【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】キャンピングカー界の新たな試みについて(後編)
2022/01/16
みなさまごきげんよう。 フェルディナント・ヤマグチでございます。
コロナ禍で気軽に移動を楽しめなくなって以降、キャンピングカーがブームになっています。
電車や飛行機での移動と違って、クルマなら他人と接触する機会が大幅に減りますし、しかもキャンピングカーなら宿泊施設で人と接することもありませんからね。
今ではさらに先へと進み、キャンピングカーが若者たちの“映え”アイテムになっているとか。
一方、キャンピングカーオーナーになっても、実際に旅に出られるのはせいぜい月に1~2回程度。ほとんどは駐車場に置きっぱなしのはずです。
それなら乗らない時は人に貸してしまおう。そんな発想からスタートしたのが『Carstay』のキャンピングカーシェアリングサービス。
どんな経緯で事業をスタートしたのか、どんなモデルが人気なのかをCEOの宮下さんに伺いました。
日本の秘境を旅したいツーリストのために、キャンピングカシェアリングを開始
さて、宮下さんにキャンピングカーを見せていただいたので、ここからはキャンピングカーのシェアリングサービスについてお話を伺えればと思います。
Carstayのサービスはキャンピングカーのカーシェアリング、つまり一般の人が所有しているクルマを仲介する形で一般人に貸す。レンタカーではないんですよね。
レンタカーを登録することもできますが、メインはシェアリングサービスになります。
そもそも今の事業は、どのような経緯でスタートしたのですか?
実は僕、もともとすごいクルマが好きとかアウトドアにハマっていたというわけではないんです。
そうなんですか?
アウトドア好きじゃないと、なかなかこの商売を始めようとは思わないよね。
よく言われます(笑)。でも本当にやってなかったです。どちらかというとインドア派で、マンガを読むのが好きでした。私は父の仕事の関係で7歳までロシアのモスクワに住んでいまして、その後はアメリカに留学しました。
また、両極端な国で過ごしましたね。
そうですね(笑)。私は海外で暮らしている時に現地の方々にものすごくお世話になったので、日本に帰ったら海外からやって来る人に恩返しができないかと考えていました。どんなことをすれば喜んでもらえるかと考えた時、日本ならではの体験をプレゼントしたいと思ったのです。
日本ならではの体験。それは具体的にどういうことですか?
大学卒業後は会計事務所で働いていたので、最初はいわゆるツアーガイド的な立場で週末に日本の観光地を案内したりしていました。
それは友達を案内していたのですか?
最初は友達や、さらにその友達という感じでした。ところがだんだん案内を希望される方が増えてきたので、会計事務所を辞めてNPO法人を立ち上げました。
会計事務所をスパッと辞めちゃうなんてもったいないですね。ご家族は反対されませんでしたか?
いろいろ言われました(笑)。ただ、私は会計事務所で起業家支援などもやっていたので、いつか自分もベンチャーの道に行きたいと思っていました。でも、ビジネスのアイデアがあるわけではなかったので、悶々としていましたね。
そんな時に観光案内の需要が伸びてきたので、独立したと。
というよりも、その時は“自分探しの旅”に出る感覚でした。スタートアップのアイデアもなかったので、やりたいことを探そうと。
それは何歳の時ですか?
NPOをやっていたのは24歳から26歳ですね。
え? 宮下さん、今は何歳ですか?
29歳です。
すごいな。優秀すぎる。
で、海外の方に日本を案内していると、日本が初めてという人はいわゆる王道の観光地に行きたがります。ですが、2回目、3回目になると、「なるべく観光客がいないところに行きたい」とリクエストするのです。でも当時は日本を旅する外国人がたくさんいたので、どこに行っても観光客がいるわけです。
それはそうですね。観光地によっては日本人より海外の人が多かったりしたから。
彼らのリクエストに応えるためには、本当の秘境やものすごい田舎に行く必要がありました。でも、そういう場所は交通手段がすごく不便だったり、宿泊できる場所がほとんどなかったりします。
観光地じゃない場所に宿を作っても、商売にならないですからね。
でも、彼らは観光地じゃない場所ほど行きたがる。そんな時に、彼らのためにキャンピングカーを用意したら需要があるのではないかと感じたのです。
運転はツーリストが自分でするのですか?
はい。運転自体は問題ないのですが、海外からの旅行者に貸してくれるレンタカーは意外と少ないんですよ。ナビも日本語だったりしますし。
その事業がスタートしたのはいつ頃ですか?
2016年の8月です。当時はまだ今ほどキャンピングカーブームではなかったので、日本人は「キャンピングカーなんて誰が乗るの?」という感じでした。でも、外国の方々からは好評でした。
ところが、このコロナ禍で海外から観光客が来られなくなった。そんな時に今度は日本人の間でキャンピングカーブームが訪れたと。
おっしゃるとおりです。
ところで、観光客などに貸すキャンピングカーは、登録しているオーナーさんの持ち物ですよね。保険などはどうなるのですか?
このようなサービスに対応できる自動車保険がなかったので、三井住友海上さんとゼロから作りました。
そんなことできるんだ! 宮下さん、すごい根性だな。
なので、個人のキャンピングカーを他の人に貸せるようなプラットフォームを最初に構築したのは我々になります。
クルマと一緒に遊び道具もレンタルして、キャンプの可能性を広げよう
Carstayに登録されているのはどのような人が多いのですか?
最初はいわゆるアウトドアが好きで、キャンピングカーに憧れて手に入れたという方が多かったです。多くの方はキャンピングカーを手に入れても年間340から350日くらいは乗っていないんです。すると家族から「せっかく買ったのに、全然使わないでどうするの!」という意見が出てくるそうです。
そりゃそうだ。軽キャンパーやハイエースベースのバンコンならまだしも、キャブコンだと「ちょっとそこまで買い物に」というわけにはいかないですよ。
そもそも自宅の駐車場に止められなくて、他県に止めるスペースを借りている人もいますからね。
そんな時に我々のサービスを目に留めていただいて、REIT(不動産投資信託証券)のような感覚で「これなら利回りもいいんじゃないか」と思っていただけてご登録いただいた感じでした。
やっぱりトラックベースのキャブコンだと、運転する際にハイエースより一段ハードルが高くなるのかな。
そうですね。あとは軽キャンパーの稼働も高いです。全般的に小さい方が人気があります。
軽キャンパーも外国の方が借りるのですか? 彼らは軽自動車にどんなリアクションをするのだろう。
軽キャンパーは日本の若いカップルの需要が高いです。キャンピングカーというより遊びに行くための普通のレンタカー感覚で利用している人が多い印象です。
軽でも1泊くらいなら狭さを感じないでしょうね。ポップアップルーフが付いていたらなおさら。
ポップアップルーフ付きは人気がありますよ。
車内をウッディにしたり、ミリタリーテイストでカスタムしたキャンピングカーも人気がありそう。
今のキャンプブームはある意味コロナ禍がきっかけかもしれないけれど、コロナが収束してもブームが去ることはないでしょうからね。
最近は、キャンピングカーだけでなくキャンプギアも一緒に貸し出すというサービスも始めています。というのも、多くのオーナーさんはキャンピングカーにキャンプ道具を積みっぱなしにしているんです。すると、貸し出すたびに降ろすのが面倒だから、一緒に貸せないかという声が結構増えたんです。
利用する人もクルマだけでなく道具もあればキャンプ場での楽しみ方が広がるからいいですよね。それこそ手ぶらでキャンプを楽しむこともできる。
で、我々はキャンプ道具だけでなくいろんな遊び道具が積んであるプランを考えています。例えば、小型カメラがあれば旅の様子を撮影できるし、DJ機材があれば仲間とキャンプ場でプチフェスを開催できます。テントサウナがあれば、大自然でサウナを楽しめる。
最高じゃないですか。宮下さん、この仕事をやっていて面白いでしょう。
楽しいですねえ。会計事務所に勤務していた頃には味わえなかった楽しさがあります。
私も最近ハイエースを買って、たまに息子と車中泊でキャンプに出かけるようになりました。これまでキャンプなんて興味がなかったけれど、いざやってみるとこれがなかなか楽しい。世間の人がキャンプに夢中になる気持ちが少しわかってきました。
そこにキャンピングカーがあれば、これまでにない非日常を体験できますしね。それを気軽に楽しめる仕組みが生まれた。これからのアウトドアは面白くなると思いますよ。
ですね。ところで宮下さん、後でどんなキャンピングカーなら利回り良く貸せるか、詳しく教えてください(笑)。
(オフィスまでお邪魔してとても勉強になる回でした! カーステイ編はこれにて終了。次回もお楽しみに!)
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。