターボ

1の「におい問題」は確かに重要課題であり、キャビンと荷室との間に隔壁が存在するセダンであれば、キャビン内の空気はいつだって清浄だ(トランク内のにおいをどうするかという問題はさておき)。

2の「乗員数問題」は釣行に出る際の人数にもよるので一概には言えないが、家族や友人などと4名で楽しく釣行に出かけたい際にはクローズアップされる問題である。

3の「トランク中央部の活用問題」は、そこを活用すると結局キャビンが磯くさくなってしまう気もしないではないが、しかし荷室とキャビンが一体になっているワゴン系の場合と比べれば、臭気の漏洩は最低限で済むだろう。

▲セダンに多い、後席のセンター部分を倒すことで荷室とつながる作り。写真は現行BMW 3シリーズ ▲セダンに多い、後席のセンター部分を倒すことで荷室とつながる作り。写真は現行BMW 3シリーズ

そしてXさんの主張には含まれていなかったが、筆者としてはセダンの美点としてさらに「4」を加えたい。

4. セダンは走りがいい。だから、疲れた身体にやさしい。

ご承知のとおり釣り人の朝は早い。眠い中で運転するのは正直しんどいものだ。そして釣行帰りはさらに疲れているため、さらにしんどい。その際に各種の走行性能がイマイチな車だと、ドライバーのしんどさは2倍、3倍となる。しかし静粛性と対横風性能に優れ、そして全般的な走行性能も良好なセダンであれば、帰り道の運転もそこまではつらくないはずだ。

▲筆者が乗る旧型ルノー カングー。全体的には素晴らしい道具車だが、横風が強いと正直やや疲れる ▲筆者が乗る旧型ルノー カングー。全体的には素晴らしい道具車だが、横風が強いと正直やや疲れる

「セダンじゃなくてステーションワゴンでも走りは十分良好なんじゃないの?」という指摘もあるだろう。まさにそのとおりだと筆者も思うが、しかしセダンには「道具類のにおいを遮断できる」という大きなメリットがある。走りの質が同じでありながら(ていうか同一車種ならセダンの方がやや上でしょうが)、“対におい性能”は大幅に優れるというのが釣り車としてのセダンの優位性である。

問題はロッドを積めるか否かだが……

最大の問題は「ところで荷物、載るわけ?」ということだ。

これについては筆者が実験してみた。まずクーラーボックスやタックルケース、ウェーダーバッグなどの箱モノは、よほどトランクが小さい特殊なモデルでない限り、またよほど巨大なボックス類でない限り、セダンの荷室にも普通に積載できる。もちろんワゴンやバンなどと比べて様々な制約は受けるが、そこは走行性能および対におい性能の高さとのトレードオフということであきらめるしかない。

▲よく考えればゴルフバッグを載せることの多いセダンだけに、釣り用の道具もそこそこ載せられて当然だ ▲よく考えればゴルフバッグを載せることの多いセダンだけに、釣り用の道具もそこそこ載せられて当然だ

焦点はロッド(竿)だ。あの長いモノを、果たしてセダンにも積めるのだろうか。

X氏が提案する「トランク中央部をスルーさせ、セレクトレバー周辺までを直線的に使って積む」というスタイルであれば、トランク中央部をスルーできる車種でさえあれば、そして2ピースまたは3ピースロッドを分割したうえで積載するのであれば、何ら問題なくイケる。

しかし筆者としては「セダンの最大の優位性は“におい遮断性能の高さ”なのだから、中央部はあえてスルーさせず、ロッドはトランクに入れるか、あるいは後席に立て掛けるのが良いのでは?」と考える。後者の場合は乗車可能人数は減ってしまうが、まあそれはそれとして。

で、いくつかのセダン(メルセデス・ベンツCクラスぐらいの、大きくもなく小さくもないセダン)のトランクと後席に、各種の2ピースロッドを分割したうえで置いてみた結果は以下のとおりだ。

●6フィート前後の2ピースロッド
後席に立て掛けるまでもなく、トランク内に収容可能。ただしロッド以外の荷物の量と置き方次第では後席に立て掛ける必要があるかも。

●8.6フィートの2ピースロッド
トランク内への収容は、車種によってはギリギリ可能。現実的には後席に立て掛けるのがオススメで、その場合は斜めにするのではなく、普通に垂直に立て掛けることができる(やたら屋根の低いセダンは除く) 。

●10.6フィートの2ピースロッド
トランク内への収容は無理。後席に立て掛ける場合も、垂直に立てるのは厳しい。しかし斜めにすればほぼ余裕で立て掛けることが可能。

以上の考察からいえるのは、次のとおりとなるだろう。

「なんだかんだいってワゴンやバンの方が便利だとは思うが、対におい性能と走行性能を重視したいのであれば、釣り車にセダンという選択も全然悪くない」

で、もしもあなたが上記2点を重視してセダンを買おうと思った場合、何を選ぶべきか? これはもう好みと予算に応じて何でもお好きなモデルを買えば良いとは思うが、いちおう参考までに筆者のオススメ(というか単なる好み?)を挙げるとすれば、以下の2モデルとなる。

まずは旧型BMW 3シリーズ。走行性能の高さはいわずもがなで、足回りがちゃんとしていれば乗り心地も良好だ。

▲2005年4月から2011年12月まで販売された旧型BMW 3シリーズ。中古車のボリュームゾーンは80万~160万円付近とお手頃だ ▲2005年4月から2011年12月まで販売された旧型BMW 3シリーズ。中古車のボリュームゾーンは80万~160万円付近とお手頃だ

輸入車がお好きじゃないのであれば、2代目スバル レガシィB4だろうか。邪魔にならない適度な寸法と、BMWにも決して負けない走行性能が魅力だ。

▲4代目レガシィツーリングワゴンと同時期に販売された2代目スバル レガシィB4。中古車のボリュームゾーンは40万~90万円付近 ▲4代目レガシィツーリングワゴンと同時期に販売された2代目スバル レガシィB4。中古車のボリュームゾーンは40万~90万円付近

いずれにせよ「セダンで釣行」というニューウェーブ、残る「仮眠性能」については未知数だが、全体としてなかなか悪くない選択ではあるはずだ。

text/伊達軍曹