“新インフォテインメントシステム” ▲Googleマップを使ったナビゲーション。普段スマホで見ている画面と基本は同じだが、縦長表示にすることでその先の交通状況がわかるなどメリットは多い

呼び名はない……遂に姿を見せたGoogleの「新インフォテインメントシステム」

9月1日に発表・発売を開始したボルボ XC60のマイナーチェンジモデル。パワートレーン系の変更はなく、外観の意匠変更とADAS(先進運転支援システム)の機能追加など、パッと見の変化は少なく感じる。

しかし、同日に発表・発売開始したS90、V90、V90クロスカントリーにも搭載されたIT界の巨人であるGoogleとの共同開発による「新インフォテインメントシステム」こそが、今回最大のセールスポイントであり、今後の世界におけるこの領域の覇権を握るかもしれないシステムとして注目されている。

カーナビやAV機能を統合して操作できる車載インフォテインメントシステム、これまでボルボは「SENSUS(センサス)」という呼称でビジネスを展開してきた。しかし、今回は「新インフォテインメントシステム」と特別に決まった呼称はない。
 

“ボルボ ▲マイナーチェンジを受けたXC60。エクステリアではフロント側のバンバーの意匠変更、リア側はマフラーを隠すデザインとなっている
“ボルボ ▲インテリアの基本造形はほぼ変わらないが、パドルシフトやドライブモードを切り替えるセンターコンソール上のスイッチを廃止するなどよりシンプルに仕上げている
“ボルボ ▲インフォテインメントシステムとともに大きく変わったのがフル液晶によるドライバー・ディスプレイ。サイズも12.3インチと大きく、ナビの地図画面なども表示することで視線移動を抑えることもできる

今回の新システムは、元々2017年5月にボルボとGoogleが共同で開発した「Android Automotive OS」に端を発する。「Android」と聞くと、車載の世界では「CarPlay」と並ぶGoogleの「Android Auto」が有名だが、これらはスマホなどの携帯端末を対応システムに接続することで能力を発揮するのに対し、ボルボ車に搭載される新システムはシステム自体をAndroid化したもの。

もう少しわかりやすく言えば、スマホに組み込まれていたOS自体を車載器側に組み込むことで、情報取得に際してはスマホ不要でGoogleの多彩なサービスがワンストップで活用できることになる。
 

一体どんなシステムなのか?

新インフォテインメントシステム ▲Googleマップを使うことで常に最新の地図に更新される点は大きなメリットと言える

前述したように、新システムはGoogleが世界で提供する各種サービスを車内で使える点にある。元々グローバルではXC40のBEV、ポールスターⅡに続いて、XC60と90シリーズの順で発売していたが、日本に関しては前2車は未導入。この原稿を書いている間に発表されたC40にも同等のシステムが組み込まれているが、日本市場においてはBEVに関してはC40、インフォテインメントシステムに関してはXC60などから最初に導入させることで、ビジネス上のインパクトやマーケティングを成立させる狙いがあるのだろう。

システムに関しては、9インチのセンターディスプレイは従来までと変わらない。しかし、中身は全くのブランニューである。

IHU(インフォメーションヘッドユニット)4.0と呼ばれるシステムは、基本OSをAndroidで開発されており、CPUは2.4GHzのクアッドコア、これに3Dコアグラフィックス処理を可能にするためのGPUを搭載する。

また、スマホの性能を比較する際に語られるRAMの容量は4GB、各種データを格納するROMの容量は128GBと、現在のミドルクラスのスマホと同等の性能をもつ。

操作に関してはディスプレイへのタッチ、またはステアリンスイッチでも可能だが、運転中でも音声で操作できるように専用のUIで構成されている点も、安全性を重視するボルボならではのこだわりと言えるだろう。
 

新インフォテインメントシステム ▲音声によるいわゆる「Google検索」を車内で活用できる。周辺のEV用充電スタンドも一発で検索できた

同時に待望の通信機能を搭載

Googleを使う=携帯電話のように使える、となると、必需なのが通信機能である。前述したように、このシステムは携帯電話を接続しなくても(ただし、音声通話は自分の携帯を接続する必要あり)使えることが前提だ。

各メーカーがインフォテインメントシステムのために独自の通信モジュールや料金プランを採用している中、失礼ながらボルボも「やっと」テレマティクスサービスに対応した。

「Volvo Cars app(ボルボ・カーズ・アプリ)」と呼ばれるサービスは4G通信用モジュールを搭載し、
①緊急通報サービス
②故障通報サービス
③盗難車両検索機能
④ドライビング・ジャーナル(ドライブログ自動作成機能)
⑤ビークルダッシュボードモニター(車両情報確認機能)
⑥リモートドアロックおよびアンロック機能
⑦エンジンリモートスタート
の機能に対応する。

①と②に関しては、新車登録時から15年間、それ以外は4年間無料で使える。また、それ以降に関しては有償となるが、具体的な料金などはまだ決まっておらず「サブスクリプションを活用しベストな料金体系を目指す」と言っている。

また、③と④に関しては、2022年度中に順次利用可能となるそうだが、これらに関しては昨今話題のOTA(オーバー・ジ・エアー)により、携帯電話と同様にアップデートで対応するはず。ゆえに新システムと通信はセットの関係なのである。

そして前述したように、本体内に大容量メモリーを搭載することで、万が一通信圏外でも地図データ自体を格納、オフラインも使えるハイブリッドナビとなっている点もポイントと言える。
 

Google Playストアからアプリをインストール可能

新インフォテインメントシステム ▲Google Playからアプリをダウンロードできることでコンテンツの量・質とも圧倒的に増えた。対応する音楽系のストリーミングサービスも利用できる

カーナビに関しては「Googleマップ」を、アプリやサービスに関しては「Googleアシスタント」をベースに音声による直感的な操作や圧倒的に検索能力が活用できる点は大きなアドバンテージだが、さらにプラスして、Androidスマホではお馴染みの「Google Playストア」からアプリをインストールして活用できる点が大きい。

ただ、すべてのアプリが使えるわけではなく、例えば今回試乗した段階では「YouTube Musicは使えるが、YouTube(動画)は使えない」などの制約は発生する(通信量の問題もあるはず)。

それでも、「Spotify」も含めたエンタメ系アプリが使える点は魅力的だし、今後は対応するアプリがさらに増えてくることは間違いないだろう。
 

まだまだ発展途上だが……

今回、XC60に試乗する機会に恵まれたが「OK Google」でも「Hey Google」でも発話認識を開始、前述した音楽再生やメッセージの送信、ナビにおける目的地検索→設定、エアコンの温度調節なども可能、また昨今GoogleやAmazonなどが積極的に展開しているスマートホームデバイスとの連携も可能としている。

自宅に対応する機器を設置しておけば、車内から家電を操作しエアコンや電気のスイッチを入れておくこともできる。

ただ、この音声認識自体が現状ではまだ日本語を受け付けていないという問題がある。これに関して日本法人は「2022年1Q(初頭)には対応する」と言っているが、現在のIoTの開発スピードからコミットメントは達成できると予想する。これも前述したOTAによるアップデートを活用することで、スムーズな対応が期待できる。

それでも、実際(拙い英語力)で発話をしても認識精度は高く、「Tokyo Station(東京駅)」と発話すれば、検索からルート探索まで短時間かつスムーズに行ってくれたことは捕捉しておく。

ルートの品質に関しても現状及第点は与えられるが、専用機に比べると所々に「Googleマップの悪い癖=マニアックなルートを案内しずぎる」が見受けられるが、何よりもビッグデータを活用することで精度を上げてきたGoogleマップゆえに、この部分も時間が解決してくれると期待している。
 

気になる中古車&販売の問題はあるか?

今回新システムが導入されたのは、冒頭で述べた車種と11月18日に発表された「C40」。順次、他モデルにも導入されるだろうが、現状は未定。つまり現在販売店に行くと、新システムと従来型の「SENSUS」が混同されて販売されるというややわかりづらい構図となっている点は気になる部分だ。

そして、中古車にも何らかの形で影響は出てくるはずだ。原稿執筆時にカーセンサーEDGE.netに掲載されているXC60の中古車物件台数は230台前後、平均価格は560万円と徐々にこなれてきてはいるが、人気のプレミアムSUVということもあり、それでも高値安定型である。

新インフォテイメントシステムが入ったから中古車相場がいきなり下落するとは思えないし、日本法人で最も売れているボルボ車であるXC60に関しては、「B5インスクリプション」が全体の60~65%近くの販売比率を誇っており、中古車との価格差が少なければ、将来にわたって進化が期待できる新型を購入した方が最終的にはリセールバリューも期待できる。

ボルボ・カー・ジャパンもその部分は考えているだろうが、まだ中古車に関する施策は出ていない。根本的に新システムとSENSUSには互換性はまったくなく、システム自体を載せ替えることも不可能だ。つまり、今後はこのシステムを一気に展開し加速することは間違いないし、Googleがインフォテインメント領域の覇権を握るかもしれないという予測もある。

そうなると、日本独自に開発されてきたテレマティクスサービスが「ガラパゴス」にならないか心配な部分もある。

Googleの新サービスは始まったばかりゆえに、まだ完璧とは言いがたいが、得意のビッグデータを活用し、サービスを展開する国ごとに最適化されたUIや新しいUX(ユーザー体験)も展開してくるはずだ。

その点でも企業としてフットワークが軽く、決断が早かったボルボは“先見の明”があったということだろう。
 

“ボルボ ▲11月18日に発表されたばかりの、日本におけるボルボ初のピュアEVである「C40」。新インフォテインメントシステムもBEV向けの専用機能も搭載する
文/高山正寛 写真/萩原文博、ボルボ・カー・ジャパン

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