▲7月15~20日、神奈川芸術劇場ホールで行われた小林賢太郎演劇作品「ノケモノノケモノ」横浜公演。筆者は初日を観に行き、そしてなぜか英国のモーガンとセブンが欲しくなった ▲7月15~20日、神奈川芸術劇場ホールで行われた小林賢太郎演劇作品「ノケモノノケモノ」横浜公演。筆者は初日を観に行き、そしてなぜか英国のモーガンとセブンが欲しくなった

小林賢太郎さんというのは「ラーメンズのモジャモジャじゃない方」です

過日、劇作家/パフォーミング・アーティストである小林賢太郎氏の演劇作品「ノケモノノケモノ」を観た。素晴らしい作品だったが、ここでお伝えしたいのは演劇ではなく小林賢太郎氏の「在り方」についてだ。

テレビなどの(今のところ)メインストリームとされている媒体にはあまり露出しないため、小林賢太郎といってもご存じないかもしれない。しかし「ラーメンズのモジャモジャじゃない方」とか「数年前アップルのテレビCMに出てた奇妙な2人組の、モジャモジャじゃない方」といえば、思い出す人もいるのではないか。最近では三井住友海上のテレビCMにも出演している。

そんな小林氏の在り方というか素晴らしさの根源は、「世間的に常識とされている手法を無視し、自分の美意識にのっとったことだけを頑なに続ける。それでいてポピュラリティもきちんと獲得する」という部分にある。

通常のコメディアンがリーチを獲得するためには、たぶん以下のような活動を行うのだろう。ライブで少々の人気が出たら、次は地方のラジオ局などを回って「オハヨーゴザイマス! ヨロシクオネガイシマース!」と局のPに頭を下げつつパブリシティに努める。それが効いて在京キー局のいい時間帯のテレビ放送に出演できるようになると、「テレビ向けのキャラで」「テレビ向けのネタを」「テレビ向きの尺で」展開する。

それが悪いこととは思わないが、小林氏のやり方はまったく異なる。とにかくひたすら「劇場」にこだわり、内容的にも尺的にもテレビでは放映しづらいパフォーマンスを、徹底的に練り上げたうえで披露する。要するに自分が好きなことを、好きなペースで、好き勝手にずーーーーっとやり続けているのだ。そういった生き方は多くの者が理想とするところではあるが、多くの者はそれを実行すると「結局全然注目されず餓死しちゃいました」となるので、仕方なく「オハヨーゴザイマス! ヨロシクオネガイシマース!」をやるわけだ。

その「ヨロシクオネガイシマース!」を非難するつもりなど毛頭ないが、「自分が好きなことを、好きなペースで、好き勝手にずーーーーっとやり続け」、そのうえで一定以上の評価を得るというのは、他者におもねりまくる「ヨロシクオネガイシマース!」と比べ格段に美しい。そういった美しさこそが、小林賢太郎氏の魅力なのだろう。

自分の「好き」を貫き通す、その偉大なる頑固っぷりに触れていたい

さて、自動車の世界を見渡してみても、世の中は「オハヨーゴザイマス! ヨロシクオネガイシマース!」だらけであることに誰もが気づく。ごく一部のモデルを除いて「作りたいからこれを作ったぜ!」というような車はほとんどなく、「ユーザー様のニーズにお応えしたうえで驚きの新機能を追加し、お求めやすい価格でご提供のほう、させていただきます」的な車ばかりだ。

しかし一般的なコメディアンを非難できないのと同様に、そういった車を非難することもできないだろう。それが商売であり、そもそもユーザーが「それ」を望んでいるのだ。しかし、そういった「オハヨーゴザイマス! ヨロシクオネガイシマース!」的な車にうんざりしてしまうことも、やはりある。「もっとこう、お前の“本当”を見せてくれよ!」と言いたくなるわけだ。

そんなときに注目したいセグメントの一つが、「昔からまっっっっったく変わらず“とにかくこれが作りたいし、自分としてはこれが最高だと思ってるから”というニュアンスで、頑固なメーカーが作り続けている頑固な車」だ。具体的には英国のモーガン・モーター・カンパニーが製造する各モデルと、同じく英国のケータハム・カーズが製造するケータハム・セブン、いわゆるスーパーセブンだ。

▲1936年からほぼ変わらないデザインで製造・販売されているモーガン4/4。ただ、もちろん現代の安全基準や環境基準に合った作りにはなっている ▲1936年からほぼ変わらないデザインで製造・販売されているモーガン4/4。ただ、もちろん現代の安全基準や環境基準に合った作りにはなっている

▲オリジナルの「ロータス・セブン」が登場したのは1957年。現在はケータハムカーズがロータス・カーズから生産権を引き継いで「ケータハム・セブン」を製造している ▲オリジナルの「ロータス・セブン」が登場したのは1957年。現在はケータハムカーズがロータス・カーズから生産権を引き継いで「ケータハム・セブン」を製造している

写真を見ていただれば一目瞭然だが、これらのモデルはほとんどシーラカンスである。往年のモデルと比べてもちろん細部は進化したり変更が加えられたりしているが、基本となる骨格や思想そのものは登場当初からほとんど変わっていない。両社の首脳にインタビューをしたことがあるわけでもないのであくまで勝手な想像だが、彼らは次のように考えているのだろう。

「変える必要ないし。だって俺たちこれがいいと思って、これこそが最高だと思って作ってるんだから、別に無理して変える必要なんてないでしょ?」

そんな塩梅でステキに頑固なモーガン各車とケータハム・セブンは、当然安価な車ではない。練りに練った小林賢太郎氏の舞台のチケット代が決して安価ではないのと同じことだ。しかし最近では200万円台から300万円台という、国産のちょっとした高級SUVを買うのとほぼ変わらない予算でモーガンとセブンのユーズドモデルを手に入れることもできる。

もちろん、普通にコンビニやイオンに乗って行ける車ではないため、万人にオススメするわけではない。しかし、もしもあなたがモーガンあるいはセブンと暮らそうと思えば暮らせる環境にあるのだとしたら、そして「ヨロシクオネガイシマース! な車にはもう飽きた」というのであれば、検討対象の一つにしてみる価値は大いにある。

ということで今回のわたしからのオススメ輸入車は「モーガン」と「ケータハム・セブン」だ。

text/伊達軍曹