【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】アウトドアシーンの盛り上がりについて(前編)
2021/09/10
みなさまごきげんよう。 フェルディナント・ヤマグチでございます。
アウトドアを楽しむ様々なレジャーが盛り上がっています。不肖フェルも、昨年二輪免許を取得してオフロードバイクを始めまして、コーチに付いて毎週ドロンコになりながら練習しております。この年になっても徐々に上達していくのでとても楽しいです。
さて、アウトドアの中でも多くの人が楽しんでいるレジャーといえば何といってもキャンプでしょう。
数年前からキャンプは大ブームで、コロナ禍以降は密を避けて遊びましょう、と多くの人がキャンプ場に訪れ、逆にそっちの方が密じゃないの? という何ともビミョーな状態になっています。
コロナ禍以降のアウトドアはどのような形で盛り上がっているのか、どのようなアウトドアグッズが売れているのか、アウトドアブームで中古車の人気も変わっているのか。
今回は東京にある『A PIT AUTOBACS SHINONOME』まで足を運び、スタッフの方々の話も伺いながら、西村編集長とアウトドアシーンの盛り上がりについて話をしていきましょう。
コロナ禍でキャンプデビューした人が大幅に増加
フェルさん、今回のテーマは『アウトドア』です。
いいですね。私は今、オフロードバイクにハマっていて、トランスポーターとしてハイエースを購入したところです。これからいろいろな道具を揃えていこうと思っているのでとても興味があります。
僕も家族を連れてアウトドアを楽しんだりしますが、今は本当にすごいブームです。
コロナの影響でその勢いにますます拍車がかかった感じですね。私もバイクを楽しむようになったので、肌で感じています。
例えば、郊外に住んでいる人だと休日は地元のショッピングセンターに家族で行くと、丸1日楽しめたりしていました。
郊外型のモールは買い物をしなくたって楽しめる、憩いの場ですね。
ところが、コロナ禍で人が大勢集まる室内に行きづらくなった。世の中の情勢が大きく変わった中で、ある種の免罪符的に「大きな公園なら、自然の中なら大丈夫」という心理もあるのだと思います。とはいっても、本当にどれくらい流行っているのか、誰がどんなことをやっているのかというのはイマイチはっきりしないんですよね。
数値的に出ているものではないですからね。
日本RV協会が毎年発行している『キャンピングカー白書2021』によると、キャンピンングカーの保有台数はこの10年伸び続けています。また、日本オートキャンプ協会が発行している『オートキャンプ白書2021―コロナ禍でキャンプ再発見-』を見てみると、2020年に1回以上キャンプをした人の数は30%減でしたが、キャンプ経験1年というビギナーの数はかなり増えています。
コロナ禍でキャンプ場に足を運ぶのを自粛した人も多かったけれど、逆に旅行などが楽しみづらくなったからキャンプを始めた人が多かった、ということですね。
そうなるとアウトドアグッズの売り上げが伸びていることもうなずけます。
私は中学から大学まで、山登りをしていたんですよ。中学ですでに丹沢の全山を制覇しました。
意外だな。フェルさん、確か虫とかが嫌いと言っていませんでしたっけ(笑)。ワンダーフォーゲル部だったのですか?
完全に個人で行っていました。中3の時は友人と2人で奥穂高を登りました。その友人は今、PUMPというフリークライミングジムを経営しています。
すごいですね。
僕が登っていた丹沢にはキャンプ場もあります。当時山をやっていた人間は、どこかキャンパーをバカにしている部分がありましたね。「何もしないで泊まってカレー作って帰って、何が楽しいの?」なんてね。どうも私にはその感覚が今でも残っていて、今のアウトドアブームを冷ややかに見ている部分があるんですよ。
キャンプをしている人たちは流行で楽しんでいるんだろ? という感じですか?
そう。それで「何だしゃらくせえ」という思いで見ていた部分があるんです。でも、実際はブームに乗り遅れちゃって、今更やるのは恥ずかしい……というところもあるんです(苦笑)。
今はソロキャンプも流行っています。仲間とキャンプに行ってもみんなでワイワイ楽しむのではなくおのおのが好きに過ごして、夜、飲みの時間だけ集まったり。
それはソロキャンプなの?
おのおのがキャンプ場に勝手に来て勝手に帰る。1泊だけ楽しむ人もいれば何日も連泊している人もいる。十分ソロキャンプだと思いますよ。中にはSNSを見て、誰かいるみたいだから自分も行くか、みたいなことをやっていたりもするようです。
そういうユルいノリは私のようなおじさんには衝撃的です。というのもキャンプのような場面だとオッサン同士の間には“道具ヒエラルキー”が発生しがちです。
なんですか? 道具ヒエラルキーって。
ソロキャンプを楽しむ人たちの輪に入っても、すごい道具を持った人がいるとシュンとしてしまう。今はそういうものがなくなっているのかな。
あることはありますが、若い世代になるほどなくなっていると思います。
キャンプに限らず、オッサンは今でも道具でマウントを取る人がいますよね。
若者は自分が心地よい道具を選びます
これは世間で言われる“若者のクルマ離れ”にも近い現象だと思います。昔はクルマの中に絶対的な存在があり、そこが中心でした。
スーパーカーとか、国産車だとスカイラインGT-Rとか。
そうです。で、他の人たちはそこに吸い寄せられるように集まっていました。でも、今の若い子たちにはクルマや道具に対するヒエラルキーがありません。すると、かつて多くの人たちが吸い寄せられていた場所に集まらなくなります。
それで多くの人が集まっていた時代を知るオッサンは、「若者が離れている」と感じるわけですね。
でも、実は若い子たちは彼らの価値観で別のコミュニティを作っていたり、もっと言えばおのおのが好き勝手にくっついたり離れたりしている。自分の居心地のいい場所を見つけて好きな時だけそこに存在しているという感じなんですよ。
そもそも集まったつもりもなければ離れたという意識もない。すごいな、これが令和か。
そう。だからキャンプでもフェルさんや僕から見ると理解できないような楽しみ方をしているように見えますが、彼らにとってはごく自然なことです。道具も高いからすごい、人気があるから手に入れるではなく、自分がどこに良さを見いだしたかが大切だったりします。
「あいつ、俺より下だ」とかは考えないのですか?
そういった子はあんまりいないかもしれませんねえ。
私はついつい比べちゃいますね。古き悪しき時代のオッサンの典型だ。ブランド側の思うつぼです(笑)。
僕は“オフィシャル” という言葉に弱いかな(笑)。アウトドアとは別ですが、若い子たちの間でDIYファッションが流行しています、我々のブランド、公式に弱いってのと対極にある点で、クルマ離れラベルが付くのと同じイメージだと思っています。
今までの話を聞いていると、自動車メーカーにとってもアウトドアメーカーにとっても由々しき事態ですよね。メーカーが売りたいものを買ってもらえなくなる。
マスマーケティングは極めて難しい世の中になりましたね。
個人個人の満足度を高めることを目指しながらも、それが実はマスである状態を作らないととくに大手は立ち行かなくなります。
我々から見るとSNSって個人の情報を発信するプラットフォームであり、自分が投稿したり、友人の情報を見るものという感覚ですよね。
はい。私もFacebookやInstagramによく書き込んでいます。
でも今、若い子たちにとってSNSは検索ツールになっています。Googleでキャンプ道具を調べるのではなく、Instagramを検索して「この人、自分の感覚に合うな」という人が使っている道具を手に入れたりしているんですよ。
本当に? 大津さんもGoogleを使わないの?
仕事の調べ物をするときはGoogleを使いますが、プライベートではInstagramとかを使うことの方が多いです。
何を調べるわけ?
何でも調べますよ。食べ物とかカフェとか。本の感想などを知りたいときもInstagramやTwitter、YouTubeで検索してみて、同じ考えをもっている人などを見ることも多いです。
ちなみにフェルさんは、SNSにアップする際にハッシュタグを使いますか?
若者ぶっている感じがするので使いません。でも、たまに10個くらい付けている人もいますよね。ちょっと恥ずかしいかな……。
全然恥ずかしくないですよ。情報を探している人がハッシュタグきっかけで欲しい情報のもとにたどり着けることもありますよ。
きっと承認欲求の角度が違うのでしょうね。私は身内の賞賛が欲しいのかな。
キャンプを楽しむときも、当日誰が何人で何時に来るかわからないというのはフェルさんや僕にとっては信じられません。
意味がわからないです。全然知らない人が来る可能性だってあるわけでしょう?
あるでしょうね。でも、彼らは「知らない人と予期せぬ形でいいシナジーが生まれたら最高!」なんておおらかに考えるのでしょう。
なるほど。デジタルネイティブがネット上で行っていたことが自然にリアルの世界に降りてきている感じですね。そんな彼らがクルマやキャンプ道具をどのように選んでいるのか興味が湧いてきました。
そうですね。次回からA PIT AUTOBACS SHINONOMEの方にも参加していただき、そのあたりをひもといていきましょう!
(次回は本連載では久しぶりに、ゲストに登場していただきます。お楽しみに!)
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。