“パイオニア ▲音声AIを採用したNP1は、音声ナビ、ドライブレコーダー、Wi-Fi、そして機能拡張をOTAで行う“複合機”

現代版、車の“三種の神器”

いつの時代も「三種の神器」というものは存在する。代表的なものとして家電が取り上げられる機会が多いが、車の世界にももちろんある。

かつて筆者が免許取り立ての40年くらい前だと、クーラー(エアコンではない)、カセットデッキ、アルミホイールとされていたこともあったが、そもそも明確な定義自体はない。それでもここ数年はカーナビ、ETC、そしてドラレコが「新三種の神器」的に捉えられていることが多く、今回はこれらに的を絞って話を進める。

昨今のコロナ禍で自動車産業は生産、販売ともダメージを受けていることは今更説明の必要はないだろう。新車の生産が追いつかないことで、結果として中古車市場への車の流入も減っている。この2年ほどは買い得感の高い中古車物件の奪い合いは激しく、昨今の中古車選びは一層難しくなっている。

では、冒頭の“三種の神器”に関してはどうなのか?

半導体やハーネス類不足がこれらの機器に影響を及ぼしていることは間違いない。ただ、ドライブレコーダーに関して言えば、コロナ禍でも出荷台数は堅調。上半期で言えば、2020年比較でも約1.4倍も伸びており市場はまだまだ成長を続けている。

この影響下にある2月10日に、車載機器の大手であるパイオニアが全く新しい車載デバイス「NP1(エヌピーワン)」を発表した。ディスプレイをもたないカーナビ/前後(室内も)録画可能なドラレコ/車載Wi-Fi、これに通信モジュールやプラスαの機能をもたせた、いわゆる“複合機”的な商品である。複合機と聞いてすぐに連想するのはビジネス機器だろう。コピー/ファックス/スキャナ/プリンターなどの機能を1台に集約することで、省スペース化とともに業務効率を高めることができる。日本人はこういった複合商品が大好きである。過去にも小型化&高性能(高密度)化を売りにしてイノベーションを起こした商品はたくさんある。SONYの携帯音楽プレーヤーなどもその好例だろう。

実際、今回発売された「NP1」も前述した機能をコンパクトなボディに凝縮、日本の技術力を再認識させるデザインと機能を搭載している。
 

“パイオニア NP1 ▲音声のみで操作や案内を行う「スマート音声ナビ」により、目や手を使うことなくナビを使える
“パイオニア NP1 ▲オールインワン設計で、ドライブレコーダーなどと同様にフロントウインドウ上部に設置。暗い所でも撮影可能なセンサーを搭載した、前方と車内・後方用のカメラが備わる

全く新しい車載デバイスがもつ役割とは

「NP1」に関しては単純な車載用デバイスというだけでなく、その取り組み方に関しても注目が集まっている。

パイオニアは今回「Piomatix(パイオマティクス)」と呼ばれる新しいモビリティAIプラットフォームを開発し「NP1」に搭載した。クラウドを活用するこの仕組みのポイントは、これをベースにパートナー企業との成長(協業)を行える点だ。つまり、従来のような自社の技術サービスだけで完結させるのではなく、他の企業がもつ技術や強みをクラウド上で生かすことで、ドライブに有益なサービスの提供を行うことができる。

元々「NP1」には音声認識の分野で高い技術力をもつ「Cerence(セレンス)」、通信分野では「NTTドコモ」などの企業が技術パートナーとして参加している。これに、サービスパートナーとして駐車場サービスの「タイムズ」やグルメサービスの「Retty」などの連携がスタートしており、今後も決済やSNS、セキュリティや地方自治体も参入が予定されている。

つまり、このオープンプラットフォームを使うことで、従来までの単独活用していた車載デバイスの能力を単純な足し算ではなく、数倍に引き上げることも可能になる。また、パイオニア側は今回の取り組みに関して、音声インターフェースであるPiomatixの特性を生かし、四輪だけではなく二輪向けのプロダクトの開発も行っているという。
 

中古車を最新のモビリティに進化させる

「NP1」の個々の機能に関してはここでは割愛するが、前述したようにそれぞれ単品で高い機能をもつデバイスを“複合”することで、従来ではできなかったドライビング体験を提供してくれる。

そしてここがポイントなのだが、パイオニアは、国内の新車500万台というより国内保有台数800万台、さらに、世界の保有台数約15億台を見据えた市場をターゲットにしているとのこと(4輪のみ)。

これがどう動くかは今後の成り行きを見ていくしかないが、今回、短時間ながらテストをして感じたことは「中古車」にとって非常に適したデバイスであるということだ。

昨今の車は、カーナビを含めたインフォテインメントシステムを構築するために、最初からディスプレイの取り付け位置が確保されていたり、それ自体が最初から装着されているものが増えてきている。しかし、中古車の場合、特に旧車と呼ばれるような車などはそもそもそのようなスペース自体が存在しなかったり、加工を行うとしたらプロの手に委ねるしかなかったりする。もちろん「取り付け工賃」という費用も加わる。一方、その車のインテリア自体(デザイン)が気に入っているというケースも多く、筆者の周りでも後付けを嫌う人は多い。

「NP1」のメリットは、高機能に加え、ワンボディに前述した機能をパッケージングしている点だ。本体は、フロントウインドウに装着すればすべてが完結することで、インテリアのデザインを大きく阻害しない。また、前述した理由からも、それぞれの機器を単独で購入するより費用が抑えられる可能性も高い。その点でも、いわゆるオールインワン設計であることが、旧車などを含めた中古車には適している。もちろん、カーナビに関して言えば現在売れている専用機とは考え方も異なるので、比較自体がナンセンスなのかもしれないが。

しかし、音声のみとはいえ、実は専用アプリをスマホにインストールすることで地図画面やターンバイターン画面で使うことも可能だし、音声だからこその従来とは異なる手厚い案内もひとつの特徴と言える。

昨今の自動車業界における重要キーワードのひとつがOTA(オーバー・ジ・エア)だが、「NP1」自体もOTAにより進化する。そしてオープンプラットフォームの活用、クラウドとAI、デバイスを複合することで、今後のカーライフの可能性を大きく加速させるポテンシャルを秘めている。

そのような観点から「NP1」は優れた試金石であり、今後、他社が追随する可能性もある重要なトレンドになると注目している。何よりも中古車を最新のモビリティにアップデートできる点は、大きなメリットと言えるだろう。
 

パイオニア NP1 ▲専用アプリを用いることで、“スマホナビ”としても使用できる
文/高山正寛 写真/パイオニア、高山正寛
“高山正寛

カーコメンテーター、ITSエヴァンジェリスト

高山正寛

カーセンサー創刊直後から新車とカーAV記事を担当。途中5年間エンターテインメント業界に身を置いた後、1999年に独立。ITS Evangelist(カーナビ伝道師)の肩書で純正・市販・スマホアプリなどを日々テストし普及活動を行う。新車・中古車のバイヤーズ系と組織、人材面からのマーケティングを専門家と連携して行っている。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。BOSCH認定CDRアナリスト。愛車はトヨタ プリウスPHV(ZVW35)とフィアット 500C