孤独の高速グルメ~東名高速 中井PA(上り線)「中井麺宿」編
2015/12/26
最新のSAではなく、小規模PAで静かにメシを食いたいときもある
他人様の趣味嗜好にケチをつけるつもりはないが、個人的には最近流行りの「キレイで新しい大規模SA」がどうも苦手だ。トイレや情報案内板などが現代的に改修されるのは歓迎すべきことと思うが、高速道路をドライブするうえでの大きな楽しみのひとつである「メシの場」までもが画一的に大改修され、なんとなく「作られた狂騒」の中でメシを食っている気分になる昨今の風潮には、どうにも抵抗があるのだ。
個人的な嗜好にすぎない可能性もあるが、家族連れではなく1人で高速道路を走るなら、きらびやかでファンシーな最新の大規模SAではなく、ちょっとひなびた昭和風情が色濃く残る小規模なPAで井之頭五郎(ドラマおよびマンガ『孤独のグルメ』の主人公)を気取って静かに、しかし望外に美味い何かを見つけ出しつつ、命の源たる「メシ」を黙々と食したい……と、そう思うドライバー(特に筆者のようなおっさんドライバー)も多いのではないかと推測している。
そんな諸兄に紹介したい小規模PAのひとつが、東名高速の神奈川県足柄上郡にある中井PA(上り線)だ。
ある程度有名なPAゆえすでにご存じの方も多いかと思うが、中井PA(上り線)最大の特徴は「打ちたて、茹でたて」をキーワードとするうどん・そばの専門コーナー「中井麺宿」を擁している点である。で、その中井麺宿が提供するうどん・そばの味がなかなか素晴らしく、そして雰囲気も(筆者のようなおっさんドライバーにとっては)最高なのだ。
なんとなく江戸情緒を感じさせる店舗ののれんをくぐると、かつおと昆布をベースとするダシのいい香りが鼻をくすぐり、そして厨房内に数箇所ある大釜から上がっている盛大な湯気が、晩秋の冷気で凍えたドライバーの体を具体的にも雰囲気的にも温めてくれる。
オーダーはいわゆるセルフ方式。注文レーン入口でまずはトレイを受け取り、うどんまたはそばを各窓口で注文する。そして茹で上がったうどんまたはそばを受領したのち、好みに応じて各種天ぷらなどをピックアップしつつレーンを進み、最終的にレジで会計を済ませる。この日筆者が注文したのはきつねうどん(450円)と、中井麺宿の隠れた名物として知られる紅生姜天(110円)だ。
高速道路上で食える麺としてはかなり上位。マダムとのやりとりも嬉しい
まずはダシをひと口すすり、そしてうどんをいただく。ダシはやや甘めで醤油の色が薄い西日本風であり、昆布の香りとうま味が非常に利いている。西日本風とはいえ、神奈川県という場所柄ゆえか、西日本の人からするとダシの色がやや濃すぎると感じるかもしれない。しかし関東者の筆者としてはこのぐらいでちょうどいい。やや甘めのため七味を多めに振る。うむ、美味い。
うどん自体は讃岐地方のそれを意識した自家製麺とのことだが、ひたすらコシの強いタイプではなく、ふくよかでプリッとした食感の中に確かなコシが感じられるタイプ。大阪地方でいただくうどんのコシを増したタイプであると筆者には感じられた。小麦粉自体の甘みというかうま味のようなものもしっかり味わうことができる。さすがは「麺宿」。少なくとも高速道路のSA・PAで食すことのできるうどんとしてはかなりの上位レベルにあると個人的には断言したい。
うどんにおけるハイライトは「紅生姜天投入の儀」だ。最初からこれを投入するのもいいが、筆者の場合はまず3分の1ほどノーマル状態で食し、その後に紅生姜天を載せることにしている。これの投入と少々の撹拌によって、甘みがやや強かったダシにほんのりとした酸味と辛味が加わり、得も言われぬ「ちょうどいい感」が生まれるのだ。そしてもちろん、クリスピーな衣がダシに溶け込むことによるコク増大効果もある。いや、とにかく美味い! 最高だぜ紅生姜天!
あまりにも最高だったため、調子に乗ってそばも注文してしまった。
太麺である自家製麺うどんの場合は生状態から茹でると10分以上かかってしまうため、さすがに茹で上がっているものをオーダーごとに湯がいて提供するスタイルだが、こちらも自家製麺であるそばはオーダーが入ってから釜に投入される。ちなみにうどんとそばの茹で釜はそれぞれ別のものを使用しているため、蕎麦アレルギーや小麦粉アレルギーをお持ちの方も安心であろう。
なんつってるうちにそばは3分ほどで茹で上がり、係のマダムから「きのこそばのお客様~!」と大きな声で呼ばれる。最近の大規模SAでは無粋な呼び出しマシンのアラート音とバイブレーションで呼び出されるケースが多いが、やはりマダムの肉声に勝るものはないと個人的には思う。
さて、きつねうどんをいただいた後ではあるが、季節のきのこそば(650円)もいただこう。高速道路のSA・PAでは「うどんもそばも同じダシを使ってます」という店舗が多いが、ここ中井麺宿では「うどんはうどん用、そばはそば用のダシ」である。そば用のダシはかえし(醤油や砂糖などを混ぜたものをしばらく寝かせ、醤油の角が取れた味になっている調味料)がしっかりと利いた東京風で、ハッキリいってかなり美味い。
そして麺だ。SA・PA内で手軽に食えるそばというのは、筆者のような蕎麦っ食いからすると「ビジュアル的にはいちおうそばだが、味と香りはまったく別の何か」という場合も多いが、ここ中井麺宿のそれは紛うことなき「そば」である。蕎麦粉の重厚な香りと、熱々なダシの余熱にも負けないしっかりとしたコシと歯ごたえを食中もキープする、ニッポンのマジメなそばである。うむ、美味い。
うどんとそばをそれぞれ1杯ずついただき、食器の返却がてら、レジ付近にいた係のマダムに「いや、美味かったっすよ!」と声をかけると、マダムも「そうですか! ありがとうございます! またぜひいらしてくださいね、行ってらっしゃい!」と返してくれる。お昼時などの超混雑時はマダムもそこまでの余裕はないだろうが、比較的空いている時間帯であればこういったごく普通のリレーションシップを堪能できる点も、中井麺宿ならびに小規模PAの魅力であろう。
最後にデザートということで、表の売店でバニラのソフトクリーム(350円)を注文し、テラス席でのんびりいただく。余計な能書きのないシンプルなソフトクリームが普通に美味く、そして上々の天気もあって気分は最高である。
今日はうどんとそばを両方食べるという謎の行動に出てしまったため計1560円の昼食となったが、通常であればデザート(ソフトクリーム)込みでも1000円以下で収まるだろう。ひたすらに青い空と、次から次へとやってくる働く男たちのトラックや乗用車をテラスに座って眺めながら、わたしは「うむ、これでいいのだ」とつぶやいた。なんとなく俳優・松重 豊さんの声音を真似しながら。
【東名高速 中井PA(上り線)中井麺宿うどんそば専門コーナー】
営業時間:
[うどん]24時間
[そば]午前6時~午後10時
定休日:なし
※2015年12月7日時点の情報です。上記は変更される可能性があります。ご了承ください
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