ついに「おサイフカー」の時代へ。ETCXへの期待と不安【いまどき・これからの車学】
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タグ: EDGEが効いている / 高山正寛 / c!
2022/05/21
当たり前になりつつあるETCの次の施策
もはや高速道路を含めた有料道路での利用率は90%を超え、装着が当たり前となっているETC(電子料金収受システム)。現在は、さらに機能を向上させた「ETC2.0」への普及促進が行われている。
これまで利便性を向上させるために「時間帯割引」や「スマートICの増設」などが実施されているが、社会実験なども含め、課題とされているのが「自動車専用道以外での活用法」。そこに登場したのが、新サービス「ETCX(イーティーシーエックス)」である。
ETCXは従来までの有料道路だけであった決済機能を、それ以外の場所でも使えるようにしようというサービスだ。これが普及すれば、車に乗ったまま、いざ支払いとなった際に慌ててサイフをカバンから出す、といった「車あるある」のようなことがない。“電子決済”なので、日常生活で電子マネーを使っている人ならばその便利さは理解できるのではないだろうか。
、ETCXを運用する「ETCソリューションズ」の資料によれば車の利用シーンにおける支払いの種類はかなり多く、有料道路はもちろん「ガソリンスタンド」「駐車場」「ドライブスルー」、そして今後増えていくであろう「EV(充電)スタンド」などへのサービス拡大も期待できる。
コストゼロですぐ使える
ETCXを使うための手続きだが、まず消費者(ドライバー)側はETCカードとクレジットカードを所有していれば、専用サイトへアクセスし会員登録することですぐに使うことができる(125cc以上、車載器を搭載した二輪車も対応)。
前述したETC2.0の普及が進まない理由のひとつに専用の車載器の価格自体が高い、という問題がある。既存のETCユーザーからすれば費用対効果を考えた場合、わざわざ高額の車載器に取り換える必要性を感じていないことは、販売現場でもよく聞く話しだ。しかしETCXの場合、これらの車載器変更などは一切不要であることからユーザー側のコスト増は基本ゼロである(年会費もない)。また、小さな有料道路を抱える地方自治体などにとっても、インフラの投資額が従来よりかなり安くできることで導入がしやすくなる。
これを実現したのが昨今では当たり前になりつつある「クラウド技術」だ。従来のETCはユーザー側は車載器、運用側は専用のアンテナなど高額な設備投資を必要としていたが、ETCXの場合はクラウドを使うことで大幅なコスト低減と導入の敷居を下げることができる。従来までのETCが「スタンドアロン型」なのに対し、ETCXは「ネットワーク型」でそもそも立ち位置や狙いが異なるのである。
使える場所が少ないなど、実用レベルにはまだ問題点も
ここまでだと良いことずくめに聞こえるが、これが実用レベルに行くまでは、実はまだ問題が多い。
まず第1に「使える施設が極めて少ない」。前述したETCソリューションズによれば、2024年までにETCXに対応した施設や店舗を約100ヵ所まで拡大し、将来的には全国で1万ヵ所の利用を目指すとのことだが、原稿執筆段階では全国で有料道路が5ヵ所、ガソリンスタンドが1カ所と極めて少ない。
関東圏では「アネスト岩田ターンパイク箱根(小田原料金所のみ)」1ヵ所と寂しい限りだが、ファーストフード店でも限定的に試用運行を行い(現在は終了)、今後につなげていくそう。導入自体は低コストで行えるので、今後に期待するしかなさそうだ。
第2の問題点としては従来のETCのように「素通り」できない点だ。従来のETCはゲート手前で十分な減速を促すが、停止する必要はない。しかしETCXの場合、料金所では「一旦停止」し係員(店舗ならレジ担当者)にETCXの利用であることを告げて決済を行った後に車を発進させなければならない。それでも冒頭に述べたように、いざ支払いというときに慌てることは減るし、コロナ禍において金銭の受け渡しにナーバスになっている人にとってもメリットがあるだろう。
そして盲点なのが第3の問題、「使えるクレジットカードの制限がある」ことだ。筆者もこのサービスに申し込もうとETCXのホームページを見て驚いた。自身が所有するクレジットカード(2社)のいずれも「利用不可」となっていたのだ。これに関しては時間が解決してくれるとは思いながらも、現状で国内において利用率や還元率が高いカードだったため少々拍子抜けしたのも事実だ。その点も申込時は確認をお忘れなく。
将来性には期待できるシステム
いろいろと越えねばならない問題も多いETCXだが、将来的には十分期待できるシステムであると感じている。
例えば、コインパーキングなどの有料駐車場。あの入庫時にチケットを取って出庫時にゲートでそれを差し込む行為は意外と面倒で、車を精算機に近づけすぎてタイヤ側面を傷つけた事例を何度も目撃している。また、今では当たり前になった電子マネーによるドライブスルーでの決済も、いちいち決済端末までスマホなどをもった手を伸ばす必要もなくなるだろう。
この他にも、今後はIoTの活用が増えている新築マンションにおいて、駐車場への入出庫をETCXで管理することで時間帯別の混雑状況の分析などスムーズな運用も可能になるはずだ。
つまり、ETCXは有料道路のみならず、車と決済、つまりおサイフケータイならぬ「おサイフカー」として幅広い領域で使える可能性を秘めている。だからこそ大事に育ててほしいし、新車/中古車を問わずすぐに使えるシステムとしての即効性にも期待している。
カーコメンテーター、ITSエヴァンジェリスト
高山正寛
カーセンサー創刊直後から新車とカーAV記事を担当。途中5年間エンターテインメント業界に身を置いた後、1999年に独立。ITS Evangelist(カーナビ伝道師)の肩書で純正・市販・スマホアプリなどを日々テストし普及活動を行う。新車・中古車のバイヤーズ系と組織、人材面からのマーケティングを専門家と連携して行っている。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。BOSCH認定CDRアナリスト。愛車はトヨタ プリウスPHV(ZVW35)とフィアット 500C