旧型VWゴルフこそ世界一?のGTカーである理由
2014/07/29
いかにもなGTカーは、実はグランドツーリングには不向き?
過日、とある自動車雑誌から「あなたにとって最高のGTカーとは?」という趣旨のコメント取材を受けた。グランドツアラーすなわち「走行性と居住性にすぐれ、高速で長距離を走行できる乗用車(三省堂「大辞林」)」についての特集を展開するらしい。
当然わたくし以外の自動車ライターや自動車評論家複数にも同様のヒアリングが行われたはずで、出来上がった特集を見ていないので正確なところは不明だが、おそらくは「最高のGTカー。ボクにとってそれはマゼラーティの何々である」とか「BMW6シリーズ グランクーペこそ、ボクにとっての云々かんぬん」と、高額な、いかにもGT然とした車種が挙がっているのだろう。
もしもそうだとしたら、わたしに言わせればド素人である。
……いや、言葉が過ぎた。というか正確ではない。訂正しよう。いかにもGT然とした高額車を「最高のGTカーだ」とする評論家諸氏は、庶民の暮らしというものをわかっていない。
考えてもみてほしい。あなたがグランドツーリングに出るとして、車両本体価格1024万円のBMW640iグランクーペを旅の伴にするとしよう。インポーターから借用する広報車両ではなく、「あなたが、あなたが働いた結果のお金で買った、あなたのグランクーペ」だ。
もしもその状況で平然と冷静にグランドツーリングを遂行できるのだとしたら、あなたはなかなかの器の持ち主か、もしくはシンプルに富裕な方だ。しかしわたしのようなド庶民は、あいにく640iグランクーペで冷静に長距離ドライブをすることなどできやしない。
「……あと2000kmで走行距離が3万km台になっちゃうなぁ。そうすると査定、下がるだろうなぁ」
「跳ね石でキズ付くと嫌だから、もうちょっと速度落とそうかなぁ……」
「あのちょっと狭い悪路を入って寄り道してみたいけど、ボディ側面とか下回りが傷んだら困るし……」
などなど、考えるのはお金に関することばかりで、とてもじゃないがグランドツーリング=大旅行を自由闊達な精神で楽しむことなどできないだろう。
無論、こういった感覚はおサイフ事情や育った環境によって異なるため、1024万円の640iグランクーペを自由に使いこなせる人も世の中にはいるのだろう。それはそれで結構なことである。しかし少なくとも、勤労中年としてごく一般的な収入で暮らしている筆者には無理な相談だ。
GTカーにとって本当に大切な要素は「適度なボロさ」だ
そんなこんなを考えつつ、話は冒頭に戻る。「あなたにとって最高のGTカーとは?」という質問だ。わたくしはそれに対し、自信をもって「あくまでわたくし個人にとってだが、最高のGTカーとは今、旧型フォルクスワーゲンゴルフの中古車である」と答えた。
いわゆるGTカーというセグメントではなく「実用コンパクト」とか、せいぜい「プレミアムコンパクト」というレッテルで語られることの多いフォルクスワーゲンゴルフだが、わたしのような庶民にとっては最高の「GTカー」でもあるのだ。特に2009年から2013年までの旧型の、中古車は。
なぜならば、まず第一にゴルフの走行安定性の高さは今さら説明するまでもなく、TSIエンジンで燃費も良好ゆえ、高速での長距離走行に向いている。そして居住性もまずまずと、これだけでも大辞林の「走行性と居住性にすぐれ、高速で長距離を走行できる乗用車」というGTカーの定義にばっちりハマるわけだが、より大切なのは「適度にボロい」ということだ。
まだまだ比較的新しい旧型ゴルフをつかまえて「ボロい」というと各方面から怒られそうだが、これは比較問題である。ピカピカすぎる1024万円のBMW640iグランクーペなどと比べれば、走行3万km前後で3年落ちぐらい、支払総額140万円前後で買えてしまう旧型ゴルフの中古車は、確かに適度にボロいのだ。
しかし、そこが逆に良いのだ。
あまりボロすぎる車でも困るが、適度にボロい車であれば、わたしのような者は前述の640iグランクーペの場合とは真逆のニュアンスで、
「……あと2000kmで走行距離が5万km台になっちゃうけど、まぁいいか!」
「跳ね石でキズ付くのは嫌だけど、ある意味仕方ないよね」
「あのちょっと狭い悪路を入って寄り道してみたいな……よし、行くか!」
と、自由闊達なる精神で大旅行=グランドツーリングを心底楽しむことができるわけだ。
「身の丈」「分相応」という言葉はせせこましいニュアンスがあるため使いたくないが、「自分にとってのベストは、必ずしも雑誌や評論家がベストだとしているモノとは限らない」ということは知っておいたほうが良い。まぁ今の時代、わたしが言わなくても皆さんすでにご存じでしょうが!
ということで今回のわたくしからのオススメは「GTカーとしての旧型VWゴルフ」だ。