Qi規格 ▲ここ数年で車載用としても普及しつつあるワイヤレス給電規格の「Qi(チー)」。写真は日産のBEV「アリア」のコンソールに備わるスマホ充電器

市民権を得たワイヤレス充電

今更ながら、切っても切れない関係なのが車とスマホ。ナビを始めとするインフォテインメントシステムとの連携が、純正システムを中心に日々進化していることは多くの人が感じているはずだ。

スマホは電子機器である以上、車内で使う際にも“充電”が必要だ。昨今の車には充電専用、またはシステムとの連携を可能にする「USB端子」が装着されている。また、充電だけであれば、アクセサリーソケットに挿入して使う充電プラグ類は数多く販売されている。それでも、いちいちスマホにケーブルを挿すこと自体がおっくうと感じている人もいるだろう。加えて、Bluetoothの進化により、音楽再生やハンズフリー通話、さらにApple「CarPlay」やGoogle「Android Auto」にもワイヤレス接続できるものが増えてきている。

そこで注目なのが、ここ数年で車載用として普及しつつあるワイヤレス給電規格の「Qi(チー)」である。NTTドコモではこれを「おくだけ充電」と称してビジネスを展開している。

Qi企画が車に採用されたのは、2012年12月にトヨタが北米向けの「アバロン」にオプション設定したのが最初といわれている。日本国内では、2013年1月に当時のプリウス(ZVW30系)にディーラーオプションとして設定したのが初だったが、この頃のQiは出力も低く、そもそも対応している携帯電話の種類も少なかったのでそれほどヒットしたわけではなかった。

それでもトヨタは先見の明があったのだろう、その後Qi規格を搭載したスマホが数多く発売され、業界的に日本市場では「Qi」「おサイフ」「防水防塵」が売れるスマホのマスト機能ともいわれるようになった。充電出力も向上することでQi規格の認知も進み、昨今販売される新型車だけでなく、サードパーティからも市販充電器が多く発売されている。
 

Qi規格 ▲日産 エクストレイルのQi充電トレイは前方に傾斜していることでブレーキ時などでもスマホが落ちにくい設計になっている
Qi規格 ▲話題のBEVであるBYD「ATTO 3」はQiの充電トレイの他、NFC規格によるスマートキーも標準装備。これらの規格が統一されるには時間がかかるが、先進性の高さは評価できる
Qi規格 ▲新型トヨタ クラウンクロスオーバーは、電制シフトノブ前端にあるスペースがQi充電フォルダ。縦型かつスマホをホールドする機構をもつので走行中でも安定して充電できる

搭載が増えているQi規格だが、車載という環境下ではちょっとした“弱点”を晒してしまっている。それは車載ゆえに充電器に置いた携帯電話が振動などで跳ねてしまい、結果として充電されていなかった、というケースが頻発したことだ。

この解決策として、やはりケーブル接続が必要なのか? と問われると「車種による」という条件は付くが、実はワイヤレスですべて対応できてしまう。

Qiの基本的構造は、充電器側に内蔵されるコイルから携帯電話側に電磁誘導で充電する。つまり、充電器側のコイル位置と携帯電話側(現在はほとんどがスマホで、ガラケーのQi対応は極めて少ない)のコイル位置が合わなければ設定された電力が供給されないということだ。頭では分かっていても、いざ車から降りてスマホを持ち出した際、ほとんど充電されていなかったときの精神的ダメージは結構大きい。ゆえに、最新モデルの場合、車両側にコイルを2つ付けたり、充電トレイが傾斜していたり、さらに新型トヨタ クラウンでは「縦置き」型を採用することでスマホの位置ズレを抑えるなど、各社あの手この手で対策を行っている。
 

その手があったか!? Appleの大逆襲!

Appleのマグセーフ規格による充電 ▲Appleのマグセーフ規格による充電。写真のようにAppleから認証を受けたサードパーティ製の商品も多い

そこに登場したのがAppleの「MagSafe(マグセーフ)」規格である。マグセーフ自体は元々MacBookなどのPC向けの規格であったが、2020年10月にiPhone12以降のモデルにワイヤレス給電のシステムとして別途開発し搭載された。マグセーフは基本的に「Qi」と考えが同じで、下位互換がある。簡単に言えば機種にもよるが、Qiを搭載するAndroid携帯でもマグセーフの充電器は使える。

マグセーフとQiの一番の違いはその名のとおり「マグ=マグネット」を使う点だ。iPhoneの背面にパチンと充電パッドがくっつくことで、前述した充電時の「ズレ」が発生しにくい。また、サードパーティ製の商品でも、マグネットを使うことでマグセーフ充電が行える機器が登場している。日本は世界でもApple商品のシェアが高いため、サードパーティの商品も多いのだ。

また、充電互換性はあるが本体にマグネットを持たないAndroid携帯の場合、サードパーティから登場している「充電リング(写真参照)」を使うことでマグセーフと同様の使い勝手を実現しており、これもまたAmazonなどのeコマースでよく売れている。

ひとつ注意しておきたいのは、電磁誘導を使って充電することで「リング自体」にも伝導した熱が発生すること。熱自体だが、商品によってはそれなりに高温になるので、手に持った際の「やけど」やスマホ本体の機器への影響も考慮しておく必要がある。
 

そして、さらなる「Qi」の進化

Qi規格 ▲Qi規格に対応するAndroid携帯(写真はGoogle Pixel 7 Pro)にサードパーティ製の「マグセーフ対応リング」を装着。この状態でしっかり充電が可能だ

しかし、このまま手をこまねいている「Qi」陣営ではない。2023年1月に開催されたCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)で新たな規格となる「Qi2(チーツー)」が発表された。

ざっくりと言えば「マグセーフ規格のQi版」であり、技術自体もApple側から供与されている。CESの会場でも、iPhoneだけでなくQi規格のAndroid携帯でも動作する、つまり高い互換性を有していることが報道されている。

もちろんマグネットが必要なこともあるので、Android携帯には本体に磁気プレートを組み込む必要はあり、これに対応するスマホもいずれ市場に出てくることは間違いない。

Qi2の最終仕様はまだ発表されていないが、早ければ2023年の第3四半期には対応機器が市場に投入されるはずだ。車載への搭載はその後になるが、スマホを使った「認証機能(デジタルキーなど)」の規格統一も考えられる他、インテリジェント機能への進化も期待できる。
 

文/高山正寛、写真/萩原文博、高山正寛、トヨタ、日産自動車
“高山正寛

カーコメンテーター、ITSエヴァンジェリスト

高山正寛

カーセンサー創刊直後から新車とカーAV記事を担当。途中5年間エンターテインメント業界に身を置いた後、1999年に独立。ITS Evangelist(カーナビ伝道師)の肩書で純正・市販・スマホアプリなどを日々テストし普及活動を行う。新車・中古車のバイヤーズ系と組織、人材面からのマーケティングを専門家と連携して行っている。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。認定CDRアナリスト&CDRテクニシャン。愛車はトヨタ プリウスPHV(ZVW52)とフィアット 500C