【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】電気自動車の未来について(後編)
2021/05/01
みなさまごきげんよう。 フェルディナント・ヤマグチでございます。
西村編集長との電気自動車談義も佳境に入ってまいりました。
クリーンなイメージのある電気自動車は、移動手段以外にも災害が発生した際のバッテリー車としての活用も期待されています。
しかし、すべてを電気に頼るのではなく、エリアによる最適化を図った方がいいのではないかという考えもあります。
車の電動化、未来のモビリティーについての意見交換も今回が最終回です。
【前編・中編はこちら】
バーチャル空間が発達するほど移動欲が高まるのが人間だ!
これまで2回にわたり車の電動化がもたらす未来について話をしてきました。西村編集長がEVに大きな期待を寄せていることも伝わってきました。
なんか今回は僕ばかりベラベラしゃべってしまいすみません。
期待の大きさは分かったのですが、意地悪な言い方をするとEVに対して考えが甘い気もします。車の電動化はやらないとダメだし、自動車メーカーだけでなくみんなでEVを盛り上げよう! という感じがすごくする。
僕の立場と視点だと、車がただの移動手段だけでこのまま衰退させたり終わらせたくないというのが根底にあるんですよね。
そんな簡単に衰退しますかね。みんないろんなところに移動して遊びたいでしょう。
コロナ禍以降のリモートワークの流れもそうですが、人々の価値がどんどんバーチャルに移っていったときに、僕は人々の移動する総距離が未来永劫増えていくという気がしないんですよ。
本当にそうかな。私はめっちゃ移動していますよ。年を重ねるほど移動距離が延びています。
本当ですか?
本当です。もう、週末だろうが平日だろうが関係なくあちこち動いています。
さっきの言い方を少し変えるなら、「みんながどんどんより活発に移動していく気がしない」となるかと思うのですが、フェルさんはよりアクティブに動いているんだ。
だって、いろんなことがバーチャルで体験できたり、聞いたりできるようになったら、「これは面白そう! やってみなきゃ」ってならないですか? バーチャルだけで満足しちゃう人なんかいるのかな。
なるほど。それはあるかもしれない。
例えば、YouTubeを見て「3月下旬なのにまだこんなに雪があるの? すぐに行かなきゃ!」とか、「バイク楽しそう! この前、千葉にいったけれど、静岡に行ったらもっと楽しめそうだ」とか。バーチャルの世界で得たことがアクセルメーターになるんじゃないかな。
そういう人も多いと思います。
人にもよるだろうけれど、PCで見ているだけじゃどうにもならないじゃないですか。
車の役割でいくと、ヤマグチさんの話は"車の価値を上げにいく"、要は楽しみを得るための移動になると思います。
私はそのために車に乗っていますからね。
車が人々にとって必要な存在であり、楽しむための相棒であり、どう楽しむかに関しては僕も憂いてないです。ただ、通勤・通学や買い物など、日常の中だと今までよりたくさん移動することをポジティブに捉える人がどれだけいるかということも同時に考えています。
今はAmazonでなんでも注文できるから、わざわざ買い物に出かけるのは面倒と考えるのは理解できます。
そう。「興味はないけれど必要だから乗っています」ということについては良くても現状維持、悪ければどんどん減っていくだろうなと。
例えば、時計も正確な時刻を知るだけならスマホがあれば十分。車もそのようになっていくということですか?
僕は車を自分で運転して買い物に行く必要がなくなったときに、パーソナルスペースとして動かせるものなどいろいろな側面で車の価値を最大化させていきたいなと思っています。そのときにEVは比較的相性が良いのではないかと思うんですよね。
EVだけになるとか、EV化を加速させるということだけをゴールとするのではなく、ガソリン車では"なかった"発想がEVだと実現しやすいのではないかと。
家電もその性質を変え始めているのに、ただの工業製品として効率の良い・悪い、使いやすい・使いにくいという感覚で車がダメになってほしくないんです。
当たり前のようにエコなものを選ぶ若い世代が、未来を変えてくれるかも!?
白熱しているところにすみません。大津です。私も今回から担当になったので、参加させてもらっていいですか?
もちろんですよ。どんどん話に参加してきてください。
といっても私はまだ編集長のように詳しいことは分からないので、いくつか質問させてもらっていいですか?
いいですね。なんでも聞いてください。
先ほどEVを災害時のインフラとして活用するという話が出ていましたが、3.11の時を振り返ると、「まだガソリンスタンドに多くの車が列を作っている中で電気がいち早く復旧した」というのが印象に残っています。それを考えるとEVは災害に強いとも言えるのではないでしょうか。
電気は国家ですからね。日本は先進国の中でも本当に停電しない国ですから。そういう意味では安心なのですが……。
それがイコールでEVは素晴らしいとはならなそうですね。
電気網=EV網となるには時間がかかると思います。メリットがないからEVステーションを置く人がいないでしょう。例えば、コンビニだって本音では付けたくないですよね。駐車場に1台置くために数百万円かかるコストを回収するのにどれくらいかかるのか。国や都が設置するなら場所は貸しますよってところじゃないですかね。
やはり充電設備が自宅にないと難しい。
私はそう思います。
そうなると都市部では普及にはかなり時間がかかるのでしょうか。
そうですね。あとは充電設備が整った高級マンションに住むか。いずれにしても都市部に暮らす一般の人にまで普及するには時間がかかると思っています。
僕も誰もが気軽にEVに乗れる時代は先になると思います。例えば、僕らがファミレスに入ったらスマホを充電しようみたいな感覚で、駐車場に入ったら充電設備の取り合いをせずにいつでも充電できるようになり、EVの負の部分を払拭してメリットだけを享受できるようになれたら世の中は激変するでしょうね。
キャズムを超えるじゃないですが、最後にEVに乗り出す人は便利でしかないでしょうね。
問題はどこでその一線を越えられるか、です。
きっとその瞬間ではEVの良し悪しという議論はなくなっていて、私もEVのことをボロカスに言ったことなど忘れて普通に買っているでしょう。
EVは早く飛びつくほどメリットが見えにくく、デメリットが際立っています。先行者利益が分かりづらいのです。
台数が出ればインフラも整うし、バッテリーも安くなるから、レイトマジョリティーの方が断然お得。
何らかの先行者利益が見えれば、みんなある程度理解しながら動けるとは思うのですが……。
初期のPCは50万円とか、下手すると100万円とか、めちゃめちゃ高かったでしょう。とても一般人には買えない。でもその時に買っていた人たちは何かしらのメリットを享受していたはずです。とてもクリエーティブなものを作れたり、パソ通という独特なコミュニティーに参加できたり。
今と比べるとスペックは全然ですが、それでもPCを手に入れたことでいろいろなものが生まれましたね。一方で、今の20代後半、大津くらいの世代だと、同じものならエコを選ぶのが当たり前という感覚もあったりしますよ。
え? 大津さん、そういうものなの?
そういう意識はありますね。例えば、同じ食べ物でも少し高いくらいならエコな方を選んだりします。
コンビニでも賞味期限が短い方の牛乳を買おう。そういうことが普通にできるんです。どうせすぐ飲むのだから、廃棄されないように手前に並んだものを買おうって。
マジですか! 廃棄しないためにそこまでしているの?
いえ、えっと……。私も少しでも賞味期限が長い方を手に取っちゃいます(笑)。編集長、ごめんなさい。
さっきの”少し高くてもエコなものを買う”というのは、例えばどんなもの?
エコフレンドリーとか、フェアトレードとか、そういうお菓子や乳製品は少しでも生産者に還元じゃないですけどそういったものを購入します。
ファッションの世界などは特に敏感ですよね。例えば、エコレザーなどは本当にエコじゃないと”エコ”と名乗れない。利己主義じゃないですけど、己がもうかればいいという考えはアッパー層からは排除されています。投資の対象からもね。
確かに世界は、サステナブルかどうかが投資判断されるうえでの大きな要因になっていますね。
EVも、そういう流れの中で若い人たちの間で注目される存在になる可能性は十分あると思いますよ。
そうですね。私もその時代を見届けたいと思います。今日は長時間、ありがとうございました。
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。
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